旦那様から「お前を愛する事はない」と言われたので「畏まりました」と寝室を出たら・・・旦那様が何故理由を聞かないのか?と尋ねて来たので話を聞いたら、何だかんだで幸せになった転生者の話
「お前を愛する事はない!寝室から出て行くが良い!」
「・・・陛下、畏まりました」
初夜に旦那様から拒絶された。
私はサリア、17歳の小国グリア王国の第1王女だった。
旦那様は蛮族と言われるガードス王国の国王、今年40歳になる。
やや小太りだが、服を脱いだら筋肉隆々と予想される肉体にほんの少し耳が尖っている。
この国はエルフがいた地域だ。人族とエルフの混血が多くいると博物誌にあった。
多分、エルフの血が入っているのだろう。
勢力拡大著しいガードス王国から私の故国に妻を差し出せと恫喝に近い要請が来たけれど、お父様は可愛い義妹を嫁がせるのを拒み。
私を選んだ。
私は灰色の髪にブラウンの瞳に釣り目だが、容姿はギリギリ大丈夫だろうと、大臣たちすらはばからずに王宮で発言をしていた。
私は表情が出にくい。無愛想、まるで仮面をつけたような女と揶揄されていた。
私を婚約者と希望する殿方がいないのは仕方なし。
こうして、馬車で一月旅をし。すぐに結婚式を挙げたが、このざまだ。
私は王宮で暮らす事は許されたらしい。
このガードス王国、野蛮だと思われたが・・・・
「王妃殿下、入浴のお時間でございます」
「はい」
大浴場がある。私の故国では狭いバスタブにお湯をメイドたちがくんでいたが、ここでは毎日入れる。
そして、庶民でも1日3食、きちんと食べられる。
「王妃殿下、午前中は、王妃教育を受けて頂きます。午後は乗馬を習って頂きます」
「はい」
この国では女性でも乗馬が出来るようだ。
「ヒヒーーーーン」
「ドウドウ!」
面白い。それに癒やされる。こんなに間近で馬を見たのは初めてかもしれない。
鼻が思ったよりも大きい。
ジィー
視線を感じた。
ガードス陛下が私を見ている。
ペコッとカーテシーをすると。
プィとお付きの者と去った。
こんな日が何日も続いたら。陛下からお呼びがかかった。
離縁か?それも仕方ない。
「陛下、お呼びにつき参上いたしました」
「うむ。生活に不自由をしていないか?」
「ございません。もし、これから不足の物ありましたら、使用人を通じて言います」
「そうか・・・」
「では、失礼いたします」
礼をして下がろうとしたら呼び止められた。
「待て!・・・聞かないのか?」
「はい、私を愛さない理由ですね、お好みではないのでしょう。無理して聞くものではございません・・さすがに辛いですわ」
「分かった。容姿ではない。話そう」
陛下は話してくれた。
この国には神がいる。
その神から。
「余は自分の子に殺される運命だと・・」
予言されたそうだ。
だから。
「この年まで婚約者も作らずに独身でいたが、さすがに臣下の者が王統を残すべきだと進言したので・・」
「それは、妹のサーシャ、美姫と評判だから食指も動くだろうと言うことですね」
「そうじゃ。姉の方が来たので、我国を軽んじていると怒る臣下もいたが、余は気にしていないぞ。帰りたければ帰るが良い。純潔証明を書こうぞ。まだ、やり直しがきくぞ」
「いいえ」
私は帰国しない。義母と義妹に牛耳られたあの国に帰るのはうんざりだ。
私は神について聞いた。
肉体を持っている。
「余の祖父の、それよりも前の時代から宮殿に君臨している。この世は調和している。全ての者は運命が決まっていると言っておる・・・」
だから、陛下に言ってあげましたわ。
「陛下が子に殺される・・・喜ばしい事ではないですか?」
「な、何だと!」
「親が子を殺す。すると、人族の世は続きません。逆なら良いでしょう」
強引か?
