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女神の愛し子は創られた恋に悩まされる  作者: 夜高叶夜
第一部 すでに死にそうな幼少編
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第五章 05 掟の剣を持つ者

 冷たくなっていくラティエルを、ジルとレジーナが必死に揺さぶる。


「ラティ、頼む! 目をあけてくれ!」

「わたくし、奥様から預かった解毒薬を取って参ります!」

「ああ、頼んだ!」

「――まぁ、いつの間に子犬が入ったのかしら。レジーナ、あなたが入れたのね?」


 ドレスのすそをひるがえし、ドロリスが立ちふさがる。

 レジーナはひるむことなく進み出た。


「そこをお退き下さい」

あるじに向かってなんて口を利くのかしら」

「わたくしの主は、旦那様ですわ」

「レオネルはもういないわ。レグルス辺境伯の次期当主はアデルよ」


 心底嬉しそうにドロリスが笑う。しかしすぐに表情を引き締め、下男たちに杖を突きつけた。


「あなたたち、何をボサッとしているの。捕まえなさい! ……ああ、死んでもかまわないから」


 玄関ポーチの長椅子にラティエルを横たえ、ジルは三人の男たちに向かって殺気を放つ。


「やめておいたほうがいい。魔法も使えない者たちに何ができる?」


 ジルに視線が集中したその隙に、レジーナはスッと木陰に身を引いた。

 皆の視線を引きつけるかのように、ジルは手の平に鋭い氷柱つららを浮かべてすごむ。


「お前たち、レグルス辺境伯令嬢に毒を盛ったな? この罪は重いぞ」

「なっ、毒なんて知らねえよ! この女に頼まれたのは、その子どもの死体を始末しろってことだけだ!!」

「この子は死んでない。お前たちが殺そうとしたんだ」


 この女と呼ばれたドロリスは、みにくゆがんだ顔を扇子で隠す。


「余計なことをペラペラと……! いいから、仕事して!!」

「――そうだ、お前たち。あの女を捕まえたら減刑してやる。どうだ?」


 ジルの言葉に下男たちが戸惑とまどう。そんななか、ひとりの男がジルに食いついた。先ほど腕を凍らせられた男だ。


「減刑じゃねぇ、無罪だ! あの女を捕まえたら、目こぼししろ!」

「女を捕まえて、持っている情報もすべて渡せ」

「よし、いくぞお前ら!! そこの坊ちゃんはやめとけ、女のほうが簡単だ!」


 男の言葉に乗せられて、ほかの下男たちも走り出す。ドロリスはもう屋敷の中へ逃げ込んだあとだ。入れ替わりに、小瓶を手にしたレジーナが戻って来た。長椅子に横たわるラティエルの上半身を起こし、ジルが支える。


「これをお嬢様に!」

「ラティ、飲んでくれ! 頼む!!」

「ラティエルお嬢様、お薬ですよ!」



 遠くでまた、ジルとレジーナの声が聞こえる。ラティエルは意識が浮上するのを感じたが、体は動きそうにない。

 口に硬いものを当てられ、おそろしくなって閉じる。そうこうしているうちに、今度は柔らかいものに唇をふさがれた。息が苦しくなって口をひらくと、苦い液体が流れ込む。おどろいた拍子に飲み込んでしまった。

 しばらくして苦しさはなくなったが、体の力は抜けたままだ。


「ラティ、戻って来てくれ……」


 ジルの弱々しい声が、今度はハッキリと聞こえた。体の感覚が戻っていくのを感じる。疲労感は続いているけれど、水中からやっと抜け出せたかのように、息を吸い込んだ。


「はっ、はふ……、はぁ……」

「ラティ⁉ 大丈夫か?」

「お嬢様⁉」


 パチパチと瞬きをして視界を取り戻す。美しく整えられた輝く金髪が目に映った。思い当たる人物はボサボサの茶髪だったはず。だが、その顔はまさしく兄弟子のものだった。新年だからか、服装もやけにきらびやかだ。


