第11話 料金通知の謎
「葬式、葬式……。どうなってんだよ、俺たちのクラス……」
充太は唇を噛み締めた。今日は一誠の通夜、明日は一誠の葬式と美知留の通夜、明後日は美知留の葬式と七海の通夜。しあさっては七海の葬式と4日間立て続けで同級生との今生の別れが続く。
残ったクラスメイト17名のうち、式に参加している10名の顔色は冴えない。7名は相次ぐ同級生の死にショックを受け欠席したり、式に行くのを拒んだりしている。
「……。」
完全に青ざめた顔色をしているのは徹子だ。隣ではブルブルと手を震わせている圭一の姿がある。
充太の脳裏に知里から聞いた、七海が言ったという言葉が蘇る。
――あたしは悪いことなんてしてないわ! あたしはあの時『皆もそう思ってるんでしょ~?』って聞いただけ。それに皆は笑顔で答えた。ただ、それだけよ
あの時。
七海の言うあの時というのがいつなのか、充太にはそれが引っ掛かっていた。
「まずは……そこから聞く必要があるか」
充太は今日揃っているメンバーで一番聞きやすいのは誰かを考えてみた。今日来ているのは知里、圭一、徹子、充太、あずさ、素華、純司、利香、龍輔、翔太である。おそらく、この中で一番話しやすいのは知里だ。当然といえば当然なのだが、知里が言うには、七海の言葉の意味を彼女自身、いまひとつわかっていない様子だった。つまり、知里も七海のいう半年前にあったことを知らない可能性がある。
次に候補になったのは、圭一だ。圭一、夏哉、充太は常に教室でもどこでも、行動を共にする親友だ。彼になら、非常にいろんなことを気軽に聞くことができるだろう。
圭一がダメで、知里も無理だと仮定し、最悪の場合は翔太に聞くしかない。あずさと素華は七海の件でかなり神経衰弱の状態に陥っている。龍輔は正直言って、充太の苦手なタイプだった。徹子も精神的に参っているようで、とてもいま、半年前のことを聞ける状態ではない。利香とはあまり接点がなかった。純司とも、接点は少ない。
あれこれ考えているうちに、いつのまにか通夜は終わっていた。
「充太」
知里がボーッとしている充太を呼ぶ。
「おう……」
「終わったよ……」
「そうか……」
俺は重い腰を上げた。
「なぁ、知里」
充太に呼ばれて、知里が振り返る。
「なに?」
「ちょっと、いいか?」
「うん……」
充太の後について、知里が歩いていく。通夜の行われている会館の中庭に充太と知里はやって来た。
「どうしたの?」
「聞きたい、ことがある」
「……なに。改まって」
「教えてほしい」
充太はそこから先の言葉を吐くのに、かなり抵抗があった。しかし、低い声ではっきり言った。
「半年前……何が、あった?」
ビクッと知里が体を震わせた。
「……お前、知ってるな?」
「……。」
「知里」
「……あたしは、直接は知らない」
「直接って……どういう意味だ?」
続きを聞こうとしたときだった。ギイッとドアが開いたので、充太と知里がそちらを振り返ると純司が立っていた。
「二条……」
「よう」
二条 純司。鹿児島県民が集うこの真砂高校で、唯一関西弁を話す少年。中学時代に父親の仕事の都合で、鹿児島へ引っ越してきたのだ。
「何の話しとん?」
「……別に」
充太は言葉を濁した。知里も純司と目を合わせようとしない。
「密会かいな?」
「そんなわけねぇだろ。バカ」
「あ、バカはやめてくれや~。関西人はアホには傷つかんけど、バカには傷つくねんで」
純司はあっけらかんとそう言いながら、充太と知里のそばに座った。
「ほんで? 何の話なん?」
「……。」
「堅苦しいことなしにしようや!」
充太は渋々、話を始めた。
「名前……あそびの話だよ」
純司はニッと笑った。
「やっぱな。その話やと思った。ほら、コレやろ?」
そう言って純司が見せた彼の携帯電話には一件のメールが開かれていた。
< 0001 > D
From:☆♪※!!?
