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聖なる星の乙女と予言の王子  作者: 桜海
5.

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なにかが足りない日常

2026年、あけましておめでとうございます。

 アルトラシオンが討伐遠征に出立してから、十日ほどが経った。先の彼の話通りなら、今頃、魔獣が大量発生したという子爵領に到着しているだろう。

 厨房からフラフラと外に出たステラシアは、もの言いたげな視線を向けるマリンとともに、第一王子宮の図書室へと向かった。

 室内は相変わらず薄暗くて、魔光燈が淡い光を放っている。それがとても落ち着いて、ステラシアは備え付けられたソファに深く腰をおろした。


「マリンさん、今日もよろしくお願いします」


 頭を下げるステラシアに複雑そうな顔をしつつも、マリンは諦めたようにステラシアの隣に腰を下ろす。


「かしこまりました。でもステラ様、体調がすぐれないようでしたら、途中でやめますからね!」


 プリプリとながら釘を刺すマリンに、ステラシアは苦笑する。でも、そこでやめるわけにいかないから、「大丈夫ですよ」と言ってはぐらかした。

 豊穣祭の夜会以降、ステラシアの生活はこの第一王子宮に連れて来られた当時に戻っていた。

 違うのは、朝晩のアルトラシオンの世話にちょっとした会話が増えたこと。それから、たまに午後のお茶の時間に第一王子がやって来ること。詰め込み式の勉強がなくなったこと。

 そして、あの夜以降から、こうして図書室でマリンと星の力のコントロールを試していること。

 ステラシアは、マリンとイアンに自分が星の力を持っていることを正直に話した。師匠によってその力を封じられていることも。

 その話を聞いた二人は、特に驚くこともなくステラシアの話に頷いた。なんとなくわかっていたのだという。

 特にマリンは、その人間の保持している星の力を視ることができる特殊な"眼"を持っていた。だから、初対面の時点でステラシアの力量を視て知っていたらしい。

 初めて会ったとき、全然乗り気ではなさそうだったのに、急にやる気を出したのはそのせいだったと本人から聞いて、ステラシアはなんだか納得してしまった。


『だってもう、こんなに綺麗な星の力を持っている方なんてそうそういないですし、ひと目で好きになっちゃったんです〜!』


 とはマリン談。まぁ、余談である。


 そんなわけで、朝食が終わったら庭の散歩をすることも、厨房で午後のお茶用に焼き菓子を作ることも、作り終わったら図書室へ行くことも、マリンに促されて午後のティータイムになることも、以前とまったく変わらないように感じる。


(感じる、だけで、ぜんぜん一緒じゃない……)


 だって、いまはアルトラシオンがいない。

 この第一王子宮に来てからまだ一年も経っていないのに、彼との朝晩の身支度も、食事も、たまに現れる午後のティータイムも、ステラシアにはなんだか当たり前のような日々になっていたから。


「では、ステラ様。星の力を使ってみてください」


「はい」


 マリンの声に合わせて、ステラシアはその身に宿る力を解放する。初めは少しずつ。徐々に出力を上げて。

 いまなら、以前路地裏で治癒した白猫もそんなに時間をかけずに治せそう。そう思ったところで、クラリと視界が揺れる。

 数年前、大鹿の四肢欠損を治癒したときのように、自分の中の生命力がごっそり無くなっていくのがわかる。


(前は、ここまでじゃなかった……。あの鹿を治癒したときに師匠に怒られて、それから……)


 それ以前は、それなりに動物たちを癒やせていたのに。おそらく、師匠がなにかした。

 額に汗が滲み始めた頃、ステラシアの手が温かいものに包まれ、逆に星の力が流れ込んでくる。


「そこまでですよ、ステラ様。無理はよくありません」


「あ……マリン、さん」


 失った生命力を補うように、マリンの星の力がステラシアの大きすぎる器を少しずつ満たしていく。

 そしてある程度満たされたところで、マリンはピタリと力の放出を止めた。


(コントロールがすごくじょうず……)


 さすが、騎士団に所属できるほどの星の乙女だ、とでも言うのだろうか。見極めが適切すぎる。

 重く感じた体がスッキリして、ステラシアは深く息を吐いた。


「どうしたら、師匠の封印を解けるんだろう……」


 ステラシアの呟きに、少し離れて様子を見守っていたイアンが目を細める。薄く口を開き、けれど何も言わずに沈黙する。

 ステラシアは、部屋から持ってきた本に視線を落とした。数日前にこの図書室から持ち出したものとは別の本だ。『星の力と神々の謎』というタイトルが金色に光っている。本当なら、持ち歩くのすら恐ろしい本だけれど。


