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取引を終えて二人は表通りに出てきた。
小田切が何か言いたそうにしているのを感じた太蔵はチラリと彼を見る。
「どこかで食事をするか?」
昼間から飲めそうな場所を選んでにこにこと小田切の顔を見ていた。
「ごほん 老師、言葉がイマイチ分らないので全体の流れで判断しましたが、、そもそもあの宝石は偽物なのでしょう? 違うのですか?」
「ふむ 君が何をもって本物だとか偽物だと拘るのか不明だが、人工物だな それで?」
「いや、、異世界の人々を騙すのはどうかな と?」
「ふむふむ 君は古物商を覗いた事があるかい?」
「古物商ですか?」
「そうだ あの世界の掘り出し物はまず99%偽物とも言われているんだ。場合によっては何百万・何千万の偽物商品を掴まされて最悪破産・自殺に及ぶこともある。ならばそんな物は不届きだとして売買禁止に法律で決められたらそんな不幸な出来事は無くなると思うかい?」
「理屈ではなくなると思いますが、、現実は人が判断することもあり無理かと・・」
「そう 判定する鑑定士だって完全な人物など絶対いない。それはそれを生業としている鑑定士自身も認めている事なんだよ。そんな状態で法律で禁止しても偽物は無くなる筈がないんだ」
「・・最終的には人間の持つ誤差に関わるからですか?」
「そうだね 古物に関わる人々は最終的には自己責任と引き換えに楽しんでいると言っては語弊があるが、皆が認識している事なんだな」
「そんな世界に喧しく言うのは地球でもこの異世界でも無駄であると?」
「無駄と言う言葉がこの場合的確かどうかは置いておくが、駄作を掴まされてもそれは勉強と割り切り次の商品に目を向ける。それほど逞しく奥の深い分野だとも言える」
「だから偽物と分かっていても今回の様に売りつける?」
「もう一度訊ねる、何をもって偽物と判断する?」
「それは人工物と天然物とは違う・・・」
「ははは 小田切も今気づいたと思うが、宝石に於いてその差は何なんだ?」
太蔵は構造式が違い分析すれば明確に違うと出てくるのかと尋ねている。
「構造に関しては天然も人工物も変わりませんね・・」
「人によっては天然物の僅かに違う色の具合や場合によってはぼかし気味が良いと言う人もいる。それは人工物が画一的にある意味パーフェクトすぎるから嫌いだと、理由はあるがそれらは最終的に個人の好みによるものだな」
「持つ人が満足すれば、、ある意味本物より偽物が勝ると・・」
「だな、何を持って勝ちにするかだな。また当然それを鑑定した者達の技量も関わってくる世界だ」
「ふぅ それにしてもあの人工物は何倍に化けたんですか?」
「ふふ 最低数百倍とだけ言っておこう。最後に言っておくが儂は自分から価値はこのぐらいあるとは一言も発していないよ」
「・・相手に全て判断を任せたと?」
その通りと 太蔵はグイっとエールを飲み干す。
「それにね 今回彼等が一番の購入理由はダイヤのカット方式なんだよ」
あっ と小田切は思い当たる事があるのか考え込んだ。
「・・そうか あの技術はこの世界では、、」
「そうだな ブリリアントカットと言うのかな?儂も本職ではないので詳細は良く知らんが、ダイヤの持つ輝きを一番良く表現できる方式らしい。確かにあれは人工物のダイヤだが、カット技術は最新のレベルだからね。彼等の今後のカット技術の発展に利用できるなら、決して高い買い物ではないだろう?」
うーん 成る程・・しかしぼろ儲けですね、、。
半分納得 半分不承知の心境らしい。
「・・ところで 老師、お気づきですか?」
「・・儂の後方からの視線かな?」
二人は急に小声になる。
