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総理との面談が終わり、一行は研究所へと向かう為に列車に乗り込む。
「なぁ 老師、何か先ほどの話 無性に腹が立つな・・」
久保田が 少し不満げに面談内容を思い出している様だ。
「・・久保田控えろ、それは老師を始め皆同じ気持ちなんだ」
「分かってるよ、、だが思い出すと胸糞が悪くなる」
「結局 力なき正義は飾り に落ち着くのでしょうかね・・」
大宮も やるせない気持ちに包まれた様だ。
「それを一番感じているのが 現総理だと思うぞ。あの人は顔には出さぬが腹の中は煮えくり返っていると儂は思う・・」
太蔵は総理が小さな声で 国として早く完全独立を成したいと そう呟くように言った時の総理の顔は一瞬怒りに震えていたことを見逃さなかった。
「・・そうですか総理が一瞬その様な顔を、、結局は国民一人一人が早くこの平和と言う飼いならされた状態の異常さを気づくしかないのですね」
小田切は誰に言うわけでもなく、独り言のように呟いた。
「遠路はるばるお疲れ様です 老師」
研究所の入り口に朝一番にて訪問した一行を、玄関口にて所長と数名の職員が出迎えた。
『大倉間所長 ご無沙汰しております。本日は朝早くから申し訳ありません」
会議室にて武器メーカから派遣されている責任者が、改めてこれまでの成果とこれからの取り組みを説明してもらい、いったん彼等は席を外して出て行く。
「大倉間さん 実は本日伺った本命は・・・」
太蔵は訪問の本音を語り始めた。
「何ですと・・魔素結晶を20キロご希望と・・・」
所長は要求されたそのあまりに大きな数字に狼狽えていた。
「・・ご存じのように 新武器による従来の火薬に数%混入するのも不足しております。結晶自体が足りずに製造はフル稼働の状態なのです、またご希望の量は概ね小型原爆に匹敵するエネルギー量になりますので、取り扱いにかなり配慮が求められますし、私個人の判断では、、」
「取扱いに関しましてはそれなりに心得ているつもりです。また大滝総合幕僚長もこの件についてあらかじめ許可を頂いておりますのでご安心ください。そして私どもから出来る協力としまして、今日一日魔素造りを手伝わせていただきます。この3名にてお分けいただく結晶10キロ以上の魔素量はカバーできると思いますので」
現在この工場にて10名の特殊技術者が従事しているが、高弟2名にてその技術者の数倍の効率で魔素を回収できると言う。
ましてこれに太蔵が絡むと一人で並みの技術者の最低5人分に匹敵すると言う。
「・・それは大変助かりますが、分かりました少しお時間を下さい。申し訳ありませんが総合幕僚長に一応確認を取らせてください」
隣室に一度入り電話確認を入れて再度部屋に戻って来た。
「お待たせしました、確認が取れましたので結晶の詰め込み作業を行いますので1時間ほどお時間を頂ければと思います。大滝の方からは魔素回収作業はお手数をお掛けするにはいきませんので、お気持ちだけ有難く受けさせていただきます との伝言を預かっております」
いや、、それでは申し訳ないので・・しばし太蔵と所長の話し合いがあり、ならば半日だけでもとの太蔵の強い提案にしぶしぶ所長も納得してお願いする決幕となる。
太蔵等が作業室にて魔素回収を行う様子は関係者一同が思わず見入る程の効率で保存タンクへと回収して入れ込んでいった。
(何と鮮やかな回収作業だ・・感心するしかない)
関係者一同は隣室のモニターに映し出される老師達のその様子をただ見入っていた。
「老師お手を煩わせて誠に申し訳ありませんでした、お陰でかなりの魔素量が集まったと皆が喜んでおりました。これで長距離ミサイルの実験もつつがなく予定通りに進められます」
「それは それは、あっ もし良ければその開発中のミサイルを話せる範囲でお聞きしても?」
