本日は晴天なり。デートには絶好の日和です。④
少女は、マリリアと名乗った。貴族街と商業区の狭間に住む、ちょっと裕福な家のお嬢さん。七歳。
嗚咽の止まない彼女から根気よく話を聞いたところ、愛犬の散歩中に魔獣に遭遇し、隠れながら逃げ回っていたそうだ。
そして――、
「ルルが……っ、リリを守ってくれたの……! でもっ、でも……っ、ルル……ぅっ」
大事に抱えていた腕の中のものを、優しく地面に置いたマリリアは、また火がついたように泣き出す。
クゥン……というか細い鳴き声が、泣きじゃくる声に重なって、置かれたソレが静かに首を動かした。
「犬……」
呟いたのは、ステラシアだったか、アルトラシオンだったか。
地面に置かれたのは、灰銀の毛並みの小さな犬だった。マリリアの泣き声に反応したのか、閉じていた目が薄っすらと開く。美しい、明るい緑色の瞳だった。
小さく身じろぎをして、マリリアの足に頭を擦りつける。動きはとても緩慢だ。きっと、体はとても痛いに違いない。
「ルル……っ、ルルぅ……っ」
小さな体の真ん中から、血とともに薄らとした瘴気が漏れている。そっと転がしてみた腹には、爪痕。後ろ足の裂傷は骨が溶け始め、今にも千切れて落ちそうだ。
魔獣の体は瘴気そのもの。傷口を侵食した穢れは身体を蝕む。傷口はやがて溶け落ち、残った体をも侵していく。
――どうにかしてあげたい。
そう思っても、いまのステラシアの力では侵食の速度を少し緩めるくらいにしかならないだろう。
手も、口も、ぎゅっと閉じた。
マリリアの小さな手が、縋るようにステラシアへと伸ばされる。袖口を強く摘まれて、息を呑んだ。
「おねえちゃん……ルルを……、たすけて……っ、おねがい……」
再度、クゥンと鳴いた灰銀の犬と目が合った。喘鳴は酷く、徐々に弱まっていくのに、エメラルドのような瞳だけは輝きを失わない。
「――――っ」
できるかな、と迷った。でも、できないからと突き放すこともできなかった。
「わかった」
そう声を上げたのは、ステラシアではなくアルトラシオンだった。その、あまりにも平坦な声にハッとして、同じようにしゃがんでいた彼に目を向ける。
「いま、楽にしてやる」
シャ……と澄んだ音に続けて、立ち上がったアルトラシオンが剣を抜いた。
「――――っ!? ダメ……っ」
躊躇いもなくその切っ先をルルに向けるに至って、ステラシアは慌てて男の両腕に飛びついた。
怯えた声を上げたマリリアが、庇うようにルルへと手を伸ばしたのが見える。
うまいこと傷口に触れなかったようです、安心する。
飛びついて、勢い余って傾いだ体を、アルトラシオンに焦ったように抱き留められた。剣を握っていた右手は、いつの間にか体の後ろへと隠されている。
「……っ、ステラ、なんのつもりだ?」
抑えたような厳しい声に、ズキリと胸が痛んだ。恐る恐る見上げた男の視線が、見たことないほどに鋭く自分を見つめていて、アルトラシオンの服を握る手が小さく震えてしまう。
――殿下が、怖い。
でも、ここでこの手を離すことだけはしたくない。そんな意志を込めて、ステラシアは鋭い紫の瞳を見つめ続ける。
「……いい子だから、その手を離せ、ステラ」
「…………離しません」
「ステラ……」
「絶対に! 離しません!」
鋭い視線が和らぎ、困ったように眉を寄せられる。それでも、ステラシアはしがみついた腕を離そうとは思わなかった。離してはいけないと思った。
(離したらきっと、アルト様はこの子を殺しちゃう)
