3愚弟には呆れました ーエリオットー
今日は私の通う王立学園の卒業式。そして成人の儀でもある。
学園内は「身分を問わず」と言う校風で、貴族だけでなく、庶民も平等に学ぶ事ができる、開かれた学舎となっている。
現に私も在学中、身分に縛られず、平民の友人もできた。
相手の子達は「おこがましい」と、申し訳なさそうにしていたけれど、私はかまわないと思っている。だって、彼女達は損得で私に近づいてこなかった有り難い子達だったから。
それに、私達が生活出来ているのも民あってのもの。
礼儀は確かに必要だか、友人としての関係はあってもいいと思っている。
そして、今日は学園の卒業式。
立場上、友人達と気軽に会える最後の日。
少しの寂しさはあるが、手紙でのやり取りなどを約束し合った。
いつか私が「城」から「降りた」日には、一緒にお茶でも出来るだろう。
因みに、現在卒業式も終わり、パーティが開催される中、私は賓客として出席していた宰相を見つけ、声を掛けていた。
「ご機嫌よう。宰相閣下?」
そんな私に対し、宰相は腰を折ると、優しい笑顔を向けてくれた。
「これはエリオット王女。本日はご卒業おめでとうございます」
そう、実は私はこの国の第一王女である。
名前は「エリオット=トーラス」と言う。
母譲りの深い緑の瞳は少し切長で、未だ殿方を魅了してやまない母の血を濃く受けたのか、妖艶と言っていい色気がある。おかげで殿方からよく変な誤解をされるのが本当に嫌になる。
そして、輝く様な金髪は、癖のある父からの遺伝だろう。本気で嫌になるくらいの癖っ毛で、俗に言う「縦巻きロール」………私にはドリルにしか見えないけれど。
はっきり言ってこの髪、毎朝のセットが尋常ではなく面倒くさい。本当に、支度をしてくれる侍女達には頭が下がるわ。
と言う訳で、私は自分の容姿があまり好きではない。
本当はもっと可愛い系が良かった……。
因みに、王位は双子の弟が継ぐ予定になっているので、私自身は自由の身なのが有り難い。
お父様からも、国のしがらみには囚われなくていいと言われているので、政略結婚などは一切受け付けていない。
おかげで後一年したら「夢」が叶うのが待ちきれない。
「ありがとう。今日は陛下のお供かしら?」
「えぇ、陛下でしたら今学園長とお話し中ですよ?」
人当たりの良い宰相とは、昔からウマが合い、今日もその姿を見かけ、私から声を掛けたのだけれど……。
「何だか騒がしいわね?」
今日は成人を兼ねた晴の舞台。
それなのに…それなのに、私の馬鹿な愚弟が盛大にやらかしてしまった。
「シルビア!貴様との婚約は今日この場にて解消する!」
高らかにホールに響く弟の声。
「あのこは……どういうつもりなの?」
あまりにも唐突な出来事に、私だけでなく、シルビアの父親である宰相は、物凄い顔になっている。
普段のポーカーフェイスは何処に行ってしまったのか…。
まぁ、かく言う私も弟の言い放った言葉に理解が追いつくまで少しの時間を要した。
「婚約破棄…とは?どういう事でしょうか」
呆れた様に返すシルビアに、全くもってその通りだと同意する。
そんな中、弟はと言うと、兼ねてから噂のあった男爵令嬢を腕に抱き、何やら騒ぎ始めた。
「貴様、私とメリッサの仲に嫉妬し、当て付けの様に男どもをはべらせているではないか!恥を知れ!この淫売が!」
あら……何て口の悪い。
我が弟ながら聞くに耐えないわ。
それに…あの男爵令嬢。
シルビアが侯爵家の人間…しかも、宰相の子供だという事を理解しているのかしら?
(そう言えば、あのこは妾の子供だったわね…)
彼女、メリッサ=エトランテは妾腹の子だと聞いている。
だからと言っても、エトランテ男爵より正式に認知され国に届け出が出された身。
男爵令嬢という立場はちゃんと理解していなくてはならない。
まぁ、弟の恋人と言う「傘」を自分の力と勘違いしているのだろうけれど。
しかも、シルビアの「友人達」に対し何て事を言っているのかしら。
これは、「あのこ」キレてしまうわね。
後一年。
シルビアがせっかく頑張ってきた十五年を、こんな形で台無しにするなんて…。
私は額に手を当て、怒りを逃そうと必死な宰相に一言謝ると、皆に聞こえる声で言葉を張りあげた。
「いい加減になさい」