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あなたの瞳は星空のようだ

 ステラシアが第一王子であるアルトラシオンに助けられ目を覚ましてから、彼は言葉通り翌日も、ステラシアに会いに来た。

 目が覚める前にも三日は寝ていたおかげなのか、次の日には痛みが少しだけ引き、ステラシアはベッドの上に起き上がることができるようになった。

 相手が王子様だと知って恐縮するステラシアに、身分を気にせず普通にしてほしいと言った男には、あの夜のような、ステラシアを淡々と殺そうとした非情さは見えない。

 逆に、アルトラシオンに手づから渡された花束に対してどうしていいかわからなくなる。

 包み紙から覗くのは、鮮やかなピンク色。花弁は長く鋭角に、けれど緩やかな曲線を持って垂れ下がり、雄しべは取られたのか花粉が散ることはないが、離れていても芳醇な香りを振りまいている。


「リリアの、花……」

「見舞いの品で持ってきたのだが……気に入らなかっただろうか?」

「あ、いえ。ええと……お花なんて貰ったのは久しぶりで、ビックリしてしまって。あの、ありがとうございます。……いい香り」

「…………好きか?」


 探るような問いかけに、コクリとうなずく。

 花に顔を埋めるようにして匂いを嗅ぐステラシアを、アルトラシオンがジッと見つめた。

 ステラシアは花が好きだ。師匠のところでは野菜や薬草だけでなく、いくつかの花も育てていたから。食べられなくても、薬にならなくても、色合いや香りで癒やされる花は、ステラシアにとっても師匠にとっても大事なものだった。

 特に、リリアの花はステラシアには特別だ。


(……リリアの花は難しくて、畑ではぜったい育てられないんだけどね)


 そう。それも、綺麗な水のある畔でなければ……


(あれ?)


 ふと、目の前で陽に透けたような金色が揺れた気がした。


「ステラ」


 名を呼ばれて肩が跳ねる。返事をするだけで視線を落としたままのステラシアの頬に手を添えて、アルトラシオンは上を向けさせる。


「どうした?」

「な、なにもないです」

「他になにか、欲しいものがあるのか?」

「いい、え。お花だけでじゅうぶんです……」


 第一王子の、星を宿したような紫の瞳に見つめられると、ステラシアは落ち着かなくなる。

 オロオロと彷徨わせる瞳を絡めとるようにアルトラシオンは覗き込むので、焦ってしまう。ステラシアの瞳など、王子殿下が眺めたところで楽しいものではないはずだ。

 こんな、色ばかり 濃い、 暗 い  瞳   な  ど   ――――


『あなたの目! それが悪いのよ! まるで悪魔みたい。気持ち悪い!』


 不意に、心臓がドクリと嫌な音を立てた。

 そっと押しのけるように、アルトラシオンに抱えていたリリアの花束を押し付ける。


「殿下、近いです……。そ、それに、あまりわたしの目を見ては、ダメです」

「なぜだ?」

「なぜって……だ、だってわたしの目の色は、気持ち悪いって」

「そのようなこと、誰が言った? あなたの瞳は、まるで夜空に散らばる星のようで、綺麗だ」

「き、れ……へあぁ!?」


 その日、ステラシアはアルトラシオンとなにを話したのか、いまいちよく覚えていない。


 それから毎日、アルトラシオンはステラシアのもとにやってきて、そして毎日違う花を手渡してくるようになった。ピンクのローゼリア、黄色いナルシエス、淡い紫のラベンダー……。どれも色鮮やかでステラシアの目を楽しませてくれたけれど。

 あまりにも頻繁すぎて、もう花瓶の置くところがないと嘆けば、二日に一回はお菓子に変わった。

 いま王都で人気のお菓子ばかりだと言われれば、森での生活が長く嗜好品は自分で作るしかなかったステラシアにとって、驚くほどおいしいものばかりだったけれど、さすがに二日に一回は量が多すぎる。

 侍女として片時も離れることのなくなったマリンに、無理を言って一緒に食べてもらうけれど追いつかない。この城の人たちにも配ってほしいと持っていってもらうけれど、食べかけの箱が積み上がり続ける。いくらなんでもこのままではお菓子がもったいない。

 こんなに食べられないから、と遠慮すれば、なぜかお菓子と花の合間に、こんどはドレスやら宝飾品やら靴やらが届くようになって、ステラシアは逆に震え上がった。

 もうお見舞いの品は必要ない、とアルトラシオンに泣きついたところ、不満そうにしながらも「わかった、控えよう」と了承してくれた。

 渋々ながら引き下がるその姿は、少しだけあの夜を彷彿とさせるものだったのだが。若干黒いものが漏れ出していたような気もするが、まぁおそらくステラシアの目の錯覚だろう。

 それでも、アルトラシオンは飽きもせず、三日に一度は花束を持って、ステラシアのところへやってくるのである。



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