Cな彼女とAなオレ
静かな朝、静かな部屋、そしてそこで沸き起こっているスースーという静かな寝息。っとそこで一人の少女がその寝息の源である少年をホゥッとしたような顔で見つめていた。
肩ぐらいまで伸ばしている綺麗な黒髪、高い鼻に少し下にタレている目と一般的に見れば美人…いや、カワイイと呼ばれる部類に入るだろう。その少女が少年の寝顔をジッと見ていた。
「うぅん・・・?」
少年が声を出して横に転がる。起きたか?・・・いやどうやらただの軽い寝言のようだ。
「フフフッ・・・」
それを見た少女は頬を朱に染めて溶けてしまいそうな顔で笑った。それは瞳は少し狂気を含んでいた。顔はカワイイのにもったいない。
「う~ん・・・?」
おっとどうやら今度は本当に少年が起きたようだ。では自分はこの辺で失礼しよう。
「う~ん?」
「おはよう。諒君。」
「おはよう沙月。・・・ていうか何でここにいるの?」
目を開けると、目の前にはオレの彼女、沙月がいた。
沙月はオレの顔をしばらく見続けると笑って質問に答えた。
「諒君に早く会いたくて来ちゃった~」
・・・来ちゃった~ってこの家オートロックなんですけど?しかもオートロック破られたらさらに警備会社に連絡行くハズなんですけど?つかどうやってオートロック破ったあぁああぁあ!?
「朝食出来てるから早く降りてきてね~。」
オレが目を見開いて固まっていると沙月はサッサと部屋を出て行ってしまった。おい待てぇ!?どうやってオートロック破ったあぁ!?
考えても分からないしいつもの事なので仕方無くオレは沙月を追いかけて階段を降りていく。台所ではすでに沙月が朝食を並べていた。
「今日はデートに行く日なんだから早く食べて行こうよぅ。」
「分かったから落ち着こう?」
オレは席に着くと目の前の目玉焼きを一口食べる。うむ、美味い。
「沙月は相変わらず料理が上手いな~」
「隠し味は私の愛情だよ~?」
こうしてオレと沙月はイチャイチャしながら朝食を食べ終えた後、近くのデパートで買い物に出かける事にした。
「色々あるね~!」
「そうだな。とりあえず腕から離れようか?」
「どうして?諒は私が嫌い?」
「いやっ…そんな事は無いが・・・」
沙月が目をウルウルさせながらオレを上目遣いで見つめる。ハァッ・・・オレ、この目に弱いんだよ。
「分かったよ…」
「それに今日は付き合って三年記念だよ?少し位甘えてもいいよね!」
そう、今日は沙月と付き合って一年のいわゆる出会い記念のデートだ。思えばよくこんなに長く続いたな~・・・
隣の沙月を見る。沙月はオレの腕を組んで嬉しそうに歩いている。オレがこんなカワイイ子と三年も付き合っている事が奇跡だよな。ただ一つ、問題が無ければ・・・・
「それにお前いいのか?学校のやつらに見つかったら「よぅ、諒と北川さんじゃねぇか。」ゲフゥッ!?」
「た、田中君こんにちは!」
沙月に話しかけようとした突如、沙月に突き飛ばされ、オレは洋服の中にダイブした。ついでに北川とは沙月の苗字なのだが・・・グフッ、体が痛ぇ。
「・・・諒は大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。バカ諒だからな。」
田中と呼ばれた少年が話しかけると沙月はさっきとは明らかに違う口調でオレを罵倒した。そのつりあがった目はさっきの沙月とは思えない程の豹変ぶりだ。そう、これが沙月の唯一の問題・・・
「バカって・・・」
「いつまで寝ているんだ。サッサと起きろ。」
「ガフッ!?」
沙月は寝ているオレの腹に蹴りを入れた。尋常じゃない痛みがオレを襲う。店でなんでケガ負わされているんだオレ・・・・
「相変わらず仲がいいな。」
「どこがだ?こんなヤツと仲良く思われては困る。」
「ハハハッあんまり厳しくしすぎるとフラれますよ?じゃあ諒、がんばれよ~!」
そうして田中はゲーム売り場の方へと向かっていった。あいつめ・・・こんどゲームを目の前で破壊してくれる・・・
「じゃあまた。・・・諒君大丈夫~!?」
大丈夫ってお前がやったんだろうが…しかも腹に蹴りのオマケ付きで。
