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太蔵は何かを確認したいために再度異世界へと行く決心をしている。
大宮はその決意の強さを感じてこれ以上の引き留めは困難だと感じた。
「・・まぁ 少しでも転移の可能性を上げるために今直ぐとはいかぬがな」
「・・お願いします、ここで老師を失うのはこれからの日本の損失になりますので、、」
大宮は可能であるなら自分も同行して老師の身を守りたいと思っていたが、自分の力より高弟二人によるボディガードのほうが数倍有効であると感じている。
この二人は何やら老師より特殊な技を教え込まれ、現代においてトップクラスの実力者と思っていい。
下手な特殊工作員の10名以上の働きが可能であろう。
なれど異世界に於いてどれだけ通用するのかは、大宮では予想が出来ない。
「老師・・魔法のある世界でお二人の高弟の実力はどの程度通用するのですか?」
「二人の実力か?・・そうよなぁ、良くて中の下までいくかな?」
「「ほう?」」
高弟二人はその解答に対してビビるどころか不敵にも笑い出す。
「お二人共、そこは笑う場面ではないと思いますが?」
大宮としては高弟二人の実力では老師の護衛は務まらないと判断するしかなかった。
「いや 大宮さん、それはある程度は予想済みだよ。逆に言えば伸びしろがかなりあると言う事だ」
「そうだな 現地で特訓だな。楽しみだぞ」
(この二人は・・・) 大宮は再度深いため息をつく。
「ねぇ みんなで何をこそこそ話し合っているの?」
「おう アナーシャか、旅行から帰って来たのか?」
「ええ 一週間の休暇有難う」
何やら東京で開かれた 同人誌の祭りに参加して序に東京近辺の観光地を見学して来たようだ。
「同人誌て、、腐女子の集まりで有名な・・?」
小田切は久保田にそっと尋ねている。
「う うん、俺も良くは知らぬが、、そんな集まりだよな?」
「あら 久保田、それは偏見よ。あれも日本文化の一つでしょう?」
4名は互いの顔を見つめ合い、あまり話題に深く入るまいと頷き合う。
「ふん 理解の無い男どもめ・・」
何やら胸を張って語り始めるのを、必死に久保田が止めていた。
「・・まぁ ここまでにしてあげるけど、何を話していたの?」
皆のお茶を配りながらソファーに座り込み皆を睨みつけていた。
これはまずった・・アナーシャは過去に何度となく魔法の実演を見ていた。
少し前には彼女が誘拐された折に太蔵と田川との戦いにおいてであり、過去にも魔法を見た折にもかなり興奮して老師に問い詰めていた過去がある。
それを何とか説き伏せて一応極秘扱いでお願いしていたが、恐らくその話は漏れていると太蔵等は感じている。
ある反面 ばれるならそれも構わないと開き直っていた。
外から見れば怪しげな術をつかう 怪しげな集団と畏怖されるだけであろう。
自分等の身さえ守り抜く力があれば、逆に抑止力として相手に圧がかけられる。
魔法がばれたとしてもそれを行使できる人間は限られている。
他国にとっては それこそ絵に描いた餅 状態であろう。
無論 各国より非公式に日本政府に問い合わせ等があったのも事実であり、これに関しては完全黙秘の立場を日本政府も貫き通している・・表向きはであるが。
今回の田川氏の米国引き渡しも、かなり水面下は米国の圧がかかっていたのは皆が承知している。
「・・で どうなのかしら?」
彼女は薄々に太蔵が何やら怪しげな術を行使して、時折行方不明になる事は承知していた。
それが恐らく魔法に関する事だとも理解しているが、転移魔法との認識はないであろう。
単に気配を無くしてその場から立ち去る程度の理解と皆は思っていた。
「・・返事が皆さん無いわね? 久保田!」
突然の指名に一瞬ピクついた久保田だが、懸命に惚けるしかない。
