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名前あそび  作者: 一奏懸命
第1章 配信します
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第08話 恐怖の連鎖

「おはよ……」

 翌日、充太が入ってきたにも関わらず彼の異様なテンションの低さに、クラスメイトたちは一様に驚きを隠せずにいた。

「どうかしたの?」

 川西 七海が充太に聞く。

「何も聞いてないのか?」

 充太は半分怒るような口調で七海に聞き返した。

「何もって……何かあったの?」

「……聞いてないならいい」

 充太はフイッと七海を交わし、自分の席に着いてそのまま顔を伏せた。

「あ、おはよ。あずさ」

 充太が顔を上げると、やはり暗い表情のあずさが教室に入ってきていた。

「どうかしたの?」

 同じように七海が聞く。

「……いいわ。そのうち、聞くことになると思うから私はいま、あえて言わない」

 あずさはそのまま自分の席に着く。

「意味わかんない……」

 あずさの言葉にクラスメイトたちはただ、ポカンとしているしかなかった。やがて、予鈴が鳴り、生徒たちは各々の席に着く。そして5分ほどすると、翔一がやって来た。

「起立!」

 男子委員長の翔太が号令をかける。

「礼!」

「おはようございます」

「着席」

 いつもどおりの教室。しかし、空席が4つもあった。

「先生、美知留は休み~?」

 みなみがあえて間の抜けた声で質問した。一誠が亡くなって、なんとなく教室の雰囲気が悪くなっているのを察知し、お調子者的存在であるみなみはこういったトーンで話すことが今日になって急に増えた。

「……吹田だが」

 翔一は言葉を一瞬飲み込みそうになったが、言葉を濁さずハッキリと告げた。

「吹田は、昨晩……亡くなった」

「……え?」

 七海とみなみが同時に声を上げる。しばらく、教室は誰も喋らない時間が過ぎていった。

「亡くなったって……死んだって、ことですか?」

 的外れな質問をぶつけたのは、和彦だった。

「そうだ」

「い、いつ?」

 素華が怯えながら聞く。

「昨夜、9時過ぎだ」

「どこで?」

 健が続ける。

「自宅マンションの……屋上から転落し、即死だったそうだ」

「……。」

 もう、誰も口を開かなかった。

「三雲、曽根、土山、名塩、八尾」

 ハッと5人が顔を上げる。

「1時間目は公認欠席にするから、ちょっと進路相談室まで行ってくれるか?」

「……。」

「そういうことだから、よろしく」

 それだけ言うと、翔一は教室を出て行った。

「……。」

 シンと静まり返る室内。その沈黙を破ったのは、恐怖で顔面蒼白状態の和彦だった。

「な、なぁ……まさか、半年前のこと……関係あるのかな!?」

「!」

 その言葉にクラス全員の目つきが一瞬で変わったのを充太は感じていた。それもただならぬ視線。恐怖すら感じてしまうような視線だった。

「関係あるとしたら、こんなことするのって」

「関係あるわけないじゃなーい」

 サラリと言い放ったのは、七海だった。

「だって、あたしたち何か直接悪いことした?」

「い、いや……」

「そうでしょ? だって、あんなの言葉に煽られてヤッただけじゃなーい」

 そう言い放つ七海の表情も、顔色が冴えない様子だった。

「よせよ、川西」

 健が止める。

「……ゴメン」

 充太はよく状況が飲み込めなかったが、ひとまず進路相談室へ向かうことにした。

「行くのか?」

 立ち上がるや否や、圭一が聞いてきた。

「あぁ」

「俺も行く。3人も、行こうぜ」

「……うん」

 圭一に促されあずさ、夏哉、徹子の3人も立ち上がった。

 教室があるのは校舎の3階。進路相談室は1階にある。5人は何も喋らないまま、階段を降り続けた。

「あのさ」

 充太が勇気を振り絞って口を開いた。

「半年前、何かあったのか?」

 半年前はちょうど、事故のために入院していたため充太はその頃のことはまったく知らないのだ。

「なんでそんなこと聞くの?」

 あずさが笑顔で聞き返す。

「いや……俺いなかったし、何があったのかなぁと思ってさ」

「何も。なかったわ」

 あずさは冷静に返した。それに同調するように夏哉が「うん。川西、アイツ部活でちょうど半年前モメてたから、クラスでも落ち着きなくてさ。その話してたのかもなアイツ」と言った。

