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その男 異世界帰り   作者: 西南の風
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照明の下で佇んでいる田川本人に話しかける。


「・・田川さん まずは彼女の安全を確認させてください」


その問いに面倒くさそうに顔をわずかに横へと動かす。

それを合図に離れた木の陰から二人と思われる黒い姿が動いて出てきた。


「アナーシャ・・」


一瞬久保田がピクンと動きかけて、その動きを止める。

後ろ手に縛られた彼女の後ろには、恐らく組の関係者と思われる男が彼女の首筋にナイフを突きつけている姿を見つけたからだ。


「アナーシャ 怪我は無いか?」


「・・大丈夫よ 乱暴な真似はされていないわ」


彼女の声が太蔵等に届き、皆が安堵の息を吐く。



「さて そろそろ始めるか、その前に魔石を寄越せ」


田川が組んでいた手の片方を伸ばし手のひらを見せる。


「・・彼女の解放が先だ」


「本物の魔石と確認出来たら解放する 寄越せ」


「・・・・・」


着ていた上着のポケットを弄り太蔵は魔石を田川に投げ渡す。


「・・ふむ」


魔石を受け取り しばらくあれこれと魔石をこねくり回していたが、突然何やら呟くと田川の片手から巨大な火の玉が上空に出現する。

その場にいた太蔵を除く者達があまりの巨大な火球の大きさに呆然とそれを見つめていた。


「・・間違えないな、よくぞ魔石を持ち込んだものだ、、この感じなら後数回は最低使用できるか・・」


片手から火球がすーっと消滅していく。

見ている者達が何となく安堵のため息が吐かれた。


「・・まだ隠しているだろう?正直に出さぬと あの女の火炙りを見たいか?」


暫し田川と太蔵が睨み合う、焦れた様に太蔵がポケットからもう一つ魔石を出して田川に投げ捨てる。


「ふふ やはり持っていたな、おい念の為にポケットを全て裏返して俺に見せろ」


その言葉に逆らわずに太蔵は全てのポケットを裏返して他の所持していない事を見せる。

その間田川は新しく手に入れた魔石の確認をしている。


「いいな、、後からの物はほぼ魔素がいっぱいの状態だな・・」


満足げな微笑みを浮かべ田川は にやりと微笑む。


「・・彼女を離せ」


「焦るな これから始まる俺との殺し合いに勝てば解放されるさ、、では始めるか?」


太蔵は素早く上着を脱ぎ捨てて、数歩田川に向かいゆっくり歩きだす。

田川は魔石を大切に仕舞いこむと、同じく太蔵へと歩む。


「なぁ 田川さん、最後に何点か教えてくれないか?」


田川は面倒臭そうな顔で僅かに頷く。


「・・儂に対する恨みが強いがその理由と、この世界に戻った手段を聞きたい」


「何を惚けた事を、、この前も言った通りお前の皇女襲撃事件により、俺達の監視体制がとてつもなく強化されたのよ」


魔王を倒し ようやくあの世界にて地位と金が手に入り、好きなようにあの世界で生きていける事が可能になったが、太蔵による襲撃事件により彼等異邦人は厳しい監視の目が常に注がれていた。


そんな堅苦しい監視の中で田川は酒と女に溺れていくふしだらな毎日の生活を送っていた。

首都から離れて息抜きさえままならぬ毎日に次第に不満が膨れ上がっていく。


捌け口は酒と女しかなければ いつしかどっぷりと浸かりはじめ、より強い刺激を求め酒で判断力の低下した田川はかなり街中で一般人に鬱憤を晴らす行為が目立ち始めた。


少しでのことでおこされる暴力沙汰と女への無差別な暴行事件に、流石に宮中内でも諌める声が度々上がっくる。

注意を受けて暫くは自粛するが、直ぐに繰り返される行為に皆が手を焼いていた。

さる美しい上級貴族婦人からパーティの折にそんな田川にかなり強い叱咤警告を受けた田川は、皆の前で受けた恥を晴らすべき行動にある日でる。


その婦人には愛人がおり、月に数度秘密の場所にて逢瀬を楽しんでいた。

その場所を調べ上げて待機していた付け人たちを叩きのめし、愛人の男の一物を蹴り上げて悶絶させると、その美人婦人を散々いたぶって、最後にはその高貴ですまし顔の婦人の顔を腫れあがる程に変形させた。


