夢見るシャイニング・スター
言ってしまえば前世紀、九十年代に行われた公演の映像に、幼い頃の私は引き込まれた。公演? 興行? 細かい用語は私に取って、問題じゃない。
まだ私が生まれていない時代の、ステージ上で飛び跳ねている彼女たちの姿は、一言で輝いていた。私も、こうなりたい。こんな風に、ドーム球場で観客を沸かせたい。私の夢は走り出して────そしてトップクラスの存在へと私を押し上げた。
「トリの降臨! 本日のメインイベント、チャンピオンの入場です!」
声、声、声。歓声、罵倒、観客席から圧倒的な感情の波が訪れる。騒げ騒げ、お前らは私を輝かせる舞台装置だ。花道を歩きながら私は連中を煽ってやった。
五メートル半四方のステージに上がれば、私に手を出せる存在は対戦相手だけだ。ギャラリーは指を咥えて、私たちの躍動を見てな。さぁ、輝こうぜ!
『……シャイニング・スカーレット! チャンピオンの必殺技が一閃! 立てない、立てない! スリーカウント、試合終了! またしてもチャンピオンが王座を防衛しましたぁ!』
解説者が実況席で、いい仕事をしている。チャンピオンベルトを頭上に掲げながら、正方形のステージ上で、インタビュアーからマイクを奪って私は試合後の仕事を始めた。
「観たか、客ども! あたしは誰だ!? 聞こえるように言ってみな!」
『チャンピオン! チャンピオン! チャンピオン!』
「そうだ! あたしは最強、世界の王だ! 文句があるなら上がってきな! リングの上で、輝こうぜ!」
マイクパフォーマンスを終えて、ロープをくぐって私は花道を引き上げる。私の職業はプロレスだ。純粋な格闘技かって? そんな訳ねぇだろ。芝居? 八百長? わかってねぇな、私たちは夢を売ってるんだよ!
物語には話の筋があって、だから読者は感動する。私たちがやっているのも同じことだ。血と汗と涙を流しながら、ステージ上でドラマを演じ続ける。そこに生まれる感動は本物に決まってるんだ! 観客が私を愛そうが憎もうが、そいつらの気持ちに嘘はない。そうだろうよ?
女子プロレス人気は未だ、全盛期に及ばない。業界を盛り上げるのはきっと、かつての私みたいな新しい世代だ。花道の途上で客席の女児と目が合う。未来の王者へウィンクをした。