童話 毒まみれの世界と生きていないものたち
その世界はたくさんの毒に満ちている。
だから、生きているものは生きられない。
けれど、生きていないものなら生きていられるから。
たくさんの、生きていないものたちで、うめつくされていた。
生きていないものたちは、生きていないから。
苦しんだり、辛い思いをすることはない。
だから、毒の世界でも平気だった。
生きていないものたちは、毒の世界を歩き回る。
けれど、嬉しい気持ちも、楽しい気持ちも何もないから。
歩き回っていても、何も思わない。
そもそも、毒の世界には何もないから。
感情を動かすものなんて何もないから。
生きていないものたちは何も思わない。
毒の世界にいる、生きていないものたちは、互いにコミュニケーションをとらない。
おはようとか、こんにちはとか挨拶しない。
だから、感情は動かない。
誰かと会っても、何かを思う必要がない。
だから、毒の世界には、毒以外なにもないも同然だった。
何もなくて、毒だけがある。
ある日。
そんな世界に旅人が降り立ち、毒を吸い込んで命を落としそうになった。
旅人は宇宙船から持ってきた不思議なリンゴを食べて、生きながらえたけれど、その世界には誰もいないから。
誰かと笑ったり、悲しんだりできないから。
結局は生きながらえても、生きていないものたちと同じになってしまった。