4王族が知らないなどあり得ない
「いい加減になさい」
その言葉と共に現れたエリオット王女に対し、私は場違いながら頬を染めてしまった。
私にはない、凛としたたたずまい。そして、その地位に相応しい美しさは、とても力強い。
「なっ、姉上!なぜ貴女が」
双子の姉がこの場に出てくるとは思ってもいなかったのだろう。
目に見えてアイリッド殿下は狼狽えていた。
「エリオット様にご関係はごさいませんでしょ?」
しかも、男爵令嬢は何を血迷ったのか、王女殿下に意見まで始める始末。
(こいつらの頭大丈夫か?……お花畑が広がってるんじゃなかろうか…)
そんな中、王女殿下は持っていた扇を掌に打ち、パチンと高い音を響かせると、ピシャリと言ってのけた。
「お黙りなさい!貴方達、この場を何だと思っているの!今日は卒業生の晴れの日よ?沢山のお客様もいらっしゃる中……恥を知りなさい!」
凛と響く彼女の声。
本来なら、その言葉の意味を理解し、恐縮するところ…………だが、やはりと言うべきか、お花畑な二人は、自分達の世界から抜け出す事はなく、逆に怒りを露わにさせていた。
(ねぇ、馬鹿なの?いゃ、知ってたけど、ここまで来るとヤバくない?)
今日はあなた方の父君…というか、「国王陛下」もいらっしゃっているのに。
卒業式での陛下からの祝いのお言葉…忘れたんだろうか。
「姉上!何故シルビアを庇うのですか?彼女は私という婚約者がいながら、他に男を何人も囲う様なアバズレですよ!」
「そうですわ!エリオット様もご存知のはず!シルビア様が何時も複数の殿方と一緒にいる事を!」
キャンキャ吠える駄犬……ではなかった。
王子殿下と男爵令嬢は、さも自分達が正しいと言わんばかりの発言を繰り返していた。
だからぁ…。
そりゃ、一緒にいるでしょうよ…友人なんだから。
と、視線を横に反らすと、離れた場所に固まっている友人達と目が合い、お互い疲れた表情になった。
「貴様!こんな時にでも男に色目か!ふざけるな!」
「そうですわ!この淫売!」
あらあら、淑女のはずの男爵令嬢まで……何てはしたない。
エリオット王女も出てこられ、少し気が抜けてきた私は、王女に向け困った様な笑みを向けた。
「………っつ!」
そんな王女とはというと、私の笑みに何故か顔を赤めている……おや?
「……とりあえず、まずその無駄な口を閉じたらいかが?」
王女殿下は、何やら私から視線を外しながら誤魔化すと、冷めた瞳で二人を一瞥した。
…………はっきり言って、かなり怖い。
元々迫力美人なため、威力も抜群だ。
二人にもソレが効いたのか、一瞬で黙り込む。
「ですが…姉上」
あら?まだそんな勇気が。
私は内心王子殿下に関心しつつ、恐れながら王女殿下の肩に手を置き、優しく微笑んだ。
「エリオット様、有難うございます。もう宜しいですよ?ここは私が…」
「で、でも…シルビアあなた…」
これ以上王女殿下の手を煩わせる訳にはいかない。
まぁ、本音は「もう、面倒くさい」からだけどね。
という訳で、父上に目線だけ向けると、なにやら諦めた表情で頷かれた。
こればかりは申し訳ないが、不可抗力として諦めて頂きたい。
文句は目の前のバカ二人にお願いします。
て事で。
「殿下、何やら誤解されている様ですので、この場でハッキリ、キッチリ申し上げましょう」
私は普段被りまくっているネコに暇を与え、「素」の表情で目の前の二人を見据えた。
フワフワした何時もの私からは想像もできないであろう表情に、二人だけでなく、会場にいる者達までも動きを止めた。
そんな中で、本当の私を知っている父上や友人……そしてエリオット王女はまったく動じていなかったけど。
私は一つ息を吐くと、凛とした声で口を開いた。
「そもそも、私は殿下と婚約などしておりませんが?」
その言葉に、王子殿下並びに男爵令嬢は目を見開いた。
そして、私はトドメの一言を突きつける。
「………だいたい、その様な趣味は持ち合わせておりませんから。……ダレが好き好んで……気持ち悪い」
別に偏見はないけどね…。
私は無理かなぁ……。
その瞬間、王子殿下の表情が一気に赤く、怒りに染まった。
「なっ……何を戯けた事を言っているのだ!幼少期に陛下と宰相の間で取り決められたではないか!知らぬとは言わせないぞ!」
婚約してないにキレたのか、気持ち悪いにキレたのか……まぁ、両方だろうけど。
殿下は隣にいた男爵令嬢から体を離すと、早足で私の前に立ち、思いっきり私の腕を掴んだ。
(……地味に痛いんですが)
振り解こうとするが、いかんせん、武術に長けた殿下の方が力が強く、空振りに終わった。
仕方ない…ウチの家は魔法特化の家だ。魔法も武術も得意なチート王家には敵わない。
「アイリッド!貴方自分が何をしているか分かっているのですか!」
「姉上は黙っていてください!」
あー。もう、姉君の言葉すら聞きませんか?
エリオット様、実は怒ったら怖いの忘れてませんか?
「まったく。何故私が嘘を言わなくてはならないのですか?」
腕は痛いが、腹が立つので一歩も引く気はない。
「だいたい、何を聞いたらそうなるのやら」
私は、自分の嫌いな可愛らしい顔に、満面の笑みを貼り付けると、私の腕を持ったままの殿下の手を自身の「胸」に押し付けた。
「男同士で、どうやったら婚約できるのか教えて頂けますか?」