「ジル兄様……、なんでここに?」

「レジーナから連絡をもらったんだ。ラティエルが殺されるかもしれないと」


 眉根を寄せたジルの顔を見ていると、ミニスに奪われたリボンを思い出した。


「そうだった、……リボン。ジル兄様、ごめんなさい」

「気にするな、次はもっといいものを贈るよ」

「ジル様、お嬢様には婚約者が」

「わかっている! ああもう、なんで婚約なんか――」


 ジルの言葉が途切れた。ラティエルを後ろに隠すようにして立ち上がる。ラティエルはレジーナの手を借り、長椅子に身を起こした。

 小屋から少し離れた場所に兄アデルが立っていた。さらにその後ろには、ドロリスとミニスの姿もある。

 ところが、ミニスの様子がおかしい。長かった髪がバッサリと短くなっている。


「ミニスは、どうして髪を切ったのかしら?」


 ラティエルの疑問に答える声はない。レジーナも一緒に首をかしげている。髪を長く美しく保つことは貴族令嬢のたしなみだ。男性でも高貴な身分ほど長くする傾向にある。ジルのように、無精ぶしょうで伸ばす人もいるけれど。

 わなわなと震えながらミニスが叫んだ。


「アデルお兄様! ミニスのかたきを討ってくださいませ! ぜんぶぜんぶ、お姉様が悪いのよ!!」


 無表情で詰め寄ってくるアデルの手には剣が握られている。練習用の刃を潰したものとは質感が違う。あれは真剣ではないだろうか。対するジルは丸腰だ。


「アデル、なぜそいつらの言うことを聞く?」

「あなたには関係のないことだ。今すぐ立ち去るなら、見逃して差し上げますよ」

「ラティエルを毒殺しようとしたやつらだぞ⁉」

「…………」


 アデルは無言で剣を構え、ジルとの間合いを詰めていく。ジャリッと石がこすれる音がして、アデルが大地を蹴ったのだと知る。

 とっさにジルは風魔法の盾で弾き返した。しかし、これでは防戦一方だ。それもすぐに劣勢になった。ジルの盾が空中で霧散むさんしたのだ。アデルの剣が襲いかかる。すんでのところで避けたジルだったが、様子がおかしい。アデルはニッと口の端を上げた。


「母の結界を破ったんだ、もう魔力は残っていないでしょう? 降参するのも賢い選択ですよ」

「アデル……、その悪趣味な首輪、似合ってないぞ」

「っ、降参してください!! 頼むからっ!」


 ジルは唐突に首輪がどうのと言いはじめ、対するアデルはむきになって剣を突きつける。もう見ていられなくなり、ラティエルは立ち上がった。レジーナに支えられながらもフラフラとアデルに近づく。


「お兄様……、どうしてそんなに苦しそうなの?」

「――うるさい!! 死にたいのか⁉」


 ラティエルに気を取られた瞬間を、ジルはのがさなかった。剣をはたき落とし、みぞおちに一発かます。グラリと前屈まえかがみになったアデルを、ジルが組み伏せた。


「そのくさり……今、はずしてやる」

「ハッ、そんなこと。もう魔力がないはず……無理だ!」

「そうだな。アデル、あとを頼むぞ……」


 左手でアデルの腕をひねり上げたまま、ジルは右手の平を上に向ける。手の平から光が屹立きつりつし、ひと振りの大剣があらわれた。


(……あれはまさか、女神のつるぎ⁉)


 刃先は光に透け、ジルの身長ほどもある。それを片手で悠々と握ったジルは、容赦なくアデルに振り下ろした。ラティエルがとっさに手を伸ばすも間に合わない。


「っ――!!」


 アデルが声にならない悲鳴を発した。同時にアデルの体から、鎖が断ち切れるかのように黒い線が飛び散る。

 一瞬の出来事に、ラティエルは声も出なかった。



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