「・・怪しいわね、まぁいいでしょう。これ以上は追及しません」
全員が何んとなく安堵して肩から力が抜ける。
「・・私の予想ですが、もしかして転移魔法のお話なのかしら?」
そんな皆の気の緩みを待っていたように彼女が発言した。
何故に知っている? とつい体が反応したのが久保田であった。
その反応ぶりを小田切が イラついた舌打ちで久保田を睨んだ。
「あら・・正解かしら? ふーん そうなんだ・・」
勝ち誇ったようにアナーシャは豊かな胸を張って微笑んだ。
「お お前な・・」
気を抜いた一瞬の反撃にまんまとひっかかった久保田が彼女を非難する。
「ふふ 頭脳戦なら久保田より私の方が得意よ」
久保田を省く他の3名がやれやれと 頭を小さく横に振る。
「ねぇ 老師、転移魔法が本当に可能ならば、私異世界に行ってみたいの」
そんな彼女の無茶な提案を太蔵は笑いながら答える。
「そうだな 転移魔法が本当にあるなら私も行ってみたいな・・」
いかにも自然に堂々と受け流す姿に久保田も小さくぎこちなく頷いていた。
「・・誤魔化しても駄目ですよ、私異世界があるのは本当は知っていたのです、、」
唐突に何を言い出すのかと 太蔵は不思議そうに彼女を見つめた。
「・・実はあの田川に拉致された時に私聞いていたんです」
ホテルの地下駐車場にて近寄って来た田川に一瞬で気を失わされて、車ごと拉致されたアナーシャは隠れ家と思う場所に手足を縛られた監禁状態で意識を取り戻す。
まだ働かぬ頭のまま一瞬の判断で、アナーシャはまだ意識が戻らぬふりをして現状把握に努める。
地下駐車場にて一瞬見たあの男は覚えのある男であった。
自分が山道を歩くその男を車にて道場迄運び、そして老師と対決する事になった男であった。
(確か 名はタガワと老師が呼んでいたわね・・)
となると、、老師を誘い出すために私が利用された・・?
ようやく頭も正常に働きだす、何とかうまくこの場から逃げ出す算段を・・。
そうは考えてももう一人見張りか雑用係にいる若い男だけなら、最悪何とかはなるが。
(タガワは絶対無理ね、、)
あの老師と闘い勝利寸前まで行った男である。
彼の人間離れした強さを実際に見ていたアナーシャは直ぐに理解した。
(・・うまく逃げ出せたとしても、彼なら直ぐに追いつかれる、、)
ならばどうする? 考えろ。
こんな時の為に組織から特殊教育を受けたではないか、、基礎編ではあるが。
彼女は基本荒事の部署に属してはいなかったが、それなりの知識と訓練は教育されている。
(どう考えても無理、、ならば次の一手は・・)
情報を持ち帰る。 自然に自分の行える事を思いつく。
彼女は意識が戻らぬふりをしながら、漏れ伝わる二人の話す会話に神経を集中していた。
硬い床に転がされて拘束されているが、自分の出来る事をしようと腹が座っていた。
「まだ 意識が戻らぬようだな、、今のうちに連絡するか」
「はい、あの女が持っていたスマホから例の男の電話番号が判明しています」
「、、よし そいつに連絡しろ」
呼び出し音が微かに伝わってきて一人の男がその電話口に出てきた。
【アナーシャか? 今日はどうしたんだ?】
その声は聞き覚えがある、久保田の声で間違えなかった。
その後久保田と数回やり取りがあり、電話口にあの老師の声が漏れ始める。
(やはり老師と決着を付けたがっているのね、、会話に出てきた魔石とは何?)
最後に念を推すように、再度魔石について持参する様に伝えて会話が終わった。
アナーシャの疑問はもうひとりの若い男の疑問でもあった。
「あの 田川さん、、その魔石って何なんですか?」
「ふん 異世界の土産品よ。俺が異世界から転移して来れたのも魔石のお陰さ。あれがあれば俺はこの世界で無双する事が可能だ」
はい? 今何と言った! 異世界から転移? 何の事なの?
彼女は情報不足から少し混乱に陥っていた。