ここで、アルトラシオンにこの犬を殺させてはいけない。
なぜだろう。わからない。でも、そう、強く思う。だから、頭で思うより先に、体が動いていた。
(だって、アルト様のさっきの顔も、声も……)
何かをすべて諦めたような顔だった。感情をどこかに置き去りにして、そうすることが当たり前だというような声だった。
「ステラ……このままだと、苦しみを長引かせることになる。それは、この犬にとっても酷だろう? だから、ほら……いいから手を離せ」
剣を地面に突き立てたアルトラシオンが、何やら優しげな声音で、耳元で囁いている。するりと乱れた横髪を耳にかけられ、ステラシアは嫌々をするように首を振った。抱きついた腕を拘束するように、服を掴む力を更に強くする。
「だめ……だめです。アルト様……そんなことしちゃだめです。殺しちゃ、だめ! わたしは、アルト様にそんなことして欲しくない!」
遠巻きに、二人のやり取りを騎士たちが見つめている。誰一人、止めようとする者がいないのは、それが当たり前になっているからだろうか。
それとも止めることを、誰もが皆、諦めてしまったのだろうか。
そうだとしたら、悲しい。とても悲しい。
アルトラシオンの二つ名、『騎士団の死神』の意味を、ステラシアはようやく理解した。
(そっか……アルト様の出ていった後には生きてるモノは何も無いって、こういうこと……。魔獣も、侵食された人も動物も、アルト様が殺してたんだ)
ピリピリとしたアルトラシオンの気配に怖気づいて、今にも逃げ出したくなった。けれど、それだけは、どうしてもできない。よくわからない焦燥が、ステラシアの胸の内をジリジリと焼いている。
冷たく光る紫眼をステラシアは睨み返した。
濃く沈んだ紫の中で、銀の星が翳っている。無意識に怯みそうになる心を、睨む目に力を込めてどうにかこうにか飲み下す。
「この子は、まだ、生きてます。助けてほしいって言ってます!」
「だが、これはもうすぐ死ぬ」
「いいえ……っ!」
乾いたような声に、胸が抉られるように痛くなった。
魔獣の瘴気に侵食されたら、生きていくのも辛いと知っている。生きながら瘴気に喰われていくことに絶望するのだ。そうして死にたいと願う人たちに、アルトラシオンは刃を向けてきたのだ。
きっと、自分の感情もすべて、どこかに押し込めて。
「――死にません! ここでなにもしなければ死んでしまうかもしれない。でも、ここでなにかしてあげれば、この子はきっとまだ、生きます!」
ひゅっと息を呑むような音が聞こえた気がした。乾いたように凪いでいたアルトラシオンの瞳が、炎のように燃え上がる。ギラリと光る獰猛な輝きに身震いしてしまう。
「なら! どうしろと言う。……なぜおまえにそんなことがわかる!?」
「この子の目! 見てください!」
今まで一度も、彼の声を荒らげたところを見たことなどなかった。いつも、余裕で、不遜で、少しだけ横暴で、けれど優しくて、柔らかく微笑んでくれて。
そうやって必死にステラシアに隠してきた感情を、アルトラシオンは彼女にぶつけていた。
名前を呼ばれなかったことが悲しかった。けれど、いつもうまく隠してしまうこの男の本音を少しだけ見られたのだと、そんな場合ではないのに、胸が震えた。
(そうだ……この人は、なに考えてるんだかわからない人だった。でもきっと、自分でもどうしていいかわからなくて、藻掻いて足掻いて苦しんでる人……)
そっと、アルトラシオンの頬に指で触れる。もう一度、目を見てくださいと、囁いた。
