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SS 男爵令嬢の憂鬱

 私の名前は、「メリッサ=エトランテ」。


 男爵位の父を持つ男爵令嬢だ。

 ……と言っても、男爵令嬢となったのは、今から二年前。

 お父様の本妻が、「不運」な事故で亡くなり、妾だったお母様が私を連れて後妻に入ったからだ。

 おかげで、私は日陰の子から日向の子になる事ができた。


 そして、私には人に言えない秘密がある。


 私には、「前世」の記憶がある。

 家族とか、住んでた所の記憶は曖昧だけど、自分が日本人だったという事は覚えている。

 そして、前世の私は「恋愛シミュレーションゲーム」や「ライトノベル」が大好きだったという事も。


 私がそれを思い出したのは、母から自分が男爵の子供だと聞かされた日だった。


 思えば運が良かったと思う。


 それまでの私は、親族や周りの人間から意味が分からず陰口を言われてきた。

 おかげで、すごく根暗で陰湿な性格になってしまっていたのだ。

 だが、前世の記憶を思い出したと同時に、私の視界は一気に開けた。


 そう、ここは夢にまで見た「異世界」で、妾の子供とはいえ、私は男爵令嬢なのだ。


 それから私は直ぐに行動に出た。


 自分の父親、その家族、色々汚い手も使ったが、全部調べ上げた。

 そして、私が前世でハマっていた恋愛シミュレーションの世界を「現実」にしてしまおうと考えたのだ。


 それから私が何をしたかと言うと……。


 自分の未来(しあわせ)に邪魔な存在の排除だった。


 それから月日が流れ、めでたく正式に男爵令嬢となった私は、王立学園に入学する事ができた。

 そして、そこで私は出会ったのだ。


 それは、恋愛ゲームやライトノベルのテッパンである「王太子」と言う存在だった。


 私は、彼と親しくなるべく、直ぐに行動に出た。

 前世で得た、恋愛知識をフル活用して、自分を売り込みまくった。


「メリッサ…私は君を愛している」


 ある日、いつもの様に殿下と話していると、唐突に彼から告げられた言葉。

 私は舞い上がった。

 攻略対象を見事に落としたのだ。

 その達成感と、開かれた将来に、私はこの世界で幸せを掴んだのだと、歓喜した。


 そして。


 王太子様が卒業されるまで、後数日。

 何時もの様に、お昼を一緒に過ごしていた時の事。

 殿下は、何やら苦々しい顔で口を開かれた。


「メリッサ…実は、私には婚約者がいる」


 寝耳に水だった。

 まさか、こんなところで小説の様な話しが出て来るとは、思いもしなかったのだ。


 だが、殿下は笑顔で私を抱き寄せると、優しい声色で宣言してくれた。


「卒業式で、その者には婚約破棄を言い渡す。なに、大丈夫だ。あいつは、私と婚約しておきながら幾人もの男をはべらせているからな…非はあちらにある。破棄については問題ない」


 それを聞いた私は、物語のヒロインと同じ現実に酔いしれた。

 この世界は、私のための世界なのではと思う様にまでなった。


 だが、それから暫くして、その現実は足元からガラガラと崩れる事となった。





「何故!お父様!」

「あなた!」

「えぇい!黙れ!もう夫でも父でもないわ!」


 殿下が婚約者と言っていた侯爵令嬢は、実は“男”だった。

 しかも、殿下と私…そしてお母様は、陛下の怒りに触れ、お父様からも見放される事になった。


 何処で間違ったんだろう。

 私がこの世界に生まれたのは、この世界のヒロインになるためじゃなかったの?


 その後、私を愛してると言ってくれた殿下までもが、私から離れていった。


『……私は間違えていた』


 そう書かれた手紙が殿下から届いたのは、私達母娘が民に落とされ、私は学園を退学し、以前の生家に戻って数日後だった。


 噂と言うものは、直ぐに広まる。


 出戻った私達は、親族や周りの人間から、これでもかと言うほど見下され、蔑まされ、嫌がらせは父の元へ行く前以上に酷いものとなった。


 本当に…何処で間違えてしまったの?


 あれ以来、私は毎日の様に母から罵られ、酷い時には暴力も受けている。


「お前さえいなければ!お前が余計な事をするから、私までこんな目にあったのよ!」


 なに言ってるの「お母さん」?

 “私がいたから”貴女は男爵夫人になれたのに…。


 ………分からない、分からない。


 きっと、全部「あいつ」のせいだ?

 あいつが全部悪い。

 あいつさえいなければ、私はこの国の王妃になっていたのに。


 …………絶対に許さないから。

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