(どの本を読んでも、星の力の封印のことなんて書いてなかった……)


 先日、アルトラシオンの過去の話を聞いた。彼は、幼い頃に王妃によって魔力を封じられたと言っていた。

 それは、ステラシアが師匠に星の力を封じられたこととは、別なのだろうか。


(殿下に聞けば、どうやって封印を解いたのかわかるかもしれないけど……)


 なんとなく、ステラシアはそうしたくなかった。

 これは、自分の力だけで、どうにかしたいと思った。

 本を机の上に置いて、立ち上がる。胸の前で静かに拳を握りしめた。


(せめて、場の浄化くらいはできるように、少しくらい封印の力を緩められれば……)


 そうすれば、自分だってただ守られるだけでなく、第一王子(あのひと)の役に立てるかもしれないのだから。


 ◆ ◆ ◆


 アルトラシオンが不在の日々は、少しの淋しさを伴いながら、緩やかに過ぎていく。

 薄暮星の月は終わりへと向かい、季節はもうすぐ冬になろうとしている。

 はらり、はらりと紅葉した葉が落ちて、第一王子宮の庭も赤や黄色に染め上げる。

 頬を撫でる風が冷たさを増していた。


「ステラ様、今日のお散歩はこれくらいにして、そろそろ戻りましょう? 風が冷たくなってまいりました」


「うーん……わたしはまだ、大丈夫ですけど……」


 北の大陸でも南方の方の生まれのマリンは、長いこと王都にいるはずなのに、寒さに弱いらしい。

 雪が降ろうが関係なく、森で生活していたステラシアには、まだこの時期の風は涼しいくらいなのだけれど。

 腕を擦るマリンに小さく笑いながら、ステラシアは厨房へと足を向けた。

 早く中に入って、マリンを暖めてあげないと。

 離れたところから付いてくるイアンが、「マリンさん、少し鍛錬が疎かなのでは?」と口を挟んでくる。

 それに僅かに唇を尖らせて、マリンは恥ずかしそうに俯いた。


「うう……騎士にあるまじき……いえ、わたしは魔法騎士団所属だったので! あそこはほとんど魔力頼みですし!」


「……騎士なら体を鍛えないと」


「そんなこと言うイアン様は嫌です! クリフォード様みたいな脳筋にはならないでくださいね!」


 拳を握って空に突き出しながら言うマリンに、イアンが苦笑する。

 そんな彼に近づいて、ステラシアはコソコソと尋ねた。


「イアンさん、イアンさん。マリンさんてクリフォードさんのこと嫌いなんですか? なんであんなに目の敵にしてるんでしょう?」


「ふっ、ふふふふ……っ!」


 まるで内緒話をするようなステラシアの台詞に、イアンがたまらないとでも言うように吹き出して笑う。

 いつもはにこやかに笑っている彼が、目に涙を溜めてまで笑い転げるのは珍しい。ただ、その理由がわからなくて、ステラシアはきょとんと首を傾げた。

 

 三人でそんな他愛もない話をしながら、庭をぐるっと周り外から厨房へと入る。

 熱による暖かい室内に、マリンがホッとしたような顔をするのが視界の隅に映り、ステラシアは小さく笑った。


「よお、ステラ嬢ちゃん。今日もうまい菓子作っていくかい?」


「はい、コルヴィエさん! あ、今日の朝ごはんもとてもおいしかったです。ありがとうございます」


 もうすっかり仲良くなってしまった料理長とにこやかに会話をしながら、ステラシアは今日も厨房で焼き菓子を作る。

 初めはあまり歓迎されていないような雰囲気だったのに、いまやもう、すっかり菓子作りの常連だ。

 料理長だけでなく、他の料理人たちもおもしろがってステラシアにレシピを教えるものだから、彼女の菓子作りの腕だけがどんどん上がっていく。

 彼女も彼女で、教えてもらったレシピと図書室で見つけたレシピ本を組み合わせるものだから、第一王子宮のティータイムはなかなか豪勢なものとなってしまった。

 普段は、ステラシアが厨房から去ったあとこっそり第一王子付の侍従がやってきて、気づかれないように主の元へと運んでいるのだが、今はそれもない。

 いつもどおり満足するまで厨房に入り浸ったステラシアが、焼き上がった菓子をいくつかバスケットに詰めて厨房から出ていく。

 その後ろ姿を見送って、第一王子宮付き料理長は深く息を吐き出した。

 アルトラシオンが長期遠征等で王子宮を留守にすることは珍しくないのに、王子宮全体がなんだか寂しそうに感じるのは――。


「……ステラの嬢ちゃんが、なんとなく淋しそうに見えるからかねぇ」


 手のひらで隠した口元で小さく呟いたはずの声は、けれど近くにいた料理人たちには丸聞こえで。全員が苦笑するせいで居心地の悪さを感じながら、料理長は厨房の中へと入っていった。


