第八章 02 実戦デビューの手伝い
レグルス一家はハーヴィーをともない、万屋ギルドへ向かう。移動は馬四頭。ラティエルだってひとりで馬に乗れるのに、なぜか父の前に座らされた。
「お父様、馬が足りないならわたしは土馬で――」
「街中で魔法の馬に乗ってはだめだと教えただろう? いらない騒動を起こしたくないんだ」
納得がいかず反抗的に頬をふくらませると、セレーネが言い聞かせた。
「ラティエル。あなたは今、お父様の精神安定剤なの。大人しく従ってちょうだい」
「せいしんあんてい……、わかった」
「いい子ね」
獅子のように荒れ狂う父を、街中に放ってはならない。これはレオネルの元に生まれた子どもの責務だ。
万屋ギルドに着いたラティエルは、両親から教えてもらったことをハーヴィーに伝えていく。
「転移魔術は使える?」
「転移? いや……」
「使えるようになったら、ここで魔力を登録してね! 次はこっち!」
「ラティは使えるの?」
「うん!」
「……俺もがんばる」
ハーヴィーの登録をすませ、身元引受人としてレオネルとセレーネが登録された。
「これでうちの両親に居場所は筒抜けだから、そのつもりでね」
「マジか……」
最後に掲示板で被害の大きそうな依頼を引き抜く。レオネルから二十枚ほどの討伐依頼書を手渡され、ハーヴィーから表情が抜け落ちた。
ラティエルはすかさずフォローを入れる。
「ハーヴィー、わたしとお兄様もいるから大丈夫よ」
「なんで平然としていられるんだ? グランリザード三匹とか冗談だよな? こっちはワーム五匹⁉ ギガバット殲滅依頼ってなんだよ……」
「倒して得た戦利品を換金すれば、ハーヴィーも笑顔になれるわ」
「ラティ……、だんだん親に似てきたな」
「それは最高の褒め言葉ね!」
まだウダウダ言っているハーヴィーの背中を押して、一同はギガバットが巣くう洞窟へと向かった。ギガバットとはオオコウモリがさらに巨大化した魔獣のこと。
王都から南西に進むと山に囲まれた森林公園があり、その近くにある洞窟にギガバットが棲みついてしまったのだ。おかげで公園は閑散として人影もない。
レオネルが依頼書を確かめる。
「この洞窟で間違いない。依頼が詰まっているから、手早く片づけるんだぞ」
「「はいっ」」
「……」
緊張しているのか、黙り込むハーヴィーの肩をポンと叩いて、ラティエルとアデルが洞窟に入る。ハーヴィーも慌ててあとを追った。
「真っ暗だな。光魔法で――」
「だめよ、ハーヴィー。魔獣を刺激すると面倒だから、そっと寝首をかくのよ」
「この暗さで⁉」
「目で見なくても、気配を追えばわかるから」
「エェ……」
「仲間に信号を送る前に倒してね」
「……」
音もなくアデルが二匹やった。続いてラティエルも四匹仕留める。兄妹で争うように倒していく。ラティエルのほうが多く倒せるのは、女神の愛し子に魔獣が寄って来やすいからだ。
やっと目が慣れてきたハーヴィーは、天井からぶら下がる巨大なコウモリと目が合った。もはや人間が着ぐるみを着ているようにしか見えない。それが頭上二メートル先で余裕をかましている。どうしたものか。
レグルス兄妹を見れば、空中に浮いたまま剣を振るっている。しかも自由自在に体の向きを変え、まるで見えない壁を蹴っているかのようだ。
「うそだろ……」
あっけに取られていると、後ろからレオネルが声をかけた。
「どうしたハーヴィー、ラティエルの盾になるんだろう?」
「うっ……、うわぁぁぁ――――――!!」
雄叫びをあげたハーヴィーがギガバットに飛びかかった。風魔法でジャンプすることくらいはできる。ただ、滞空時間は短い。繰り出した一撃はギガバットの肩を掠めるだけに終わった。再びジャンプしようとしたが、爛々と光る赤いものが無数にあらわれた。
「寝た子を起こしたな」
そう言ったレオネルの声はひどく楽しそうだった。アデルがすぐに指示を飛ばす。
「ラティ! 作戦変更だ」
「はぁい!」
大群で襲いかかってくるギガバットに光をあびせれば、混乱してお互いにぶつかり合う。落ちたギガバットを、翼を傷つけないように倒していく。翼は高く売れるのだ。
半刻ほど格闘しただろうか。作業を終えて洞窟を出たころには、子どもたち三人は引っかき傷だらけになっていた。対して大人ふたりはかすり傷ひとつない。
ラティエルの治癒魔法を受けながら、ハーヴィーがぼやく。
「なんで師匠たちは参戦しないんだよ?」
「たくさん失敗させるためだ。私たちの目が届くうちは、どれだけ失敗してもいい。いざとなったら助けてやれる。思う存分やりなさい」
「俺の父上はそんなこと……」
言いかけてハーヴィーは黙り込んでしまった。その頭をレオネルがワシワシとなでまわす。
「君の父上は要領のいい人だ。できる人間に丸投げする能力はピカイチだった! 自分が教えるより我が家に任せたほうがいいと考えたんだろう。安心しなさい、一度弟子として迎え入れた人間を、半人前で放り出すことはしない」
「師匠……」
「さぁ! 次はお待ちかねのグランリザードだ!」
「……待ってない」
顔を引きつらせながらもハーヴィーは逃げ出さなかった。各地で悲鳴をとどろかせたハーヴィーの実戦デビューは――
「――大成功だったね! ハーヴィー」
「これのどこが成功なんだよ。無様にもほどがある」
「生きてたんだから成功でしょう?」
「ラティ、こういうことはよくやるの?」
「週一でやってるから、また来週やろうね!」
「しゅういち……、頼る家を間違えた」
結局ハーヴィーはレオネルの監視下に置かれ、レオネルが辺境伯領へ移動するときは強制的に連れて行かれた。そちらでも特別訓練が課されているらしい。兄のいないときは狩りを禁止されていたラティエルは、ハーヴィーのおかげでまた狩りに参加できるようになったと喜んだ。