太蔵の斜め後ろのテーブルに座る2人組のうちの一人、若い女性と思われる人物が先ほどからしきりにこちらを気にして聞き耳を立てているらしい と小田切が教えてくれた。
「この皆の話す雑音の最中に聞き耳を立てているのも少し無理な気がするが、気になるな・・」
「はい ・・監視とかそんな大袈裟な目的ではなく、何かに興味を持って此方を気にしている、、そんな感じにも見えます」
「・・ほう、ならばその対象は儂ではなく 小田切、お前さんじゃないのか?」
老師は悪戯っぽく微笑む。
「はい? あっ いいえ、そうではないと思います。そんな浮ついた感情には見えませんよ」
老師の言う言葉の意味が当初は理解できなかった彼は、遅れながら理解すると慌てて否定する。
「ははは だが少し気になるな・・確認してみるか、、お勘定!」
太蔵は大きな声を上げてテーブルを立ち上がり会計の為に移動する。
昼食代を支払い、店の外にゆっくりと歩みだす。
転移の場所に利用できそうな裏路地へと歩みだす。
「ふむ・・追いついてきたようだな、、」
「はい、、一人の様ですね」
後ろを見ずに気配だけで二人は会話を続けていた。
ならば本人に聞いてみるかと そう思った先に意外に先に声を掛けてきたのは先方の方からだった。
「あの・・すみませんが、少しお聞きしたい事が・・・」
その声に二人は立ち止まり、ゆっくりと振り返った。
その視線に居たのは先ほどの店で太蔵等に視線を向けていた娘である事は間違いなかった。
小田切はその娘の後方を見ている、誰かほかの人影が見えないのか確認しているらしい。
「はて お嬢さん、儂らに御用かな?」
にこやかに笑いながら太蔵は娘さんに話しかける。
「あっ、突然失礼いたします。私クラッチャー商会の二女、マリー クラッチャーと申します」
綺麗に礼を太蔵に返して微笑んでいる。
(ほう この儀礼は付け焼き刃ではないな、それなりの貴族関係の教育を・・)
「これは これはご丁寧に・・して、こんな老人に聞きたい事とは?」
「はい 私は以前さる貴族様のお屋敷にて奉公見習いをしておりました時に、その屋敷の旦那様より特別に旦那様の祖国の言葉を教えて頂ける機会がありました。本日先の店で偶然にもその単語が何点か耳に入ってきまして、つい懐かしく聞き耳を立てていたのですが、もしや旦那様と同郷の方ではないかと思い、少しお話を聞けたらと思った次第です」
太蔵の通訳に小田切の目が一瞬光る。
誰にもわかるまいと会話は日本語でしていたが、もしや会話内容を知られたのではと警戒したのだ。
「・・ほう ほう、この国で我等の祖国の言葉を分かる方がいるとは・・・」
「いえ 簡単な単語を教えていただいただけで、会話内容までは正直わかりかねます」
「なるほど、、因みにどのような単語を理解しているのかな?」
「はい、オハヨウゴザイマス オヤスミナサイ イタダキマス・・チキュウ イセカイ」
小田切が あっと最期の言葉に反応した。
確かにあの店にて発した言葉に間違えない・・。
「これは これは・・立話もなんですので、何処か美味しいお菓子の店でも一緒に如何かな?」
それならばすぐ近くに良い店があると彼女は嬉しそうに案内してくれた。
その店は確かにクッキー系の菓子を何種類も用意してある洒落た店であった。
他人に会話が伝わらぬように奥の場所に3人は陣取る。
「そうですか、奉公期間が短いわりに色々とその貴族様に目をかけられたのですな、、因みにその貴族の方のお名前を聞いても?」
途端にマリーは少し暗い表情になったのを老師は見逃さなかった。
「はい、、ご内密にお願いします。オカダ男爵様と申します。最近訳合ってお取り潰しになりました。いえ何やら無実の罪により無理やり取り潰されたと内輪では皆が話しておりました。何か大それた事などする方では無いと信じております・・」
少し涙目の顔でしっかりと太蔵に向き合っていた。




