橘 学
7.橘 学
達也と哲夫は、夜勤の後、旭川まで車を走らせた。
旭川大学病院の朝は駐車場待ちの車で渋滞となっていた。
達也と哲夫は、ようやく車を駐車場に停める事ができ病院の中に入った。
一階の受付と途中で出会った看護婦さんに橘 学さんが入院している部屋を聞いた事により直ぐに見つける事が出来た。
二人は橘さんがいる病室に入った。
橘さんは静かにベッドで寝ていた。
達也と哲夫は病室の棚に置いてある写真を見てこの人が橘さんと分かった。
写真には焼尻島の羊牧場で家族四人で笑顔で写っていた写真であった
達也は小さな女の子が二人写っており、お姉さんの方が桜だと分かった。
橘さんは二人に気が付き目を覚ました。
「君達は、誰だね。」と橘さんがか弱い声で言った。
達也はスマホの画面から桜の写真を見せた。
橘さんはその写真の女性を見て直ぐに桜だと分かり涙を浮かべていた。
「橘さん。この女性、分かりますか。」と達也が言った。
橘さんは頷き寝ていたがゆっくりと辛そうに上半身を起こしスマホの画面を見て目に涙を浮かべていた。
「桜子か、大きくなったな。」と橘さんがかすれた声で言った。
「橘さん。桜について何か分かる事があれば教えてください。この子は大事な友達で、今、何か大きな事件に巻き込まれているんです。」と哲夫が早口で言った。
橘さんは、ゆっくり飾ってあった家族の写真を見ながら、戸棚を開け哲夫に名刺を渡した。
達也と哲夫は名刺を見た。
日系クラブ リラックス ママ 小百合と書いてあった。
「日系クラブ。」と二人はハモリながら言った。
「住所は大連て、どこ。」と達也が哲夫の顔を見て言った。
橘さんは、かすれた声で話し始めた。
「大連は中国にある。私は以前、離婚して家族もいない事から中国の大連にある日本人学校の教師をやる為、大連に行った。その頃、大連には多くの日本人が居て日本食や日系クラブも多くあった。私は離婚の寂しさから良く日系クラブに行くようになり、蘭と言う一人の女性と知り合った。久しぶりに楽しいひと時を過ごした。そして、欄を日本に連れ帰り天売島で小学校の校長になり過ごした。そして二人の娘、家族もでき楽しい日々を過ごした。が、突然、蘭は不法滞在となり、彼女は一旦中国に帰還させられた。私は大使館に行き度々説明を求めたが、原因が分からず、子供たちも蘭と一緒に中国に行き戻ってこなかった。私は全てを失った。もう一度、娘たちにも蘭にも会いたい。そして、話しがしたい。娘達は私の事覚えているだろうか。」と橘さんは言い泣いていた。
「大丈夫ですよ。桜は、家族で一緒に撮った焼尻島の写真を大事に持っていましたよ。」と達也が優しい口調で言った。
「そうか桜は、まだあの時の写真を持っていたのか。あの頃が懐かしい。もうあの頃には戻らないだな。少し体が怖い(疲れている(北海道弁))ので寝かせてくれないか。」と橘さんが言ったので二人は会釈して病室を出た。
橘さんは癌らしく二人は切ない気持ちでいっぱいであったが、お腹が空いてしまったので旭川の回転すし屋へと行った。
二人は寿司屋で話し合い中国に行く事を決め、それから毎日一緒懸命働き夜勤も積極的に行いお金を貯めていた。
達也の体はすでに回復しており、毎日哲夫と仕事が終わるといつものように体を鍛え込んで行った。