「大丈夫だ。しかしお前も相変わらずだな~」
「ごめんね!ごめんね~!?」
沙月は目に涙を溜めながら必死に謝ってくる。先ほどとはエライ違い様だ。
コレがオレの彼女の一番の問題、性格の豹変。つまり、二人きりではデレデレになるのだが一人でも知り合いがいるとあのようにクールでオマケに暴力的なるのだ。本人曰く恥ずかしさでああなるらしい。
「オレは大丈夫だから泣くな。」
「でも、でもぉ・・・やっぱりごめんよぉ?」
「しかし三年も付き合っているのに性格変わる癖は直らないんだなぁ・・・」
最初にこの癖を知った時は驚愕したものだ。田中が近づいてきた途端に腹にパンチだもんな。ちなみに田中とはさっき会った男でオレの同級生だ。
「直そうと思ってるんだけどぉ…やっぱり恥ずかしくて・・・」
まぁこれもコイツの個性だと思うしオレは良いと思うんだが三年付き合ってアレをされると中々キツイものがある。というか親戚とか家族とかに会った時はどうするんだ?親の前で彼氏殴る事になるぞ。
「んじゃ買い物の続きしようか。」
「私アクセサリーが欲しいな!」
「了解。」
沙月の提案でオレ達はアクセサリー売り場に向かった。アクセサリー売り場に行くと沙月があるネックレスをオレに見せてきた。
Cと描かれたネックレスとAと描かれたネックレス、オレはそれが欲しいのか?と沙月に聞こうとしたがその前に後ろから来た声に先を越された。後ろ見ると、声を掛けてきたのは年上らしいなんともイケメンな青年だった。
「北川さんじゃないか。奇遇だなぁ。」
「あ、先輩。こんにちは。」
その青年の姿を見ると、沙月もあいさつをする。仲が良さそうだが部活の先輩か何かだろうか?ちなみに沙月は弓道部に所属している。
オレの中で何か嫉妬に近い感情が湧き出ている時にその次の言葉でさらにオレの中は掻き巡らされた。
「今日は彼氏とデートかい?」
「いいえ、コイツは友達でさっきたまたま会っただけです。」
・・・・はい?今聞き捨てならない言葉があったぞ?
「おい「そうなのか。オレは北川さんの部活の先輩で藤沢って言うんだ。よろしくな。」…よろしくです。」
「だいたい私はこんなヤツとは付き合いません。」
沙月の言葉を聞いてオレの中で黒い感情が渦巻く。いくら恥ずかしいと言っても言って良い事と悪い事があるのだ。
「じゃあ今度ご飯でも食べにいかないかい?」
「いいですね。ぜひお願いします。」
「分かったよ。じゃあオレは用事があるからそろそろ行くな。」
「はい。ではまた学校で。」
沙月と青年の会話が終わる。一人ポツンと取り残されていたオレに沙月が笑顔で話しかけてきた。だが今のオレにはその笑顔がさらに怒りを掻きたててしまう。
「じゃあネックレス見よ?」
「…けるな。」
「えっ?」
オレの声が小さかったようで沙月は聞き返す。オレはさっきよりはっきり言ってやった。
「ふざけるな。」
「ど、どうしたの?」
「何が彼氏じゃないだ。そんなに付き合ってるのが嫌なら付き合わなければいいだろ。」
抑えられない感情。今までの不満が全て爆発したかのようにオレは喋りだした。
「諒く「沙月がそう言うなら分かった。オレは消えるよ。あの先輩とでもご飯を食べにいったら良い。」待って!?」
「・・・もう知るか。」
オレは一人でそこを離れる。正直追いかけてくれるものと少し期待をしたが後ろを向いても誰もいなかったのでさらに気持ちが黒に染まった。
気づいた時にはオレは学校に来ていた。そういえばここで沙月に告白されたんだよなぁ・・・あれからもう三年か。あっという間だったなぁ。ま、それも今日で終わりだけど。
「・・・あれ?」
一人、物思いにふけっている時にオレの頬からは涙が伝っていた。何で涙が出るのだろう?フッたのは自分なのに。だが涙は瞳から後から後から流れてきた。それは止まる様子も、止める気も無い。オレはそこで静かに泣いた。
「全くしょうがないヤツだな。ま、いつかこんな事になるんじゃないかと思ってたがな。」
不意に声がしたと思ったらオレの後ろに田中がいた。コイツいつの間に…というか何しに来たんだ?からかいにきたのか?