 厨房から部屋までの廊下を、ステラシアはマリンとイアンとともにテクテクと歩く。

 今日は、図書室には行かないつもりだった。

 読みたい本は、昨日のうちに図書室から持ち出して、備え付けられていた鍵付きの棚にしっかりとしまってある。

 ぬくぬく暖かい部屋で、マリンとイアンと一緒にティータイムにしようと思ったのだ。

 先ほど作った焼き菓子はいま、ステラシアが抱えている。後ろから付いてきている二人が「持ちますよ!」と言ったのを、ステラシアは断った。

 なんとなく、腕に抱えていたかったのだ。

 第一王子宮は横に広く、厨房からステラシアの部屋までは端からほぼ端で、更に階段を上がらなくてはいけない。

 魔の森の中にあった師匠の屋敷も南北に広がっていたが、王子宮はそれ以上に大きい。ただの屋敷と比べてはいけないと、ステラシアは毎回考えを改めている。

 

「――それにしても、殿下が明け星の乙女様を連れて行かれるとは思わなかったな」


 不意に、開いたままだった窓からそんな言葉が聞こえてきて、ステラシアはピタリと足を止めた。

 東西に広い王子宮の北に面した窓は、王子宮の使用人が掃除をするときに一斉に開け放たれる。それを、誰かがひとつ、閉め忘れたらしい。

 その窓から遠くに、騎士団舎が小さく見えている。あの奥に、アルトラシオンが話していた訓練場があるのかもしれない。

 チラ、と窓の外に目を向けると、すぐ近くに二人の騎士の姿があった。その制服は、近衛騎士のものだ。

 普段、クリフォードの着崩しすぎた姿を見ているせいで、きちんと制服を着用している近衛騎士を見るのはなんだか新鮮だった。


(――じゃ、なくて)


 この二人の近衛騎士は、アルトラシオンから要請を受け第一王子宮に配属された警備の騎士だろう。

 いまはもしかしたら休憩中かもしれない。北側の敷地を二人並んでゆっくり歩きながら、喋っている彼らは、ステラシアたちに気が付かない。


「ドゥーベルク公爵令嬢だよな。まさか高位の御令嬢が遠征参加を承諾するとは思わなかった」


「それは、やっぱりアレか? 明け星の乙女様が殿下の婚約者候補だから、か?」


(……え?)


 バスケットを抱える腕に、うっかり力を込めてしまった。ぐしゃりと嫌な音が聞こえて、ステラシアは慌てて腕を離す。


「あ……っ!」


 けれど、あまりに慌てすぎたのかバスケットが音を立てて床に落ちた。廊下をごろりと転がって、蓋が開く。中身が地面にぶちまけられそうになって、ステラシアは慌ててそれを拾い上げた。


「ぁ、はは……ごめんなさい。せっかくのお茶菓子を、落としてしまいました」


「ステラ様……」


 笑いながら、なんでもない風を装って、髪を耳にかける。

 早く部屋に行きましょう? そう言って、さっさとこの場を通り過ぎようとするステラシアを、マリンが窺うように見てくる。もしかしたら、知っていたのかもしれない。

 そして気がつけば、すぐ後ろにいたはずの護衛の姿が消えていた。


「あなた達、こんなところで余計な話をしているということは、よほど暇なのですね? お誂え向きに、そこに訓練場があります。鳥を飛ばしておくので、そこでみっちり鍛えてきなさい」


「あ、アリオトル様……!」


 消えたと思ったイアンの声が外から聞こえてくる。

 驚いて窓に近寄ろうとしたステラシアの腕を、マリンがそっと掴んで立ち止まらせた。

 開いた窓から、ひらりと長身の男が入ってくる。冬の始まりの淡い陽光に照らされて、薄茶の瞳が一瞬金色に見えた。

 窓枠を飛び越えたイアンは、ステラシアに微笑むと、無言で窓を閉める。彼は、ひやりとした冬の空気を連れていた。 

気がついたら、クリスマスも大晦日も元日も通り過ぎていましたね…。

なにせプレイしてるソシャゲが第2部最終章なので、ストーリー追わないといけないし、バトルで勝たないといけないし、キャラを育てないといけないし、なによりレイドバトルに間に合わせないといけなかったし…!忙しかった!(言い訳)

こんなところまで来てくださった方、ありがとうございます。

プロットが消失して落ち込んでますが風呂敷畳めるように頑張ります…。

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