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【Side:Alt】はじめて、だった

 睨みつけたと思ったら啖呵を切って、そのまま意識を失った少女を片腕に抱き止め、アルトラシオンはツイ、と視線を後ろへ流した。

 この場へ辿り着く前に、遅いからと振り切ってきた男たちがようやく追いついたらしい。彼らに軽く指を振って指示を出し、アルトラシオンは少女に向かって手をかざす。手のひらのうちに柔らかな光を凝縮させ、少女の腹部へと注ぎ込んでいく。自身で生み出した光を見つめ、アルトラシオンは淡い金の眉を顰めた。

 どこをどうしたらこのように抉れるのか。出血量も馬鹿にならないが、この少女の腹部からは骨だけではなく内臓もこぼれていた。よくもまあ、この状態で、自らに剣を突きつけていた男へ啖呵を切れたものだと感心する。

 そして、自分を強く見上げた濃藍の瞳を思い出し、フッと口角を持ち上げた。まるで星が宿ったような瞳だった。キラキラと輝いて、生を渇望する、真っ直ぐな。


「はじめて、だな」


 死を拒まれたのも、生を請われたのも。なんなら、あんなに強く睨まれたのも、初めてだったかもしれない。


(ああ、そうだ。こうして女を腕に抱いているのも――)


 いや待て、……おんな?

 ふるりと一度頭を振る。首元で結わえた長い金髪がひと筋、外套から飛び出て肩を滑った。

 ゆるゆると、少女の腹部を癒やす光に視線を戻し、アルトラシオンは苦笑した。


「もう少し、治癒を勉強しておくべきだったな……」


 苦手なのだ。こういう繊細な力の使い方は。

 アルトラシオンは、剣を振るって魔獣を討伐したり瘴気を切り裂いて浄化していくほうが得意だった。あとは周りのことなど気にせずドカンと大規模魔法を使用したり――。と、まあ、とにかく、本来なら、こういうことは側近にまるっと任せるのだが。


「くそ……もう、どうにかしているな」


 ほかの奴らに触らせたくない、などと思うなんて。

 少女のほっそりした頬に、血のついた髪が張り付いていた。銀色にも金色にも見えるこの不思議な色合いは、陽の下で見ればさぞ美しいに違いない。そっと指先で払って、汚れの目立つ白い肌をなぞる。


(早く風呂に入れてやるべきか。いや、まずは医者……それとも食事か? ああそうだ、名前も聞かなくては……あ、いや待て。俺はなにを――)


 とりとめもなく巡る思考に自嘲気味に唇を歪ませ、アルトラシオンはすっかり傷の癒えた少女の肢体を、自ら横抱きに持ち上げたのだった。



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