酒による精神不安定な事が引き起こした事件ではあったが、流石に上級貴族の婦人を犯すことはご法度であり、田川逮捕に国が動き出す。


酒により回らぬ頭でも事の重大さに遅れながら気づいた田川は、王都からの脱出を試みる。

予てからもしやに備えての大量の魔石が入った魔法袋と、太蔵が残していった転移の符魔紙に描かれた羊皮の魔方陣を隠しての脱出劇となる。

数日後人里離れた岩山の上で田川は転移魔法を発動させてあの世界から逃げ出したのだ。


(何だそれは?全ては自業自得であり、儂に対しては全くの逆恨みでしかない)


太蔵を始め他の聞いていた者達はただ呆れ果てていた。

だが 本人に取ってはその原因が太蔵にあると凝り固まっているのであろう。

太蔵の起こした事で確かに残った同胞に迷惑をかけたかもしれないが、時間の経過でそれなりの監視の目も弱まる筈であろう。


この田川より田嶋さん等に及んだ罰の方が数倍も取り返しの効かない事案であった。

前回田川が話した田嶋氏等の最後に太蔵は心を痛く感じていた。

自分が起こした事件の協力者として罰せられた二人の面影が浮かび上がっては、若気の至りを反省していた。


何故ここまでこの男は・・そう考えると ふと聞いた話を思い出す。


「・・一緒に召喚された当時恋人の、、、」


「黙れ!! お前がその名を出すなと言ったはずだ!」


途端に田川は猛烈な勢いで会話を断ち切り、血走った目で太蔵を睨みつける。

召喚時に田川は一人では無かった、当時つきあっていた恋人もその召喚に巻き込まれたのだ。

この田川の反応から察するに恐らく無事に召喚されたとは考えにくい・・。


「・・つまらぬ会話はここまでだ、始めるぞ!」


物凄い殺気が田川から発せられ、太蔵を襲ってくる。

それに反応して太蔵は身構えた。


「ゆくぞ!」  「応!」


二人の影がぶつかり合う。

素覚ましい勢いの拳が太蔵に襲い掛かってくる。


(くう 前回と違い最初から田川氏は全力だ)


田川の勢いに押されてどうしても受けに回る太蔵は呟いていた。


「どうした?逃げずに攻撃せい」


尚も田川は一気呵成に攻め込んで来た。



「お おい 老師がかなり押されているぞ」


「うーむ 前回に懲りて最初から全力で老師を潰す気配だ」


高弟二人が旗色の悪い太蔵をやきもきしながら対決を見ていた。


「なぁ 打ち合わせ通り、この先最悪は飛び込むぞ」


互いに小さく頷き合う、老師には戦いの参入は止められていたが、ここで老師を失うわけにはいかんと二人でこっそり話し合っていたのだ。


「ぐうっ!」


田川の強烈な一撃が太蔵を襲う、何とかその勢いを押さえながら直撃を避ける太蔵だが、かなりの衝撃に襲われている様だ。

大きく飛び跳ねて距離を取ろうとするが、田川はそれを許さず追い込んでくる。

続けて二発目が当たり必死に転がりながら体制を整える老師のすがたがあった。


「駄目だ 俺は行くぞ!」


久保田がもう限界だと動き出そうとしていた、つられて小田切もスキル発動をすべき集中する。


「動くな! 参戦はならず!」


途端に太蔵が弟子の動きを制する大声を発した。

動き始めた二人がぴくりと動作を止めた。


「ふん 俺は三人でも別に構わんぞ」


横目でチラリと弟子たちの動きを確認した田川だ。


「ふう 何のまだ加勢には早い これからよ」


再び両者が激突する。


「くっ これがレベル差なのか? あの老師の拳や蹴りがほとんど当たらん・・」


「・・もはや二人は異次元の戦いだ、特に田川の動きが私には満足に目で追えん・・」


高弟の二人でも両者の激突の細部が所々ぼやけてしまう。

そうこうするうちに太蔵がまたして一撃を貰い大きく崩れ片膝をついて田川を睨んでいた。


「ははは ここまでだ、引導を渡してやるわ 大火球!」


「「老師!!」」


高弟二人が思わず叫び声が上がった。


「なんの! 体力強化!」


 何だと!? スキル発動だと!?


田川は思わず太蔵を凝視していた。



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