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その男 異世界帰り   作者: 西南の風
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実際に派遣隊員が太蔵のビデオを見る事が出来たのは日本から離れた船上であったり、先発隊で移動した輸送機上での事であった。


秘密保持の問題にて関係者しかいない環境で実施されていた。

万一の漏洩を恐れた対処法でもあった。


国や自衛隊上層部は太蔵が開発した対処法が精神の安定化であればそんなに意識しなかったのだが、元々のベースになるのが体力強化と言う信じられないスキルからの転用と聞いて、国や上層部は頭を悩ました。


もしこれが国内で先に派遣隊員に実施して、万一外部に漏れた場合の国の損失を天秤にかけたのであろう。

派遣一般隊員に実施する前に、念の為に指揮官クラスの隊員10名を密かに厳選してこの効果がどの程度のものかパッチテストが実施され初回で9名に効果ありと認識される。


効果が認められなかった1名に聞き取り調査を実施したところ、本人自身がこの様なものはブラシボー効果の類と感じて積極的な対応には程遠い感情にて受けていたことが判明した。


だが本人は周りの他の隊員とあまりの差に驚き 後日再度の申し入れによる再ビデオにてその効果が持続して現在に至ると言う履歴を持つ事になる。


この経験は実施側にも良い教訓を残した。

人の持つ思いは確かにそれ自体かなり個体差があり、受け取り方も様々な感情が働く。


せっさくの効果が見込まれる今回の対応も無駄になるケースもあり得ると。

この点は当初の機械的な説明の仕方を反省して、出来るだけ具体的で当事者たちに立った説明でかなり改善が出来るものと重要検討材料となる。


そんなミスも経験しながらの全隊員に対して移動中に実施された。

その結果でやはり数%の当初予測通りの変化なしの状態者が散見されたが、周りの変化に驚きその効果を信じることが自分の為にもなると理解させたことにより、何とか落伍者なしの現状になっていく。


その後の隊員達の追跡調査も極めて順調で、派遣隊員たちは冷静に現場にて事に当たり心配されるような情緒不安からの突発的な行動に出る者もなく、他国の軍に見られるような不安に駆られの誤射や行き過ぎた行為などもなく。


流石日本の自衛軍と他国の特に指揮官クラスからはかなり高い評価があった事も付け加える。

実施者にとっても人間心理の勉強にもなる一コマとなったようだ。





そんな他国からの圧倒的な評価があった事を知らずに太蔵はこの所も何か隠れて、一人でこそこそと行っている姿が見られた。


特に裏山にふらりと出かけるとそのまま消息不明になり、心配した隊員がこっそりと護衛の為の尾行を行っても姿がふいに居なくなる。


皆で慌てて周辺を探索するも手掛かりはなく、懸命な探索をまるで嘲笑うかの如くとんでもない場所から不意に出てきて皆が安堵する。そんな奇行にも似た行動をとる事が多くなる。


