プロローグ
黒い、黒いもやがかかっている
目の前がはっきりとしない。
落ちていく感覚がする。ゆっくりと、沼にはまるように。
奴らの顔が見える。どれも同じ、真っ黒な影が落ちている。それなのに、醜い面だというのはわかる。
体が痛む。寒い。心に穴が空いたようだ。空虚感が俺の体を蝕んで消えてしまいそうだ。
いや、いっそのこと消えてしまいたい。
こんな日々が続くというのなら―――
ピピピピピ、と一体この時間にどれだけの家庭でなっているのかわからないほどありふれたアラームの音が俺の体と眠気と悪夢を離別させる。悪夢…だったのかは微妙だが、不快感は今も続く。しかし、こんな夢を見るのは珍しい。いつもは愛しの睡眠は夢を見る間もなく一瞬で終わるというのに。いやはや、俺もこんだけ睡眠のことを愛しているのだから、彼女もきっと俺のことを愛している。いくらアラームであろうと、登校時間であろうと、俺らの愛に隔たりを作る権利はない。そして、悪夢なんてものが睡眠ちゃんの価値を下げるなんて到底許すことができない。
なんにせよ、あまり気分の良いものではない朝だ。いや、気分のいい朝なんてそうそう来るものではないが。俺はしかめっ面で朝支度を済ませる。最近、朝起きるのが辛い。もともと朝が得意なわけではなかったが、高校生になってからは特に。とはいえ、もう高校も二年生になって間もないくらいなのだが…なれないものだ。
そして、あんまり遅く起きるものだからか分からないが、親は俺の分の飯を作ってくれなくなった。もっとも、俺より早く出勤しているんだから文句は言えない。しかし、自分で飯を作るほどの時間的余裕も、体力的余裕も朝の俺には存在しない。仕方がなく、若干の空腹と倦怠感を共に連れて俺は家を出た。
ガチャ。しっかりと施錠をして学校へと向かう。俺が通っているのは家のすぐ近くの公立高校。10分も歩けば着く距離なのが幸いだ。俺からしたらろくでもない学校だが、これだけは非常に良い点だ。朝特有の空気というか、すこしつんとした寒さが身に染みる。しかし、最近暖かくなってきているのもまた事実で、学校の花壇も最近色づき始めているようだ。
さて、そうこうしているうちに学校についた。俺は一礼して、学校の門をくぐる。
今日も、長い、長い一日が始まる。