第十一章 05 兄弟子の正体
王宮の舞踏会場は白いドレスが一直線に並び、国王陛下へ挨拶するための列ができていた。間に合ったことにホッとして、列の後ろへ着く。
息苦しさでボンヤリしているうちに、ラティエルの順番がまわってきた。
王族の顔などはっきりと見るものではない。目が合わないよう口元あたりまで視線を下げて礼をとり、にこやかに微笑んでその場を辞す。ラティエルもそれに倣おうとしたが、国王陛下は父レオネルと交友があったようで、儀礼的な挨拶だけでは終わらなかった。
「ラティエル、騎士科に入ったと聞いた。そなたが生まれたとき、レオネルが初の女性騎士になると息巻いていたが、まさか現実になるとは……。そなたに続く者たちのためにも、道を切り拓いてほしい」
「――はい、女性でも戦えるということを、身をもって示したいと思います」
満足そうに頷いた国王陛下の御前を辞し、隣におわす王妃陛下から一輪の白い花を髪に挿してもらう。
アリアの叔母だけあって、儚い雰囲気がよく似ている。まわりの色が映り込む鏡のような銀髪などはそっくりだ。ラティエルの髪に花を挿した王妃陛下がふわりと微笑んだ。
「成人おめでとう、ラティエル」
その優しい声音に心臓がトクトクと騒ぎ出す。聞き覚えがあるのだ。おっとりしたこの口調。ラティエルを名前で呼んだこと。こういった場では『レグルス辺境伯令嬢』と呼ぶものなのに。
(まさかね? それに国王陛下もわたしを名前で呼んだわ)
彼女であるはずがない。他人の空似というやつだろう。
「ありがとう、ございます」
たどたどしく礼をとり、キツネに抓まれたような顔で壇上の右手へと進む。残る挨拶は王子殿下のおふたりだ。
今度こそ目を合わせないように、視線をやや下向きに伏せて礼をとる。兄とともにそのまま隣へ移動しようとしたとき、第一王子がチョイチョイと手を動かした。不思議に思って視線を上げれば、にっこりと笑う懐かしい顔があった。
(あ……あれ? この顔、この瞳は……)
輝く金髪は右側だけ後ろに撫でつけられており、青地に金筋の珍しい瞳がよく見える。整った顔立ちにこの美しさは、あの人によく似ている。おそろしいほど似ているけれど、この御方はあの人――ジルではない。
「て……、テオ兄様⁉」
思わず愛称が飛び出し、慌てて口もとを押さえる。第一王子に対してなんたる不敬。真っ青になって俯くと、第一王子テオフィルスが声をかけた。
「八年ぶりだね、ラティ。おっと、今日からは大人の仲間入りだ。ラティエル嬢と呼ぶべきか」
「ご、ご無沙汰しております。王子殿下におかれましては――」
「――ふっ、かまわないよ。昔のよしみだ。それより、隣にも気づいてあげて。さっきから視線が痛い」
テオフィルスが手を向けるほうへ視線を移すと、同じ顔をした麗人が座している。白を基調とした王子服がよく似合う。けれど眉根を寄せて、少し機嫌が悪そうだ。
我が国の第一王子と第二王子は双子である。それは知っていたけれど……。
「な、なんで……? テオ兄様とジル兄様は従兄弟同士だって」
「「それは……」」
そろった声まで似ている。従兄弟と偽ったのはなぜだろうか。髪の色も茶色ではない。なぜ我が家に研修に来ていたのか。王子に実戦向けの剣技なんて必要ないはずだ。たくさんの疑問が頭を駆けめぐるなか、ラティエルは気づいてしまった。
――第二王子の名前はたしか『ジャイルズ』ではなかったか。
(ジャイルズ殿下って……もしかして。ヴィー様の……)
テオフィルスが手を振って、ジャイルズに言葉を譲った。
「ラティ、またあとで話そう。ああ、ダンスは誰とも踊るなよ」
ジャイルズは不遜に言い放ち、ラティエルの隣にいたアデルが口を挟んだ。
「おそれながら、ジャイルズ殿下。デビュタントは最初に身内と踊るものです。もしくは婚約者と――」
「――譲ってくれ。私はラティエルの初めてが欲しい!」
「「なっ⁉」」
王子のくせになんてことを口走るのだ。誤解されたらどうする。慌てふためく兄妹を見て、テオフィルスが喉の奥で笑った。
「ごめんね、ふたりとも。あとで言い聞かせておくから」
長居をしていたラティエルたちは、後ろからやって来た咳払いに追い立てられてその場を辞す。
壇上から下りると同時に、アデルを問い詰めた。
「お兄様はご存じだったのですか? ジル兄様たちが王子だってこと」
「ああ、“星の瞳”は王家の血脈にしか、あらわれないからな」
「ほ……星の瞳?」
その言い方は、子どものころから知っていたということか。たしかに星空を閉じ込めたかのような瞳だ。
「そんな、教えてくれても――」
「口止めされていたんだ。まだ外堀が……っと、とにかく、ウチはいろいろとややこしいんだよ。母上がアレだから……わかるだろう?」
「ぜんぜん、わかりません!」
ラティエルが声をあげたとき、ざわついていた会場がシンと静まった。そんなに大きな声だったかと、口もとを押さえて辺りを見まわした。