「目……?」
戸惑ったように呟いて、揺れた瞳が横たわる灰銀の犬へと向く。
そのことに安堵して、ステラシアは両手で彼の頬を包み込んだ。引き寄せて、背伸びをして。コツン、と額を突き合わせて、目を閉じる。
ザリ……と足元で、砂利の擦れる音がする。
「この子は、まだ諦めてません。リリちゃんを守りたい! ってそう言っています。そういう子は――こういう瞳をした子は、強いんです。負けないんです」
「……だ、が」
ふ、と目を開けると、苛烈でもなく、無機質でもなく、ただ怯えたような、迷子の子どものような星を湛えた紫の瞳がある。その瞳を覗き込みながら、ステラシアは微笑んだ。
「そうやって生きたいと願う思いを、心を、アルト様が勝手に踏みにじって結末を決めていいなんてこと、ないんです。絶対に。そんなこと、アルト様が一人で抱え込むことじゃないんですよ。――だから、アルト様。この子を、助けてあげてください」
迷子のように揺れていた瞳が、パチリといちど瞬いた。
(だって、こんなこと続けてたら、アルトさまの心が端からどんどん裂けて、壊れちゃう)
――ああ、そうだ。きっと、わたしはアルトさまに安心して笑っていてほしいんだ。
アルトラシオンの腕から手を離しても、彼はもう剣に腕を伸ばそうとはしなかった。
そしてあの日、自分もその剣で殺されるところだったことを思い出す。
それを、死にたくないから助けろと言って、そんな死に損ないの我儘をこの人が聞き入れてくれたことも。
(星の力は自らの生命力を分け与えるもの。だから簡単に"使ってほしい"なんて言っちゃいけない。でも……アルト様は、あの日、わたしの言葉を受け入れてくれた。助けてくれた。だったら、きっと――)
「ステラ……」
惑いながらも、頬に触れているステラシアの手に、アルトラシオンが手を重ねる。普段から体温の低い人だと思ってはいたが、今は氷のように冷たい。
「大丈夫です。だってアルト様はあの日、私を助けてくれたじゃないですか。……瘴気に侵された人を助けられるのは、星の力を持った人だけ。だから、あなたは、誰かを助けることができる人」
頬を撫でるように、親指を動かした。
「殺すことが救いだなんて、思わないで……」
ポツリと零した言葉に、アルトラシオンの手が震えた。触れられていただけの手が、ぎゅうっと強く握られる。
「それに、今日はわたしの生まれた日です」
「…………?」
唐突な彼女の言葉に、今度はアルトラシオンの瞳が疑問で揺れる。ふふっと悪戯をする前の子どものように微笑んで、ステラシアは静かにアルトラシオンから離れた。握られた手だけが、二人の間を繋いでいる。
「何か一つだけ、わたしのお願いが叶えられる日なんです。だから、ねぇアルト様……。わたしの願いごと、叶えてくれますか?」
片手だけ離して、指先を唇に当てて、強請るように男を見上げれば、無機質に強張っていたアルトラシオンの表情が、緩んだ。
輝きを取り戻したような瞳の色に、ほっとする。ゆっくりと降りてきたアルトラシオンの顔が、ステラシアのすぐ手前で止まり、肩口へと落ちる。
「わかった。おまえの願いを叶えよう、ステラ」
やれやれと首を回しながら、アルトラシオンがルルの前へと腰を落とした。
すぐに、淡い光がルルの体を包み込むのを見て、ステラシアはマリリアのそばにしゃがみ込む。大丈夫だよと頷きながら、その小さな手を取って両手で包んだ。
「ったく……こっちの力での治癒は苦手なんだがな、俺は……」
