【Side:Alt】母から託されたもの
短い話をねじ込むねじ込む…
『アルトラシオン。これは、わたくしからの贈り物です。いつか……あなたが心からそばにいて欲しい、いちばん大事だと思った子に、使ってあげてね』
『心、から……?』
まだその意味がわからなかった幼い頃。母の体に消えない傷をつけてしまったあの頃のこと。
不思議そうに首を傾げる無表情の小さな王子に、母――王妃は包み込むような笑顔を向けていた。
膝の上に弟を乗せて、片腕で妹を抱いて床に膝を突きながら、泣くことも忘れた王子を抱きしめて。
両の手のひらに載せられた、パープルダイヤモンドとバイオレットダイヤモンドが、濃く、淡く、輝いていて、温かくて。そして、今はそれが少し――重たい。
「残ったのは、この一つ、だけだな……」
見つけるたびに購入していたバイオレットダイヤモンドは、先日ステラのために差し出した。
驚いたように目を瞠る彼女の、星空のような瞳を思い出して、寝室で一人、笑みを浮かべる。
どれだけ探しても他に手に入らなかったパープルダイヤモンドは、手の中に一つコロリと転がった。
これもまた、彼女に贈りたい。今度は唯一無二のものを。
――あの白くて細く、柔らかな指に。
「……まったく、気の早い話だな」
何も伝えない前から、そんな妄想をするほどに、己はあの娘に心を奪われている。いつからか、最初からか、なぜなのか、何もわからないけれど、どうしても――惹かれている。
「俺は存外、重たい男のようだ」
星空を隠すように顔を覗かせた朝日に手の中の紫をかざし、クツリと笑う。
寝室の外から、微かに近づいてくる人の気配を感じ、アルトラシオンは静かにその貴石を、ナイトテーブルの引き出しにしまった。
コンコン、と控えめなノックの音に、胸の奥が擽ったくなる。この時間に、寝室を訪れる存在は、いまやもう一人だけだ。
起きてますか? と優しい声音が耳に届き、彼女を迎え入れるためにアルトラシオンはベッドを降りた。
いつか、母上に"どうしてあのダイヤだったのか?"そう聞いたら、きっと、こう返ってくるに違いない。
『あなたの瞳の色だったからですよ』
これは、どう考えても二章と三章の間のお話だった




