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名前あそび  作者: 一奏懸命
第2章 通知します
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第13話 衝撃と推測


「……。」

 純司の自宅前で、充太は震えながら座っていた。すぐに警察に通報し、間もなく警察官と裕則がやって来た。

「三雲くん……だったね?」

「はい……」

「月並みなことしか言えないが……大丈夫かい?」

「……。」

 答える代わりに、充太は小さくうなずいた。

「あの……二条の、死因は?」

「感電死だ」

「感電死……」

 充太は全身の毛がよだつような感覚に見舞われた。小説や漫画、ドラマなどで目にすることのある死に方だが、まさか自分がそんな光景を目にするとは思ってもみなかった。

「今回もまた……」

 充太の呟きを裕則は聞き逃さなかった。

「どうしたんだい?」

「……。」

 この人に言えば、楽になるかもしれない。けれども、言ったことにより自分の身に何かが起きるのではないかと考えると、充太は不安で押し潰されそうになった。

「心配しなくていい。この二条くんの一件で、警察としても君たち2年4組の警護に当たる私服警官を配備する予定なんだ」

「そんな物騒な……」

「仕方がない。これほど連続して同じクラスにいる高校生が、4人も亡くなったのでは警察としても何らかの関連性があると見て、動かざるを得ないからね」

「……。」

「親御さんにも、事件性があるため、なるべく君たちと離れないようにという旨の連絡を、糸井先生のほうからしてもらうことにした」

「そうですか……」

 充太は俯き加減で答えた。

「とにかく、さっきの続きだけど……」

 その時、警察官が「安食さん」と呼ぶので再度会話は中断となった。

「どうした?」

「被害者の手から、こんな紙が出てきました」

 裕則はその紙を受け取り、焼け焦げているものの、一部読めるので、小さな声で読み上げた。

「J……おでかけ? なんだ、これは」

 さすがに焦げたり濡れたりしていて、まともに読める部分は少ない。裕則も首を傾げるばかりだ。

「ひとまず、重要な証拠である可能性は高い。署へ持ち帰るように」

「は!」

 ポン、と肩を叩かれて充太は我に帰った。

「とりあえず、帰るか。家まで送るから」

「はい……」

 そのまま裕則の社用車に乗り込み、充太は自宅まで送ってもらうことになった。その間、特に会話もなく、自動車の走行音だけが社内に響き渡る。

「さっきの続きだけど」

「はい」

「今回もまた……って言ってたね。どういう意味だい?」

「……。」

 充太は俯いた。

「言いにくいこと?」

「言うと……刑事さんまで巻き込まれるんじゃないかって思っちゃって……怖い」

 裕則はやわらかい笑顔で言った。

「警察は、そういうのも覚悟で動くコトだってあるんだ」

「……。」

「遠慮しないで言いなさい」

 充太の目に涙があっという間に溢れ出てきて、どうしようもなくなってしまった。

「メールが……」

「メール?」

「はい。今まで亡くなった人のところには、メールが来てたんです」

「どんなメールだい?」

 充太はこれを言った瞬間、裕則も引き返せないところへ踏み入ってしまうと思った。しかし、誰か大人に言わなければ、自分たちはただ死ぬのを待つしかできないのではないかと思い、覚悟の上で裕則にそのメールを見せた。

