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名前あそび  作者: 一奏懸命
第2章 通知します
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第17話 最高料金


「危ない!」

 圭一が夏哉に覆いかぶさる。椅子が宙を舞い、黒板のちょうど上辺りに掛かっていた掛け時計を直撃した。掛け時計がひん曲がり、床に落下する。

「外へ出なさい!」

 吾郷の呼びかけにパニックになりながら教室から飛び出そうとする生徒たち。

「開かない!」

 血相を変えて真っ先に飛び出そうとしたあずさが、ドアを引っ張っても開かないことに気づいて大声を上げた。

「そんなハズねぇだろ! さっき、和彦のお母さんとこのお坊さん入ってきたのに!」

 あずさを突き飛ばして、創佑がドアを引こうとした。

「ぎゃっ!」

 見れば、ザックリと創佑の手のひらが裂けて出血しているではないか。

「ド、ドアが刃物みたいに……!」

「危ない!」

 ガィン!と音がしてドアが閉まる。

「きゃあああああああああああ!」

 徹子目がけて机が飛んできた。

「とにかく、なんとかして飛来物をよけなさい!」

 吾郷が必死に生徒たちにそう叫んだ。

 異変は職員室にいる翔一たちにもすぐに伝わっていた。周りの教室にいたクラスメイトたちから、次々と連絡が入っていたからだ。しかし、翔一が駆けつけても完全に封鎖された教室には入ることすらできなかった。

「先生! 先生~! 助けてぇ!」

 ガラス越しに見える素華。どこかで切ったのか、頬から出血していた。

「六地蔵!」

「きゃあああああああああああああああ!」

「危ない! 離れなさい!」

 机が窓ガラスを突き破ってきた。轟音とともに窓枠もろとも吹き飛んでしまう。他クラスの生徒が悲鳴をあげた。

「開いた……開いたぞ!」

 翔一の声に室内にいた生徒たちは全員が唯一開いた窓に殺到する。

「押すな! 落ち着け、一人ずつだ!」

 翔一は必死でケガをした素華を先に引っ張り出そうとした。しかし、すぐに翔一の体が浮いたかと思うと、素華の手がスルリと離れた。

 そのまま翔一の体は壁に叩きつけられた。

「ゲホッ!」

「先生! 先生~!」

 素華が悲鳴に近い声で翔一を呼ぶ。翔一はあまりの衝撃で気を失っていた。

「とにかくここから出るぞ! 順番だ!」

 吾郷が素華を持ち上げて廊下へ放り投げるような感じで彼女を押し出した。その後、知里、徹子、利香、あずさの順番で女子を全員外へ押し出していく。

「男子だ! 急ぎなさい!」

「俺が先だぞ!」

 和彦が充太や翔太たちを突き飛ばして外へ出ようとした瞬間だった。フワリとそのまま和彦の体が宙に浮いたのだ。

「きゃあああああああ! カズ、カズ!」

 和彦の母が慌てて和彦の足を引く。しかし、すぐに彼女も突き飛ばされて壁に激突し、意識を失った。

「グアアアアアアアアアアア! あああああああがががががあああああああ!」

 メギメギと嫌な音を立てて、和彦の首に何かが締め付けられる音が充太たちの耳に響き渡った。

「か、和彦!」

 龍輔が慌てて和彦の足を母親と同じように引っ張った。しかし、彼女と違い龍輔はズバッ!と激しい音とともに胸の辺りを何か鋭利なもので切られたような傷ができ、あっという間に血を噴き出し始めたのだ。

「うあああああああああああああああああああああああああ!」

 血をまともに浴びた圭一が失神した。

「あああああ! い、痛いぃいいいいいぃぃあああああああああああああああ!」

 龍輔が絶叫して胸を抱えている。

「おい! 急いで彼を連れ出すんだ!」

 吾郷は充太と翔太に指示した後、何かわからない呪文を唱え始めた。室内に残った男子生徒は腰を抜かしたり、失神したりしていて動けない者がほとんどであった。

「ぐあああああああ!」

 吾郷が壁に叩きつけられた。頼りになる大人たちが皆、次々と倒れていく。和彦は口から泡を吹き出し、白目を剥いていた。

「!?」

 携帯電話が震える。充太は慌てて携帯を取り出し、メールボックスを開いた。


< 0001 > D

From:☆♪※!!?

Sb:最高料金です

添付:

―――――――――――

霊媒師を雇った守山くん

には最高料金である1万

2,040円をお支払いいた

だきます。


「最高料金って……!」

 充太がバッと顔を上げると、和彦の体がさらに高く浮き上がっていた。

「カズ!」

 次の瞬間、和彦の体が高速で移動し始めた。そのまま頑丈な窓枠を突き破り、和彦の体は外へ放り投げられていった。

 周りのクラスから悲鳴が上がる。その後、シンと静まり返った周囲を包み込むように、和彦の体が地面に叩きつけられる音が無惨に響き渡った。

 和彦の死が確実になると同時に、それまで無秩序に飛び回っていた机、椅子、黒板消しから本や筆箱、教科書などが一斉に床に落下した。

「……。」

 地震直後のように荒れ果てた2年4組の教室を、充太は覚束ない足取りで歩いて外を覗きこんだ。

「あれ?」

 しかし、和彦の姿は見当たらなかった。

「カズ……?」

 もしかすると、生きているのかもしれないという希望を抱く充太。しかし、すぐに上がった悲鳴でその希望は粉々に砕かれた。

 校庭で一番背の高い松の木。その木のてっぺんに、串刺しにされた和彦の体が残っていたのだった。










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