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8貴方のお嫁さんが夢でした ーエリオットー

 彼、「シルビア=サフィール」と初めて会ったのは、王城の図書館だった。


 それは、まだ私が7歳のころ。


 ある日、私は双子の弟であるアイリッドと、勉強と暇つぶしを兼ねて、図書館で本を読んでいた。


 そんな中。


 まだ太陽も高く、お父様は仕事の真っ最中のはずなのに、側近である宰相、「レイナード=サフィール」は一人、私達を見つけると話し掛けてきた。


「エリオット様、アイリッド様。今、よろしいですか?」


 別に話し掛けられて困る訳でもなし、私達は笑顔で了承した。

 だが、気付いた。

 宰相は一人ではなかったのだ。

 宰相の後ろに隠れる様に、小さな子供がいたのだ。

 多分、私達と同じ位の。


「シルビア、ご挨拶をしなさい」


 そう、宰相はその子を促すと、自分の前に立たせた。


「シルビア=サフィールと申します。以後お見知りおきを」


 緊張をしながら腰を折るその子に、私達は一瞬にして引き込まれた。


 何て可愛らしい「女の子」なんだろう。


 肩で切り揃えられた、真っ直ぐな銀の髪。キラキラと輝く赤い大きな瞳。

 薄いブルーのふんわりしたドレスを着た彼女は、まるでお人形の様だった。


<シルビア?>


 だが、ある事に気付く。

 惚ける弟を横に、私は彼女の名前を頭の中で繰り返した。

 宰相の下の子供が、確か同じ名ではなかっただろうか。


しかも、その子は「男の子」のはず。


 彼女、いえ、彼は今し方「サフィール」と名乗った。

 と言う事は、宰相の子で間違いはないだろう。

 そして、私達王家は知っていた。

 サフィール家の事情を。

 この国の貴族の中で、特別な家。


「ごきげんよう、シルビア殿。はじめまして、私は第一王女の地位を持つエリオットです。よろしくお願いします」


 王族らしく凛とした態度で接する。

 宰相も私が事情を理解した事を悟り、笑顔を向けてくれた。

 だが、そんな中、弟は焦る様に彼に挨拶をしていた。

 もしかしたら、彼が男の子だと気付いていないのかもしれない。


 我が弟ながら…。


「よろしくお願い致します」


 だが、彼はそんな弟の態度を気にする事なく、満面の笑みで返してくれた。


 それが最初。


 きっと初めて会った日から惹かれていた。


 それから少しして、私はお父様と宰相に、彼と婚約したいと直談判し、見事その地位をゲットしたのだ。

 それから二人。

 長い時間をかけて愛情を深めていった。

 後からシルビアに聞いたが、実は彼も一目惚れだった事を照れながらも教えてくれた。

 私は、これ以上幸せな事はないと思った。


 なのに、どう間違ったらこんな事になるのか。


 バカな弟が、とんでもない醜態をさらした。

 そのせいで、一年後のシルビアとの婚姻が流れようとしている。

 私が夢にまで見た…後一年の我慢だったのに。


 その血のため、家を継ぐと決められている彼は、王家に婿入りする事は出来ない。


 はっきり言って「詰んだ」。


 自分の感情がグチャグチャになってゆく。

 足元がガラガラと崩れてゆく。


 王族たるもの、下の者達に弱みを見せてはならない。

 そんな事は百も承知だ。

 だが、私は感情を抑えきれず、涙を溢した。

 今の私はこれを止める術がなかった。


「シルビアの……シルビィのお嫁さんにもぉなれないじゃない!」


 その様子に、弟が狼狽えている。

 今更気付いたところで、既に手遅れだ。

 父は弟の廃嫡を決め、私に跡目を継げと言った。

 抗議はしたが、それが叶わないのはよく分かっている。


 私は王族だ。

 その地位からは逃れられない。


 だが、その時、学園長から声が上がった。

 今まで様子を伺っていた彼は、思いついた様に口を開いた。


「そう悲観するには早くないかい?」


 気軽な口調で話掛けてきた彼に、私は目を瞬かせた。


「どう言う事ですか?叔父様」


 本当なら、王族に対し口を挟む事は不敬に当たる。

 だか、父の弟にして、前第三王子の位にいた彼は、この部屋の中で、唯一王家の問題に口を挟む事が許された存在だった。

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