「……。」

 路肩に駐車し、裕則はそのメールを読む。一誠、美知留、七海に配信されたメール。名前あそびのメールであった。

「……これは」

 裕則の顔色が変わる。

「何かご存知なんですか?」

 充太の問いかけに一瞬、裕則の目つきが厳しいものに変わった。

「!?」

 充太は驚いて目を見開く。

「いや……何でもない。ただ、驚いてね」

 無理もないことだと充太は思った。メールが流れ、料金を支払えと言われ、支払う意志がなければ死ぬ。そんなムチャクチャなことがあるだろうか。

「とにかく、これが事件と何らかの関係性を持っているのはまず間違いないだろう。ちょっと、このメールを転送させてもらうよ?」

「えっ……!?」

 充太がその言葉に目を丸くした。

「心配しなくていい。僕なら、大丈夫だから」

 裕則はそう言って、自分の社用携帯電話に名前あそびのメールを転送した。


「……。」

 充太を送り届けた後、裕則は急いで警察署へ戻り、資料室へと向かった。

「あれ? 安食さん。戻られたんですか?」

 後輩刑事の(おお)() (けい)()が資料室へ向かう裕則を見つけ、声をかけた。

「あぁ。お、ちょうどいい! 大矢も手伝ってくれるか?」

「何をですか?」

「資料探しだよ」

 資料室に啓太を連れ込み、裕則は言った。

「2000年5月に起きた、鹿児島県 (りゅう)(ぜん)()(ちょう)の連続高校生不審死事件の資料を探してくれないか?」

「はい」

 啓太と裕則は手分けしてその資料を探す。10年分の資料を探すのは骨が折れる仕事だが、裕則の刑事としての使命感がその資料の捜索を急がせていた。

 40分ほど経って、啓太がようやくその資料を発見した。

「ありましたよ、先輩!」

「本当か!」

 裕則は慌てて啓太のところへ駆け寄る。

「ちょっと貸してくれ」

「どうぞ」

 啓太から資料を受け取ると、すぐに事件の概要へと裕則は目を移した。

「やはり……。どうも似ていると思ったら、この事件と似たような傾向が……。となると、やはり今回も……」

 啓太の見つめる傍で、裕則は今回の事件関係者と2000年当時の事件関係者の名簿を机の上に並べた。


<2000年5月 鹿児島県竜禅寺町 高校生連続不審死 関係者名簿>

 (あき)() 美穂子(みほこ)

 石川(いしかわ) (だい)()

 愛知(えち)(がわ) 亜衣(あい)

 ()(がわ) 正孝(まさたか)

 阪本(さかもと) (だい)

 富山(とみやま) (ゆう)()

 (なが)() まさみ

 (ふく)() 翔一(しょういち)

 福島(ふくしま) 隆平(りゅうへい)

 宮嵜(みやざき) 飛鳥(あすか)

 山口(やまぐち) ちなつ


「当時は……確か……」

 ぶつぶつと独り言を言いながら資料を捲り続ける裕則。隣から啓太が資料を覗き込んだ。

「へぇ~!」

 突然啓太が大声を出すので、驚いた裕則が彼のほうを見た。

「あ、すいません! いや、この子たちの名前おもろいなぁて思って」

 啓太は関西弁で、少し可笑しそうにそう言った。

「どこがおもしろいんだ?」

「いや、俺には面白いですけど多分、九州住まいの安食先輩にはどうってことないと思います」

 裕則はもう一度、真砂高校の生徒名簿を見つめる。



【鹿児島県 砂原(すなはら)市立 ()(さご)高等学校2年4組 生徒名簿】


1.(いけ)() 利香(りか)

2.魚住(うおずみ) 創佑(そうすけ)

3.(おお)久保(くぼ) (たける)

4.川西(かわにし) (なな)()

5.(きし)() 一誠(いっせい)

6.(すい)() 美知留(みちる)

7.曽根(そね) あずさ

8.高槻(たかつき) 翔太(しょうた)

9.土山(つちやま) (てつ)()

10.()(じお) 圭一(けいいち)

11.二条(にじょう) 純司(じゅんじ)

12.藤阪(ふじさか) ()(さと)

13.(ほし)() 龍輔(りゅうすけ)

14.()(くも) 充太(じゅった)

15.三輪(みわ) (ここ)()

16.桃山(ももやま) みなみ

17.守山(もりやま) 和彦(かずひこ)

18.八尾(やお) (なつ)()

19.(やなぎ)(もと) (ゆう)

20.(ろく)()(ぞう) (もと)()



「何がおもしろいんだ? さっぱりわからん……」

「先輩、ちょっとコレ見てください」

 そう言って差し出したのは、何の変哲もない手帳だった。

「これがどうしたんだ」

「よーく地図(これ)を見てください」

「……。」

 裕則はしばらくその地図を見つめ、5分ほどしてから「そういうことか……!」と呟いた。

「なるほど……確かに名前で遊べるな。やはり、10年前の事件(ヤマ)と同じだ」

 そして裕則はすぐにパソコンのある席に移動し、インターネットを立ち上げた。そしてそれに大きく関わるホームページを検索した。

「これは……!」

 そのページを開こうとして、さらに裕則は衝撃を受けた。

「間違いない……二条くんはこれに気づいたんだ。もしかして……だから、殺されたのか?」

 裕則はほぼ、確信を得ていた。しかし、いまだ解けない謎がある。それが「料金通知」である。当時は、このようなことは一切なかった。その謎が解けない以上、事件の真相にもおそらくたどり着けないだろうと裕則は踏んでいた。

「とにかく明日、彼にこのことを伝えなければ……」

 裕則は先ほどメールを転送してもらった相手――三雲 充太の顔を思い出していた。








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