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見知らぬ電話番号からの着信が太蔵の携帯に入って来た。
先ほど受けた田川からの番号とは違ってはいたが、その仲間からの連絡かと太蔵は電話に出る。
「・・はい・もしもし・・はい? ああ・・・アナーシャの・・ええ 申し訳ないですな、彼女に今回迷惑をお掛けしました・・ええ お任せください、、、はい それでは」
電話連絡の主はロシア国情報局東アジア地区統括責任者のミカジオ・アンドロノフと名乗っていた。
「おう その名は記憶あるな・・」
久保田はいつだったか、アナーシャと同伴して紹介された中年男を思い出していた。
「外務省経由にて今回の一連の騒ぎがロシアの特務機関の長へと報告されたんですね」
宮本が事の動きを皆に説明した。
「・・して 彼は何を?」
小田切は電話内容を確認しておきたいようだ。
「端的に言うなら 此方に全て任せるとの事だ」
「「「ほう」」」
大国の特務機関の調査員が誘拐されたとなればかなり問題視されるとおもうのだが、、、
皆の思いは其処に行き着くが、何やら思惑がありそうな流れではある。
「はっきりとは言わなかったが、アナーシャの対応は組織でももめていたようだな・・」
彼女が組織の枠をはみ出して活動していた事に色々と反発があるようだ。
「何だ? 随分と冷たい仕打ちじゃないのか?」
久保田が口をとがらせて抗議する。
「うむ 詳しくは不明だが、今現在の彼女はそれほど大きな情報を持っていないと判断されたのだろうな。それとどこまで調べたのか不明だが、此方の力をかなり高く買っているような口ぶりだったな」
「・・ああ なるほど」
大宮は納得したように、一人頷いていた。
「どういう意味なんだ?」
久保田が不思議そうに大宮を見つめる。
「これまでの皆さんの活躍を日本にいる裏組織の者達はよく承知しているのですよ」
大宮はにこりと笑いながら、過去の各国による襲撃事件をほぼ100%撃退して来た太蔵ファミリーはその筋の者からはよく承知されている事実なのらしい。
「・・あんな へっぽこ連中など退治してもえばれる話では、、、」
「いえいえ 皆さんには大したことがなくても、裏組織を預かる各国の組織長には悪魔のような存在と聞き及んでいます」
「「・・・」」 高弟二人には今一実感がわかないようだ。
襲って来たから排除した そんな意識が特に久保田には強くあり、それが何か問題か ましては悪魔のようにとは 少し言い過ぎであろうとぼんやりと考えていた。
つまり 強さがいつの間にか人間離れしているのに本人たちが一番気づいていない。
「そう言われても 更にその上がいるからな・・」
久保田は正面にいる太蔵を呆れた顔で凝視する。
「まぁ その話はここまでだ、問題はいつ田川からの連絡が、、、」
小田切が会話を一旦打ち切り、今後の話をしようと提案した時に太蔵の持つ携帯が鳴り始める。
「もしもし・・そうだ三橋だ、アナーシャさんは無事だろうな?」
「くどい、あの女に興味もない。もう一度いうぞ、今すぐ隣の県の北箸町に来い。町に付いたら再度この携帯に連絡を入れろ。その際お前の持っている魔石を全て持ってくることを忘れるな。警察に連絡しても良いがそうなるとあの女の無事は保証はせんぞ。直ぐに動け」
そこまで言うと一方的に電話は切られた。
軽くため息を吐きながら、傍で聞いていた皆に田川からの電話内容を伝える。
「北箸町へ?これから行くと夕方過ぎますよね・・」
「・・魔石持参ですか」
「けっ、この前の事に大方懲りたんだろうよ」
「・・すまんが、皆準備をしてくれるか」
全員が頷くとばたばたと移動の準備にかかる。
大宮の車に乗り込むと一路隣の県へとハンドルをきる。
「老師 一応情報は陸将補に伝えておりますが、宜しいでしょうか?」
慌ただしくハンドルを握る大宮が太蔵に確認する。
「ああ お手数をかける・・」
「だがあいつは俺達が本当に警察に連絡しないと思っているのかな?」
「いや 久保田、最悪のケースでも逃げ切る自信があるのだと思う・・」
「ちっ 前回のあの逃げっぷりを考えれば可能性ありか・・」
「田川氏の目的は儂であり、魔石であると思う。よって彼女に不祥事をするとは思えぬのだがな」
「・・そんな事をすれば俺が田川を殺す」
「まぁ久保田落ち着け、田川氏にとっても彼女は交渉の大切な手駒の筈だ、無体な事はすまい」
「老師 田川が魔石を手に入れると、かなり問題が発生すると思いますが・・」
「・・あの国では田川氏はトップクラスの魔導士だ、厄介なことにはなるな」
「・・おいおい奴に渡していいのかい?」
「まぁ 儂に任せよ、何とかして見せる」
そう言って太蔵は高弟に預けていた魔石を回収して自分のポケットに仕舞いこむ。
夕方のとばりが落ち周辺が暗くなり始めたころに太蔵等を乗せた車は隣県の町へと入りこむ。
「どれ 約束の地に入ったようだな、連絡をとってみるか・・」
隣県の北箸町は町と言っても周りを山に囲まれた小さな町で、郊外に出れば山が迫っている事もあり直ぐに人里離れた景色が始まる。
太蔵は先ほどの田川の携帯に連絡を引入れて到着した事を伝える。
それを待っていたように直ぐに田川本人が出てきて、何やら太蔵に指示を出す。
「・・大宮さん 稲垣山の場所はご存じか?」
稲垣山?確か郊外の山でここから30分もかからずに行ける筈と大宮は思いつく。
さほど高い山ではなく、この近年に確か山頂付近が県の自然運動公園に整備されて地元でも結構人気があると聞いている。
「その運動公園に来いとの指示だ」
「・・山頂までは車では行けなかった様に思いますが、、」
「うむ 途中の駐車場から歩くしかあるまい」
なるほど、人の動きが制約される場所ではある。キャンプ施設などは無いので夜間の人の動きは先ず無いと言ってもいいだろう。駐車場からは結構な階段を登っていく筈だ。
「ふーん 人の目に夜間はつきにくい場所なのか、、」
頂上付近はなだらかな場所が広がり、太陽電池照明の光照明が何基かあるらしい。
対決の場には邪魔が入りにくく、最悪裏手の山へ逃げ込めば自然の中へと入り込めるとの事。
「敵さんも色々かんがえているな・・」
やがて車は稲垣山の駐車場へと入り込んでいく。
「この階段から頂上へ?」
4名は車が降りて近くの看板を見つけると、山頂までの山道を歩き始める。
「敵さんは何名ぐらいいるのかな?」
「さて 組は警察により打撃的な致命傷を負っているし、左程心配いらないと思うがな」
「・・あの駐車場の奥にひっそりと1台置いてましたよ」
大宮が駐車場の奥に隠しているように置いてあった車を見つけていた。
「ほう 流石大宮さん、ならば人数は知れたものだろう」
高弟の二人もその車には気づいてはいなかった、それほど上手く木の陰に置かれていたらしい。
「さて 頂上に着いたようだが・・・」
太蔵は薄暗い自然運動公園の中を見渡して、田川の居る場所を探し始める。
「老師 あの照明の下に誰かが・・」
遠くの照明の下に確かに人影と思われる人物を見つける。
皆が周りを確認しながらゆっくりとその照明の元へと歩み始めた。
「・・ようやく来たか」
そうつぶやく人物は確かに前回訪問して来た、忘れもせぬ田川本人である事を太蔵等は認識していた。




