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「あれれれ、ここはどこだ」
俺はよくわからない場所にいた。
雲に囲まれた場所だ。
とんでもない、こんな場所があっただなんて。俺は一体何をしていたのか。どこで何をしていたというのだろうか。本当にまるでわからない、真相はすべて闇の中というわけですかい。
「うほほほほほほほほ! めざめたかのしょうねん、えらいこっちゃえらいこっちゃ」
目の前に急にえらいこっちゃ星人があらわれた。
なんだこいつー! きもちわりいいい! でもなんか可愛い感じもあるな。誰だろうこの人、なんだかすごく神様っぽい雰囲気を放ってるおじさんだなぁ!
「こんにちは! 何がえらいこっちゃなんですか?」
「とんでもないんじゃよ。本当にとんでもないことが起こっておるんじゃよ」
俺は思わず首を傾げてしまった。
とんでもないことがおこっているとは一体どういうことなのか。
脈絡もなにもないのでなんにもわからない。
「凄まじいんじゃよ。とにかく凄まじんじゃ。すべての人間がうおっとなるほど凄まじいことが起こっておるんじゃ」
「それが何か教えて下さいよ。お願いしますから教えて下さい」
「土下座してくれたらまぁ教えてやらんくもないな。土下座はそう難しくはないだろう」
「いえ、いやです。僕は土下座はしたくありません。僕はいやなことにはノーといえる人間になりたいんです。だからあなたみたいなよくわからない人に土下座は絶対にしません。これはもう俺の中で決まってしまっていることなのです」
「そうかそれはすごく残念じゃ。とてつもなく残念じゃよ。お主の土下座、見てみたかったなぁ」
おじいさんはぶりっ子ポーズを取っていた。
かわいい! きゃわいすぎる! もうもえもえで抱きつきたい気分だよ。
「まぁそんなことはいいのじゃ。問題はとある世界がえらいこっちゃになっておることなんじゃからな」
「なんですか、そのとある世界というのは。まさか地球以外に世界があるなんてこと言い出さないですよね!?」
「そのまさかじゃよ。お主は非常に聡明じゃの。聡明すぎてほんとうに嫁にしたくなるのう。まぁでも男じゃからお主にはかなり無理を押し付けることになってしまうとは思うが、それでも我慢してくれんか?」
「何言ってるんですか気色悪い、絶対にいやですよ。なんで爺さんの嫁にならないといけないんだ。しかも嫁っていうのが本当にいやだ、せめて夫のほうにしてくれよ! そして俺が上から爺さんをいたぶってやるんだ。家庭内暴力をふるうことも俺の夢のひとつだから」
「その、好きじゃ。お主、儂の嫁になってはおくれんか」
「おええええええええええええええええええ!! きっしょ! これは完全にきっしょきっしょですわ。もう胃がもちませんわ。完全にアウトです。ごくろうさまでした。僕はこの世界を完全にさりたいと思いますわ。ええ」
「なにをいうておるんじゃ、ここはもうお主のおった世界ではないわい。いやそもそもここ自体が世界ではないの」
「どいうことですか? まさかこの期に及んで寝ぼけてるんですか? それとも認知症やアルツハイマーなどの症状で完全にボケてやがるんですか? そんなの許されませんよ。絶対に許されません!」
「いやー、ここは天国なんじゃよ。ものすごいじゃろ? それが天国というものなのじゃよ。理解はできんかもしれんがの」
「全然できませんよ。すごいんですね。でも信じちゃいますよ。なんでかここが普通の場所ではないということは理解していましたから。もし僕がその辺の理解が追いついていないということであれば、こんな雲に囲まれた状況でこんなに落ち着いて喋ってはいられませんよ。もっと取り乱しているはずですきっと。だから僕は心のどこかではここが現実とは切り離された空間だな。そう思っていたんですよ」
「なるほど、やはりお主は聡明なようじゃ。かなりいい感じに聡明のようじゃの。マジで感動ものじゃな。お主に拍手を送りたいじゃが、そのかわりに今丁度出てしまったにぎりっぺを送ろう。おりゃ」
「うわ! そんなもん投げつけてくんなよ。マジでくさ! 本当にくさいんですけど、これどうなってるんですか。マジでダイレクトでへの匂いがこびりついてくるんですけど。もう顔は必死でそらしましたが全然時遅しという感じでしたよ。本当にもうどうしてくれるんだ。完全に鼻が曲がっちゃったじゃないですか」
「ん? 見た感じは全然曲がっておらんように思えるぞ。何かの勘違いじゃないか?」
「そんな小首をかしげられても困りますよ。僕はどう反応したら良いんですか。アホすぎてもう突っ込む気にすらならないですよ。あなたのその才能はすごいと思いますよ」
「いや、すごいのはお主のほうじゃよ。この状況にもかかわらずこれだけペラペラ喋れるというのはマジで一種の才能じゃの。お主の脳細胞を儂の脇とどっきんぐしてあげたい気分じゃ」
「意味不明ですよ」
「そうしてお主の脳細胞から儂の脇汗がどばっと出るんじゃ。そしてそれを急いでぺろっとするんじゃよ。そうしていい塩梅の塩分を感じられると思うんじゃ。夏バテ防止になるからの」