いくら本人にお願いしても申し訳なさそうに謝るだけで、何の目的にてそんな行動をとるのか満足な回答は誰も聞かされてはいない。


口の悪い久保田からは とうとうボケが入ったのかと罵られても、太蔵は済まなそうな態度で黙秘を続けているだけである。


普段の行動は何も気にかかる事はない、それどころか今までに増して積極的に色々な問題にも取り組んで太蔵の行動と実行力はますます磨きがかかっていく。


となると唯一の問題はふらりと居なくなる事である。

それも皆に怒られるのに懲りたのか、用が無い時は自室に籠っているのに隙を見ては居なくなる?。


この日もアナーシャがお茶を持参して部屋に伺うと返事がない。

もしやと思い自室を覗くと太蔵の姿はやはり消えていた。


またかと皆が探しに出る前に再度部屋を確認しに行くと、何食わぬ顔で太蔵は何やら手作りの書類を書き込む作業を行っていた。


そして慌ただしく入室する皆の顔を見て、逆に何事ときょとんとして尋ねる姿があった。

そして状況を聞かされてまた申し訳なさそうな態度になる老師であった。




「・・可笑しすぎるぜ この所の老師の様子は」


「奇行と言うより 絶対に何かを隠そうとしている様に思います」


「困った事だな・・正直に打ち明けてくれないかな」


高弟二人と大宮三尉の3名は頭を付きあわせて悩んでいた。

一人だけにこにこと楽しそうにしている者がいる。


「あら 推察通りに絶対何かを企んでいるわ。何となくそれが何か楽しみなんだけど」


アナーシャは太蔵の事だから心配いらない、好きにさせて納得すれば必ず太蔵の方から説明がある。

考えれば能天気な発言であるが、ある意味太蔵の凝り性な性格をついた発言でもある。


「だがな、、今や老師は日本の陰のVIPと言っても過言ではない存在になっているんだ」


久保田はそんな太蔵に何かがあってからでは遅いと考えている。

それに関しては他の二人も頷いて同意する。


「あら そんな特殊な立場などあの老師が気にしていると思う?逆に言えば自由を束縛されて迷惑と考えるタイプなのじゃないの?」


そ それは・・・。


ある意味半分部外者のアナーシャの方が太蔵の心理と性格を捕えていた。

高弟らはいつしか太蔵を守らねばの想いに駆られて行動している自分に気づく。


その気になれば動きまわる台風に匹敵する老師である。

何かあったとしても当然その場を脱却してゆうゆうと帰還する老師であろうと考える。


なれど今は老師の身に何かあれば困るのはここにいる心配顔の3名だけではない。

近々総理にも呼ばれて密会の話もあると聞いている。


無用な心配だけは勘弁して欲しいと考えるのも無理がない。


可能であれば何を求めての奇行なのか打ち明けて欲しいのが、ここにいるメンバーの全員の本音でもあろう。


「「むりだろうな・・」」


「むりでしょうね」


そうは素直な老師ではない、自分がある程度納得するまではまだまだ奇行は続きそうだと諦めの境地になりつつある。


そんな太蔵は少し大きめの地図に赤ペンにて✕の印を書き込んでは、何やらしきりに一人で呟いている。




「なぁ 老師、そろそろ意図を説明してくれないか?水臭いぞ」


半分泣き落としに入る高弟二人であった。

そんな高弟の真剣な顔に そろそろ限界かなと考え込む太蔵がいた。


「うーん そうだな・・説明の時期かもな 大宮氏も呼んでくれるか?」


老師の部屋に関係者3名が集まり老師の説明を固唾を吞んで聞き入る。



「3人にはまずはこれを見て欲しいのだが・・」


彼等の前に出されたのは、老師が何やら近郊の地図に書き込んである赤い✕印のついた地図であった。


「・・これは 確か、、」


小田切は話には聞いていたが、実際には見るのが初めてである中部地方とその隣県が記された地図である。


この道場がある周辺地点には無数の赤印の印が書き込まれていたが、そこを中心として次第に遠方に移るとまばらな印へと変化していた。


「・・これは一体何を現わした地図なのでしょうか?」


大宮も首を捻りながらその本意が分らぬと眉をひそめていた。


「・・何なんだ これ? 勿体をつけずに教えてくれ」


焦れた様に久保田が老師にせっつく。


「・・少しは考えたらどうかな?お前さんはどうもせっかちでいかんな。ヒントはある実験結果だ」


実験結果と言われても思い当たる節がない・・。


「もう一つ、つい最近手に入れた物の実験結果だ」


最近手に入れた・・?

益々分らぬと 皆がその地図を睨みつけて回答を探す手がかりを模索している。


「もう一つ、これは田川氏から入手した物だ」


はぁ・・? 久保田はスキルに関する事か、何の事か理解できないと言う顔になる。


「「老師 これはもしや例のスキル発動の結果ですか?!」」


小田切と大宮の二人が突然何やら思いつき、老師に食いついてきた。



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