「そうなんだ……」

「うん」

 それきり、再び沈黙が降りた。

 進路相談室に着く。しかし、誰もドアを開けようとしない。仕方がないので、充太がドアをノックした。

「はい」

「2年4組の三雲、名塩、八尾、曽根、土山です」

「どうぞ」

 ドアを開けると、生徒指導の立岡と見慣れない男性がいた。

「入りなさい」

「はい」

 5人は緊張した面持ちで立岡と男性の前に座る。

「こちら、鹿児島県警察本部警部でいらっしゃる、()(じき) 裕則(ひろのり)さんだ」

 立岡の言葉に、5人の表情は一気に固まった。

「初めまして。安食と申します」

「……。」

「挨拶」

 立岡の言葉に押されて5人はボソボソと「おはようございます」や「初めまして」と答えた。

「まぁ……なんで呼ばれたかはわかってると思う」

 立岡が頭を掻きながら話し始めた。彼はこういう態度が生徒たちのウケが悪い原因でもあるのだが、本人は無自覚である。

「昨日の一誠と美知留の事件だ」

 その上、馴れ馴れしく生徒たちを下の名前で呼ぶので、女子たちには相当嫌われている。残念なことに、それも気づいていないのだが。

「何か知っていることがないかということで、わざわざウチまで来られたんだ」

 裕則はやわらかい笑顔で5人に聞く。

「何でも、小さいことでもいいんだ。何か、二人のことについて知っていることはないかな?」

「……。」

 5人は口を開こうとしない。気まずい沈黙の中、時計の針が進む音だけが室内に響き渡る。5分ほどして、耐えられなくなった充太が口を開いた。

「俺は」

「うん?」

「俺は……半年入院してたんでその間の出来事は知りませんが……」

「何かそれ以前に知っていることはあるのかい?」

「吹田さんと一誠……付き合ってたんです」

「え?」

 徹子が驚いた顔をした。これには徹子だけでなく、圭一と夏哉も驚いていた。

「そうだったのか?」

「あぁ」

「そんな風に全然見えなかった」

 夏哉が呆然としていた。

「曽根さんは知ってたのかい?」

 裕則が一人だけ反応のないあずさに聞いた。

「……はい」

「どうしてあずさも知ってるの?」

 徹子が割り込んで聞いてきた。

「それは、俺と曽根でアイツらの仲を取り持ったから」

「えぇ!?」

 3人はいっせいに声を上げた。

「でも、それだけだ。俺たちは以後、アイツらに関与してない。だから……それ以上のことを聞かれても、わかりません」

「いや……それで十分だよ」

 裕則が真剣な表情になった。

「実は……岸辺 一誠くんが最期に飲んだジュースには、毒らしきものは入っていなかった。それは、藤阪 知里さんが同じものを飲んだにもかかわらず無事だったことから証明されている」

 唾を飲み込みながら、充太は裕則の説明を聞き続けた。

「しかし、岸辺くんが使っていたコップには、多量の毒が塗られていた」

「ど……毒……」

 徹子が怯えた様子で毒という言葉を繰り返した。

「そして、そのコップは彼女である吹田美知留さんの自宅が経営するショップでのみ、売られていることがわかっている」

「……。」

 裕則はさらに続けた。

「吹田さんのご両親にも裏付けを取ったんだけれどね、彼女、前日に彼氏にプレゼントするからと言って、両親にそのコップを譲ってもらったんだそうだ」

「……。」

 誰もがその先のことを容易に予想できた。

「つまり、彼女しか毒を仕込める人はいない」

「……そんな」

 わかってはいても、徹子もあずさもすぐには信じられなかった。

「岸辺くんを殺害した彼女は、罪がバレることを恐れたのか殺人を後悔したのか、自宅マンションから投身自殺した」

「……。」

「そう結論付けている。君たちからはさらに、客観的証拠を裏付けるために今日、来てもらったんだ」

 裕則が笑った。

「ありがとうございます」

 裕則が立ち上がる。

「す、すみません!」

 立岡が焦った様子で裕則を止めた。

「このことは公表されるのですか? 学校側としては少し困るのですが……」

 生徒同士が恋愛絡みで揉め、殺人を犯し、さらに自殺したとなれば学校のイメージダウンは甚だしいものである。立岡はそれを恐れているのだ。

 立岡と裕則が出て行った後、5人は呆然と進路指導室内に取り残された。5分ほど立ち尽くしてから、充太が呟いた。

「戻ろうか」

「……うん」

 そう言って5人が歩き始めた時だった。

 携帯電話が震え始めたのだ。

 5人の顔が一気に強ばる。充太は恐る恐る携帯電話を開いた。



< 0001 > D

From:☆♪※!!?

Sb:納期限のお知らせ

添付:なし

―――――――――――

川西 七海様

お知らせいたします。

川西様はお支払いを拒否

されました。従ってお支

払いの意志がないと見な

し、弊社より罰則を付し

ます。



 有無を言わさない内容のメールだった。充太たちが教室に慌てて戻ろうとした時、校門の辺りから激しい衝突音が聞こえたのだった。









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