「はい 開発に関しては12式誘導ミサイルの改良型になります。これは現飛行距離200キロで巡航速度800キロにて移動しますが、改良案は飛距離を1500~2000キロへ、そして巡航速度は倍の1500キロは最低達成したいと思います。それと大幅なサイズの小型化を計る計画であります」
「ほう・・かなりの取り回しと大幅な性能アップを考えられているのですね」
「はい これも魔素結晶により可能となったと皆が喜んでおります」
一頻り開発談議に花が咲き、あまり仕事の邪魔をしてはと太蔵等は用意された結晶が入ってるケースを受け取り研究所より辞退して、乗って来たレンタカーに乗り込むと一路道場へと移動開始になる。
「なぁ 老師。俺はあまり武器の事は詳しくないのだが、、12式と言ったか?それは元々どの位の性能なんだろうか?」
「そうだな 儂より本来は大宮さんの方が専門家なのだが、不足点があれば指摘してもらうが、、かなりの性能で世界的にも評価が高いと聞いておるぞ。確か衛星データリング方式で離れた目標物に正確に命中させることが可能で爆発力もかなり優れているらしい」
「ほう・・それ程のものを更にグレードアップか?」
「うむ、中国の大部分をカバー出来る事を念頭においたのかもな、航空機や潜水艦にても積載可能だからある意味日本の切り札のひとつだな」
「・・一番の狙いは到達距離の大幅アップと巡航速度ならびに小型化なのでしょうね」
小田切の意見に大宮も小さく頷いて肯定する。
「・・ところで老師、今回分けてもらったその魔素結晶をどのように活用するのですか?」
大宮としては小型原爆にも匹敵するエネルギーを持つ物質を何の目的にて太蔵が譲り受けたのかを知りたがった。
「うん 大宮さんの心配は理解しているよ。この件は大滝さんを通じて総理もご了解いただいているのだが、丁度いい皆にも説明しておこう」
「おう それよ、この前から気にかかってはいたんだが・・」
「老師・・もしかすると転移に関する事では?」
小田切がそろりと太蔵に尋ねる。
「おっ、感がいいね小田切は・・」
やはりかと 小田切は小さく頷いた。この前より頻りに転移に関して一人で何やらこそこそしながら繰り返し行っていた事を気にかけていたのだ。
「おう! もしかすると異世界にご招待なのか?」
久保田が思わず食いついて来る。
「うむ なれど片道切符いや最悪は命も保証できんが、ついて来るか?」
太蔵としても一人なら往復も可能性ありと見ていたが、恐らく高弟の二人が一緒について来ると言いだすのではと感じていた。
3人による転移となるとどれだけのエネルギーが必要なのか、正直読めていない。
「「是非とも!」」
高弟二人は声を揃え、すぐさま太蔵に応える。
大宮はそんな二人を見て深いため息をつく。
「・・魅力的な提案ですが、可能性はどの程度なのでしょうか?」
太蔵は予想がつかんと首をひねる。
「あの世界に無事に到着するか、大空から落下するか・・確率は5割程度と見ている」
「・・それは余りにも危険すぎると思いますが・・」
大宮はすぐさま反対の意見に傾く。
太蔵のお陰でようやくこの日本は戦後の重しから脱却しようとしている、ここで無茶な転移により太蔵を失うわけにはいかない。
この人物はまだ隠し玉があるはずだ、何よりこれからの日本の為にも危険な行為は控えてもらいたいのが大宮の正直な気持ちであろう。
「・・うん 倉田さんや大滝さんもかなり心配していたが、どうしても可能ならあの異世界へもう一度戻って確かめたい事があるのだ」
「せめて・・もう少し確率が高くなるまで控えて頂くことは、、、」
「大宮さん、これは私のけじめの問題なんだ。それに片道だけの可能性ならば7割は大丈夫と思う・・」
「・・老師」
大宮はその確率を素直に信じられなかった、自分を安心させるための方便と感じていたのだ。
なれど何かを異世界にて確認したがっている太蔵にこれ以上は大宮は何も言えずに言葉を続けられなかった。




