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二日目

【二日目】

「『放課後は窓の掃除でもしてみよう。西日はきっと綺麗だろうね。』」

昨日に引き続き、靴箱は、登校した俺をこんなメモをぶら下げて迎えてくれた。掃除?今週の掃除当番はあの大馬鹿猿だから、大方サボっていると予想がつくが、なぜ俺が。というか、なぜ窓なんだ。西日を見るため?掃除させるにしても、なんか、もうちょっとあっただろう。教室掃除と言っても大抵は箒ではわいて、黒板をきれいに消すくらいのもんじゃないのか。窓なんて大掃除ぐらいでしかやらない印象だったが、なにせ昨日の今日なので気にならないといえば嘘になる。人間、好奇心が湧くとある程度の面倒事はやってみる気になるものだ。それに、


―――それに、昨日のような滑稽な様を見れるのならば満更ではない。


そうして1日は何事もなく過ぎ去っていき(一つ面白いことがあるとすれば、奴は弁当には懲りたようで今日も食堂を利用したようだ)、放課後がやってきた。

教室からポツポツと人がいなくなり、最後に残った一人―――もちろん俺はまだ残っているのだが―――に電気を消される。いや、まだ残っているのだから消さなくていいだろとは思いつつも、電気が消えたことによって、より西日の入口となっている窓が強調される。太陽の光は鋭く差し込み、刺々しさすら感じる。しかし、光と影のコントラストがはっきりした誰もいない教室には、風情だとかノスタルジーだとかが詰め込まれたようで、自然と目が吸い寄せられる。影に落とされた僕の席から、光に刺される窓際へと、雑巾を片手に近づいていく。何が起こるのだろう、という僅かな期待と不安を胸にしながら、光の中に溶け込んでいく。


バシャッ


なにかバケツでもひっくり返したような――――いや、それにしては大きな音のあとに、野太い叫び声が聞こえた。急いで窓の下を除いてみると、外には奴が立っていた。いや、立ち崩れていた。びしょ濡れになった姿で。髪から水をしたらせ、学校の塀で影になった地面にへたり込む奴のもとには一筋の光も差し込まず、先程の雄叫びを上げたとは思えないほど、暗く濡れた醜いネズミのような姿だった。今俺が手に持っているボロ雑巾とさして変わらないだろう。

そして鼻がツンとし、俺は思わず顔をしかめる。あの臭いだ。昨日と同じ、生きたものか死んだものかどちらの臭いかも分からないようなドブの臭い。悪臭はしばらく俺の嗅覚を支配した。


しかし、そうこうしている間もない。奴がもしいま上を見上げれば俺に水をかけられたと考えるだろう。俺とてあらぬ疑いをかけられるのが好きな人間ではない。何より、奴に無粋な加害を行う口実を与えるわけにはいかないのだ。奴が上を向く前に、そして真犯人が誰なのかを確認するために、俺は上を見上げた。

見上げるとそこには、長い髪がふわりと揺れる姿だけが見えた。いや、”だけ”ではない―――

一瞬、キラリと何かが光ったような気がした、


一体誰が、何のために。真相は分からない。が、いい気味だ、という確かな感触が、西日を背にした俺の恍惚とした表情にははっきりと表れていただろう。


今日の西日は綺麗であった。一体明日は、奴のどんな姿を見られるのだろうか。

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