誰が××だよ
ドラッグストアにいる。
迷路ではない。
規則性があるから。
だが、抜けられない怖さのある棚だ。
普通のドラッグストアは、棚にすき間がある。
途中で、他の列に移動できる。
でもここは、その列の棚に行くと、逃げられない。
長く長く途切れない、棚がある。
奥から手前まで、ズラッと棚があるんだ。
店内の端から端まで、ずっとある。
続き高棚恐怖症の僕からしたら、かなりの天敵だ。
そんな僕に、天使が現れた。
天敵がいるなかに、点滴が現れた。
救いの点滴、みたいなものが現れた。
そう言った方が、いいかもしれない。
ダジャレになったのは、たまたまだ。
本当に、点滴だと思ったから。
オアシス的な意味で、本当に点滴だと思ったから。
その点滴というのは、男性客だ。
電話をしながら、買い物をする男性客である。
「ちょっ、ちょっ、ちょっ。だっ、だっ」
やけに、盛り上がっていた。
電話の相手は、当然見えない。
でも、その相手がパーリーピーポーなのは、ハッキリと分かった。
「おいっ。誰が、築75年の古民家の寝室の、天井にある木目みたいな顔だよ!」
笑ってしまった。
相手の言葉が、気になる。
普通に復唱して、突っ込んだだけか。
それとも、ボケ技術のあるツッコミができる人なのか。
気になる。
「ちょいちょい。誰が、一時間にほんの数回、一回の遮断機が開いてる時間もほんの数秒の、都会に近いわけではない、開かずの踏み切りみたいな性格だよ!」
どんなことを言ったら、そう突っ込めるんだ。
何を言ったら、こうなるんだ。
どんなイジリ方を、したのだろう。
それが気になって、仕方ない。
でも、今回はイメージしやすかった。
こんな性格かと、納得できた。
納得できている自分が、怖くなった。
ヤバイ、完全に呑み込まれてる。
「ほーいっ。誰が、流しにカップ焼きそばのお湯を捨てたときに鳴る、ボンッと同じ部類に入る声だよ!」
なんとなく、分かってしまった。
そんな、自分が怖かった。
気付いたら、カゴがお菓子だらけだった。
電話に夢中になりすぎて、お菓子を無意識に、たくさんカゴの中に入れていた。
ちょっ、ちょっ、ちょっ。だっ、だっ、誰が『コンビニエンスストアに生まれて初めて来た、お嬢様セレブの爆買い、みたいな買い方をしている人』だよ!