Sb:名前あそび
添付:
―――――――――――
いま流行のケータイゲー
ム『名前あそび』! ア
ナタもやってみませんか
!?
このメールに返信するだ
けで、気軽にゲームに参
加していただけます☆
気になったそこのアナタ
! ぜひ返信を!
「お、お前そのメール!」
「知ってるで。吹田さんも一誠も、川西さんもこの名前あそび、やっとったんやろ?」
「……。」
充太と知里の表情が曇る。
「間違いなさそうやな」
純司は嬉しそうに笑った。
「名前あそび。お前ら、気づいたか?」
「何をだ?」
充太が聞き返す。
「名前あそび、っていうタイトルやで? そんで、これを見てみ」
そう言って差し出されたのは、充太たち2年4組のクラス名簿だった。
「……これに何の意味があるんだ?」
「気づかんか?」
「何に?」
知里もクラス名簿を見つめるが、特になんら変わった点はない。
「変わってる名前がある……かな」
知里が呟いた。
「確かにな。なかなか聞かない名前はある」
充太はその二人の名前を見つめた。素華と圭一だ。
「でも、共通点っていう意味では、もっと意味深なメンバーがおるで?」
純司がその名前を順番に指差した。
川西 七海
岸辺 一誠
名塩 圭一
二条 純司
三雲 充太
三輪 心美
八尾 夏哉
六地蔵素華
「数字か……!」
七。一。二。三。八。六。クラス20名のうち、8名の名前に数字が入っている。
「偶然にしちゃ、できすぎやと思わんか?」
純司がニッと笑った。
「絶対、この名前に数字が入ってるっていうのが意味あるんやで」
「でも……それじゃ、吹田さんの場合の辻褄が合わないじゃない」
知里の言うことも理にかなっている。美知留の名前にはどこにも数字が入っていない。
「俺もそこがまだわからへん」
純司は首をかしげた。
「それに、この8人と料金通知とかいうヤツの関係性もわからへん……」
「そうだな……」
沈黙が起きた。生暖かい風が、3人の頬を撫でる。
「とりあえず、この名前あそびっていうのと、俺らの名前には絶対関係性がある。それは間違いない」
「あぁ……」
充太は小さく言った。
「もうすぐ、謎が解けるか?」
「絶対、解いてみせる」
純司が力強く笑った。
「頑張ろうな」
「おう!」
純司が帰宅しても、家族はまだ誰も帰っていなかった。
「なんや……。あ、忘れてた。父さん出張で母さんパートの夜の部やったな」
純司はカバンを置いてテーブルにあったお菓子を適当に掴んだ。
「お?」
純司はカバンの傍にあった紙を手にした。
「何しとんねん……父さん。新幹線の切符置きっぱなしやったら、どうしようもないやんけ」
純司の父は帰りの切符を置きっ放しにして行ってしまったようだ。
「どこまで行くんやろう」
純司は切符を手にした。
「関西方面やとは言うとったな~……。新大阪に着いて、東海道線乗って福知山線に乗り換えて……宝塚駅で降りるんか」
関西出身の純司には宝塚という響きが大変懐かしく響いた。
「懐かしいなぁ……」
お菓子を頬張る純司。次の瞬間、純司はハッと気づいて立ち上がる。
「まさか……」
純司は立ち上がり、パソコンを立ち上げる。
「早く……早く!」
起動して、インターネットを開く。そしてすぐにそのキーワードを打ち込んですぐに確かめた。
「やっぱり……! 違う、違うんや! そういうことか……!」
純司は急いでそのページを印刷する。
「間違いない! よっしゃ、すぐに三雲に……」
そう思い、印刷されたプリントを掴もうとした瞬間だった。
「……!?」
床を、水が滴っていた。
「水……? なんで……?」
純司が突然の出来事に戸惑う暇もなかった。次の瞬間、激しい音と共に、純司の意識は吹き飛んでいた。