ゆっくり繊細に力を操りながら、何かボヤいているようだが、とりあえずステラシアは聞かなかったことにした。
「俺が誰かをこの力で救うのは、おまえが願ったときだけだからな、ステラ」
「…………」
淡い光に美しい金の髪を照らされながら、アルトラシオンがそう囁く。返す言葉もなく、無言で微笑んで、徐々に治っていく灰銀の犬を見つめた。
(それで……それだけで、じゅうぶんです)
――いまは、まだ。
ざあっとどこか暖かな風が、吹き抜けていった。
◆ ◆ ◆
入っていいぞ、と言う声が聞こえて、目の前のドアを開けた。室内はカーテンが引かれて薄暗く、控えめな魔光燈の灯りがゆらゆら揺れている。火ではないのに揺れるのはどういう仕組みなんだろうか。
ソファに腰掛けたアルトラシオンはすでに寝る支度を調えていたようだ。
お仕着せを着てその支度の手伝いに来たはずのステラシアは、わずかに頬を膨らませる。
これでは側仕えの意味がない。
そう思うが、本来この男に側仕えなど必要ないのだろうということは、毎日身支度を手伝っていてヒシヒシと感じている。
「今日は、ありがとうございました」
お仕着せのスカートを摘み、頭を下げる。
外出から第一王子宮へと戻り、事後処理に奔走していたアルトラシオンとは、今の今まで言葉を交わすこともできなかった。だから、一番はじめにこれを言う、と決めていたのだ。
「ステラ……」
今日は、とても濃い一日だった。
王都巡りをしたことも、屋台のごはんを二人で食べたことも、魔獣の襲撃から助けてくれたことも、ステラシアの願いを聞き入れてくれたことも。どれもが嬉しくて、胸がいっぱいだったから。
深く頭を下げていると、こちらに来いと言うアルトラシオンの声がする。
呼ばれるまま彼の腰掛けたソファへと近づけば、ポンポンと隣の座面を叩かれた。
いいのかな、と戸惑うのは一瞬。昼間に並んで食事をしたことも、先日の夜会で並んで夕食を摂ったことも思い出して、まぁ今日だけはいいか、と開き直る。
おずおずと腰を下ろした途端、横から伸びてきた腕に腰を攫われ、ステラシアはアルトラシオンに抱きしめられていた。
「殿下!?」
「……呼び方」
「え、いえ、だって今は……」
外じゃないし。言いかけた言葉は、更に強く抱きこまれたせいで引っ込んでいく。
「俺は……」
言葉が、吐息とともに首筋を撫でて、擽ったい。けれど、重く落とされたその呟きにステラシアの抵抗が緩む。
「俺は、生まれた翌日に『国を救う者』という託宣を受けた」
それは、この国の慣習のようなものだった。特に、貴族以上の家での。
子の生まれた次の日に、託宣師に子の未来を予言させること。王家もやはり例外ではないらしい。
「それと同時に、『国を滅ぼす者』という託宣も受けた」
ひゅっと、喉が鳴った。
(そ、それは……国家機密レベルの話なのでは……?)
重要な秘密を打ち明けられたことに密かに震えていたら、それが伝わったのかアルトラシオンが低く笑う。
「安心しろ。この国のほとんどの貴族家が知っていることだ」
その言葉に、胸を撫で下ろすことはできず、ステラシアは唇を噛み締めた。貴族じゃないですから! と茶化すことなんて、もちろんできない。
本来、子どもの未来は白紙であるべきだ。そう、ステラシアは信じている。未来など知らず、伸びやかに成長して、己の力で描いていくものであるはずなのだ。
良い託宣だったのなら、諸手を上げて喜べる。
けれどそれが、悪い託宣だったら?
第一王子のように、どちらとも取れない未来だったら?