「別にからかおうなんて思っちゃあいねぇよ。ただな…北川さん、泣いてたぞ?」
「!?・・・オレにはもう関係ない。」
田中の言葉に一瞬動揺したがよく考えればもうオレと沙月とは何の関係も無い。だから泣いていたってオレの知った事じゃない。
「…そうか。でもなぁ、お前の口からはいつも北川さんの名前が出てたぞ?お前らの関係はその程度の出来事で終わる程ショボイのか?」
「お前に何が分かるんだ!人がいる所ではいつも突き飛ばされて拒否されるんだぞ?そして彼氏じゃないなんて言われる・・・こんなの耐えられるか!!」
「そんな事は聞いてねぇ。問題はお前が北川さんを好きかどうかって事だ!」
「ああ好きだよ!悪いか!!」
そうだ。オレは沙月が好きなんだ。だから嫉妬もするし沙月の彼氏じゃないという発言を聞いてショックを受けた。オレの言葉を聞くと田中は満足気に笑って数度、頷いた。
「・・・なるほど。だそうですぜ?北川さん?」
「なっ!?」
「諒君・・・」
学校の壁の後ろには沙月が立っていた。その目元が赤く腫れている所を見るとさっきまで泣いていたのは確認できる。
「ではお邪魔虫は退散っと!」
田中はオレと沙月だけを残すと、どこかへ行ってしまった。後には気まずい雰囲気だけが残る。
「あの・・・諒君?」
「・・・なんだよ?」
オレは沙月の彼氏じゃないという言葉を思い出して不機嫌になったが、沙月は言葉を続けた。
「ごめんね?そんな辛いと思ってたなんて知らなくって…ごめんね?謝るから・・・諒君が言った事なんでも聞くから・・・私を・・・捨て・・な・・いでぇ・・・」
沙月の最後の言葉は嗚咽でもう言葉になっていなかった。オレはそれを聞くと同時に沙月が愛おしくなった。
オレはバカだ。沙月だって辛いハズなのに自分だけしか考えなくて・・・でも。
そっと沙月を抱きしめた。
「諒ッ・・君・・?」
「ごめん沙月、先輩とご飯食べに行ったらいいなんてウソ。オレから離れないでくれ。」
「・・・ふえぇええ~んっ!!」
すると沙月はオレの胸の中で大声で泣き出した。オレは泣き止ませる為に沙月の首にあるものを付けてやる。
「グスッ・・・ネックレス?」
「Cのな。」
「・・・私も。」
そう言って沙月はオレの首にAの文字が描かれたネックレスを付けた。これはあの時見てた・・・
「Aはアルファベットで一番、私の一番は諒君だよ。」
「・・・ありがとな。」
そしてオレ達はそこで静かに口付けを交わした。オレは今、そしてこれからもこの彼女を愛そう。このCHANGEな彼女を・・・・
「・・・君・・・ょう君・・・諒君、起きて!」
「ウゥン・・・?沙月・・・?」
「はい諒君、早く起きないと今日は子供達を遊園地に連れて行く約束でしょう?」
「ああ、ごめん。」
目を開けると成長した沙月がいた。・・・懐かしい夢を見たな。
オレは高校と大学を卒業してからも沙月と付き合い、三年前にめでたく結婚した。今では男の子と女の子、二児の父親となっていた。
「パパ遅いよ!」
「早く行こうよ~!」
「ごめんごめん。じゃあ先に車に乗っておいで。」
「うん、分かったぁ~」
「お兄ちゃん待ってよ~」
息子が車の方へと走っていく。それについていくように娘が同じように走っていった。沙月が笑顔でオレに近づく。
「機嫌良いね?何か良い夢でも見た?」
「ああ、高校の時の夢を見たよ。」
「えっ!?・・・まさか嫌いになってないよね?」
沙月があの頃と変わらない、泣きそうな目でオレを見上げる。恐らくオレに厳しかった頃の事を思い出したのだろう。オレは沙月の首元を見る。そしてそこに目的の物を発見すると呆れた目で沙月に聞いた。
「しかしお前まだそれ付けてたのか?」
「いいの!私の宝物なんだから。それに諒君だって付けてるじゃない。」
「オレも宝物なんだよ。そういえばなんでオレのネックレスはAの文字にしたんだ?やっぱり一番最初だったから?」
「う~んそれもあるんだけどね…実はアブノーマルから来てるんだ。」
「アブノーマル!?オレが!?」
「うんだって・・・」
こんな変わってる彼女と付き合って結婚までする人なんてABNOMALな彼氏しかいないでしょ?
オレと沙月は顔を見合わせて笑う。その二人の首元にはCとAのネックレスが日に照らされて光り輝いていた。
完
久しぶりに短編を書かせてもらったダンです。チェンジな彼女とアブノーマルなオレ、どうでしたか?
もしかするとイライラするな~と思われた方もいるかもしれません。ですがオレとしてはこんな恋愛もいいな~と思ってたりもします。(なぜなら・・・ドMだから!)・・・っとちょっと興奮してしまいました。
これからも短編をチョクチョク書いてみたいと思いますので縁があればまた会いましょう。最後に・・・この短編を読んでくれた皆様に素敵な恋愛がありますように。