「親は子のために死すべきです・・・それが親の覚悟です」
「う~む」
「一度、その神に会わせて下さいませ」
私はお付きの者と一緒に宮殿に行った。
一人で会うと言ったら止められた。
「信者が大勢おります」
「もし、貞操が奪われるような事になったら、王家の信用失墜です」
「そう・・・」
かなりの権力を持っているのね。
先触れをしたのに、それに、一応私はこの国の王妃だ。
しかし、三時間待たされた。
あれは・・・
エルフだ。しかも、ハイエルフだ。
だいたい分かったわ。
エルフの生き残り。かつて、この大陸はエルフのものだった。
それを人族が徐々に押しやって来た。
エルフは恨むだろうが、お門違い。悲しいけど生存競争だわ。
やっぱり、この国はエルフと人族の混血が多い。
信者はハーフエルフやエルフの血が薄い人族の外見の者が散見される。
神を名乗るエルフは、でっぷり太っている。
輿に乗ってやってきた。
ゆったりした動作でフカフカの椅子にすわる。
謁見と言うのか?
私は立ったままだ。手にはノートと金貨の入っている袋を持っている。
私は、金貨の入った袋を差し出し。
大勢の信者の前で私から話しかけた。
「太陽のように輝く神に教えを受けに参りました」
「・・うむ。感心だのう」
「ワシは全知全能の神じゃ。全ての事象は太陽が東から西へ動くように。
この世の者は全て運命が決まっておる。全ては完璧である。故に、調和されない者は廃除されるのじゃ」
「なるほど、素晴らしいですわ。実は私、分からない事がございます・・・完璧ではなく調和しない不届き者がありますわ。なのに、厳然と永年この世に君臨しております」
「それはなんじゃ!!」
おそらく、この神は、あやふやで気の長い年月の後で調和されると言うのだろう。
「申してみよ!」
「実は・・・正方形の辺と対角線の長さの比は数では表せませんわ。他にも円周と直径の間でも調和が見られません・・・」
これは無理数の事だ。
私には前世の記憶がある。
私はノートを広げて神に見せた。
「ウウウウ・・・」
うなっている。分かっているのか?それとも全く知らない知識でどう答えるか迷っているのか?
いや、それは関係ない。
スカートに隠した小刀を取り出し。
キラン!
ズボ!
突き刺した。
「ウギャーーーー!」
【皆の者!聞くが良い!この世は完璧ではない!こやつは運命が決まっていると戯れ言を言う偽神、故に征伐をした!この者はただのエルフという種族で神ではない!】
かつて、この大陸はエルフに支配されていた。
まだ。森が深い国では人族の上位者として君臨している地域もあると聞く。
この地では神として祀られていたのね。
皆は、呆気にとられていたが・・・
すぐに。
「「「「「ハハハハハハハハーーーーーー」」」
私を拝み始めた。
【なら、命令だ!家に帰り。献金する予定の金を家族のために使え!】
「「「「「ハハハハハハハハーーーーーー」」」
私はそのまま王宮に戻り陛下に報告し。沙汰を待った。
陛下は・・・・
「惚れた!!」
「はあ?」
その後、私は政教分離を政策として取ることを進言し。採用された。
近々、国全体を女神教に改宗するかもしれない。人族の神だ。
今はサリア教だ。一刻も早くなくすべきだ。
やがて、子供が生まれた。
双子だ。女の子と男の子。
陛下は子供たちを溺愛する。
「オオオオーーー、余はそなた達なら殺されても良いぞ」
「グスン、父上、そんな事を言わないで」
「ウワーーーン、お父様と結婚するのーー」
「ヨシ、ヨシ、ヨシ、皆、良い子だ。グスン」
「いけないお父様ですね!」
「すまない!」
まあ、こんなそんなで、この国は宗教に搾り取られていた金が浮いて、国力は増している。
故国へは一度だけ帰った。
3000の騎士団を率いて、私も馬に乗って、颯爽と帰った。
お父様と義母、義妹と、誰か知らないが、義妹の旦那様がいた。
「「サリア!」」
「サリア殿」
「お義姉様!」
「あの陛下の書状でございます。借金を返せないのなら属国として我がガードス王国の為に働けとの事です」
「何だと、親不孝者!」
「いえ、いくら私の故国でも借入金の限度があるとの事です。私も恥ずかしいですわ。
我国に組み入れて、ガードス帝国にする案が多数でしたが・・・そちらにしますか?」
もはや、この国の常備軍は私が連れてきた騎士の方が多いくらいだ。
「分かった・・」
旦那様とは理解しあえたが、家族とは一生理解しあえないだろう。
家族、それは1番近い他人なのかもしれない。
最後までお読み頂き有難うございました。