良くない未来を告げられた家は、そのことを口外せず隠すことにする。
けれど、アルトラシオンの場合はそうはいかなかった。高位貴族のほとんどが集まる場で、公に広められてしまった。
周囲の目は祝福より先に痛ましいものに変わり、侮蔑と嘲りと、憐憫を向けられる。
それがいい環境だなどと、ステラシアには思えなかった。
国を救う者――されど国を滅ぼす者。そのような予言を託宣師から授けられた彼の幼少期は、きっと、決して楽なものではなかっただろう。
知らないはずなのに、そのことをなぜか理解できてしまっている。胸の奥がざわざわと落ち着かない。
「俺を拒絶する者、過剰に守ろうとする者。排除しようと刺客を送り込む者、甘言でもって擦り寄ろうとする者。いろんなヤツがいた。そして結局俺は……殺すことしかできない。あの時も……。今日だって、俺は……。いつまで、俺は殺せばいい。いつまで……どれくらい――」
震える声も、抱きしめる腕も、縋られているようで苦しくなる。
ステラシアが抜け出して怒られたあの夜も、アルトラシオンはこうやって彼女に縋りついていた。だが、あの時よりももっと、切実なものがそこにあるような、そんな気がする。
(あの時は、この人のことがわからないと、そう思ったけど……)
今は、違う。そう、思う。
今日一日で、彼の顔をたくさん見た。楽しそうな微笑みも、揶揄うような笑みも、穏やかな表情をたくさん見せてくれた。
ステラシアの言葉をきちんと聞いてくれていることも、ちゃんと伝わった。
(あの露店のおじさんに「ありがとう」って、言ってくれたの、わたしちゃんと聞いてたから)
腕を伸ばし、広い背中を抱きしめる。ビクリと、アルトラシオンの腕が跳ねた。まさかステラシアから抱きつくとは思っていなかったらしい。
ゆっくりと、背中を撫で擦りながら、「違いますよ」とステラシアは言う。
「今日、アルト様はちゃんと救ったんです。あなたのその力で、あの犬を。あの女の子の心を」
「ここ、ろ……?」
去り際の、マリリアの泣き出しそうな笑顔を思い浮かべ、ステラシアは腕の中でコクリと頷いた。良い、笑顔だった。晴れ晴れとして、嬉しそうで。良かった、と一緒に泣き笑いしたくなるような、そんな。
「たとえあそこであのワンちゃんが命を落としたとしても……それでもアルト様の行動で、リリちゃんの心は救われていたと思います」
そう言って、腕の中からアルトラシオンを見上げ、ステラシアは微笑んだ。
「心……そう、か」
アルトラシオンの瞳が、眩しいものを見るように細められる。
抱きしめる腕がほどかれ、ステラシアも身を起こす。
その頬を大きな手のひらが包み込んだ。少し低い体温が、ステラシアの頬の熱とじんわりと交わっていく。
スリ……と親指が何かを確かめるように肌をなぞった。
「ん……」
感触に思わず漏れ出た声を飲み込んで、ステラシアは片手で口元を押さえた。その手を、アルトラシオンが手首を掴んで剥がしてしまう。
ゆっくりと降りてきた男の顔が、あまりにも綺麗で、直視できなくて。ステラシアは慌ててぎゅっと目を閉じた。
「ぅ……んっ」
唇に、吐息とともに熱を感じ、焦る。一瞬で離れたそれは左の耳へと移り、微かに空気を震わせる。
「ここで目を瞑るのは、悪手だぞ」
「で、ででで殿、下!? なっ、なななななに、を」
「……呼び方」
(そ、そんなことどうだっていいよ!! だ、だ、だって、い、いま……キ……っ)
そこから先を考えられずに思考を全力で遠くへ放り投げた。だというのに、頬だけがどんどん熱くなっていく。きっと今、ステラシアの頬は真っ赤に染まっているはずだ。
「ふっ……クッ……は、はははっ」
「あ、アルトさまー!?」
声を上げて笑う彼を珍しいと思うけれど、そんなこともステラシアは考えていられない。
(だ、だって! は、初めてだったのに!!)
口づけに嫌悪感がなかったことを、ステラシアは気が付かない。
焦って挙動のおかしいステラシアを面白そうに眺めながら、アルトラシオンはその細い肩を再び腕の中に閉じ込める。
縋るようではなく、包み込むように。けれど、ステラシアはもう、逃げられない。
頭頂部に吐息を感じ、またぞろ落ち着かなくなる。きっとそこに、アルトラシオンが唇を落としている。
「俺の話を、聞いてくれるか?」
頭の中に直接吹き込むように発せられた言葉に、ステラシアはゆっくりと頷いた。
寝る支度を自ら調えてしまった男の寝衣を、ぎゅっと握りしめる。
――長い夜になりそうだな、とそう思った。
三章終わったー
次の章書き終わるまで一旦休み。




