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大宮は自分の胸に浮かんだ派遣隊員たちの不安を説明し出した。
「一番の問題はこれまでの海外派遣と違い、最悪内乱に巻き込まれる可能性が高いと言う事です」
大宮はこの一週間それとなく派遣隊員たちの様子を眺めてきた。
それにより隊員たちがかなりナーバスになり、それを隠そうとしてやけにハイな雰囲気が派遣隊員達に広がっている事だと言う。
派遣内容がこれまでとは違い、後方支援から場合によっては内乱に巻き込まれることは応募した隊員たちは当然理解している。
なれど頭では理解しても彼等には実戦経験が完全に不足している。
つまり気持ちが追いついていないのだ、頭では理解しても心が迷っている状態であろう。
本来なら現場を知っている先輩隊員達が彼等の不安を解消する役目を負う必要があるが、戦後その様な経験は誰もしていないのが現実である。
その点は上官たちも理解しており、何度となく会議室にて必要な情報を隊員に話してはいる。
なれどそれを説明する上官たちも実戦の経験はない。
マニアルに書かれている事を懸命に自分なりに理解して話しているだけだ。
誰も解決策は持っていないに等しい。
それが派遣隊員達も理解しているから、皆はその不安を内に込めて必死に耐えているのだ。
自分が選んだ職業に忠実に任務として全うしようと、誰もが考えている。
考えれば派遣隊員皆に無条件に頭が下がる気がしていると大宮は説明してくれた。
「成る程・・考えれば当たり前の話だよな。最悪殺し合いになると理解しているなら、そんな気持ちから少しでも逃れようと心は過剰にハイとなるか沈み込むかの・・」
高弟二人は大宮が何を言いたいのかを理解して、軽くため息が自然に出てきた。
「なれど 彼等はそれを敢えて選択したんです。ならば先輩自衛官として出来る事が無いか思いついたのがお二人のスキルです。前に確かスキル発動時には体力面だけではなく精神面もかなり変化して高い闘争心に覆われて不安感が大幅に減少したとお聞きしました。出来るならそんなスキルで隊員たちの不安が少しでも解消できないかと思った次第です」
大宮がそこまで言って黙り込んだ。
高弟の二人も部下を思う大宮の気持ちが痛い程に理解した。
なれど二人にはそれを解決する手段がない。力を取り込みそれを解放する方法は確かに老師から教わったがそれなりの時間と修行が必要だ。
ひと月やふた月でどうにかなる問題ではない、それもほぼ老師による付きっ切りの毎日の指導にて身に着けたスキル発動である。
そんな二人ではあるが、完全にスキル発動が出来ている状態ではない。
老師による裏技とも言う符魔紙に書き込まれた魔方陣による発動で可能なスキルだ。
何もない状態での発動などは二人とも不可能としか思えない。
「・・そう考えるとあの老師は確かに人間離れしている存在なんだな、、」
久保田が自分の頭を振りながら思わず呟いた。
「うん 何だ、儂の噂か?」
3人が話し込んでいる部屋にいつの間にか太蔵が現れていた。
「うぉー 気配もなく現れやがった!」
にこにこ笑いながら立っている太蔵に皆が慌てて注目していた。
「うん? もっと儂を褒めてもいいんだぞ、ほれほれ・・」
途端に久保田が嫌な顔で目の前の老師を睨みつけていた。
「はぁー まったく・・人間離れをした、人外老師の話は確かにしていましたがね」
「・・何となく褒めていない気がするが、、」
「あれ? それが分かるなら人外から1ランク上がって人間に近寄りましたね?」
容赦のない久保田の発言に残りの2名が思わず吹き出す。
それを感じて怪訝な顔つきになる太蔵である。
「おい 久保田、それはあまりにも失礼な・・」
小田切がそんな久保田の発言に少し拗ねている老師の姿を見て、必死に笑いを噛み殺しながら諌めようとしていた。
「成る程、話の内容は理解したが余りにも時間が足らんな、今回は無理と言う事だな」
一通り大宮から派遣隊員の異常な雰囲気がかもちだす理由について、その対処方法について太蔵は相談を受けていた。
「なぁ 老師、いつか異世界に於いて他人の命を奪った事を聞いた事があったが、老師も初めての殺人を犯した時にどんな気持ちだったんだ?」
突然核心に近い質問を老師にぶつける久保田であった。
人を殺した事による違和感や戸惑いが無かったのかと尋ねたのだ。
他の二人も少し緊張した様子で老師に刮目する。
「儂の話しか? そうよなぁ 好きで殺したわけではないが・・」
腕を組みながら遠くを見る目線で太蔵は正直に答え始める。
「まずは異世界と言う環境の問題が一番左右するだろうな・・」
魔物が跋扈して人の命が軽い世界でもあった、貴族から兵士それに冒険者達果ては野盗や山賊・・彼等は帯剣が当たり前の状態だ、それはつまり何か争いごとがあれば生死の保証がない世界でもある。
当然野蛮な行為による罰則はあるが、判断する者の匙加減にて変化する不安定な世界でもある。
追求的な考えはバレなければ罰せないと割り切っている者達が多い事だ。
そして 目には目 と言う風潮が色濃く残ってそれに対応して各個人が動いている。
「ふう・・ある意味危険と隣り合わせであり、そんな環境に小さなうちから慣れ切っている事が更に事態を悪化させておる」
つまりはそんな環境に慣れなければある意味生きていく事が困難な社会でもある。
「・・次に儂個人の問題もある、、、」
太蔵自身が古武道の家系に生まれ落ちた、古武道の技は合戦時や暴漢に対して容赦なく発揮するように小さな時より教え込まれていた。
それはある意味人の生死に関して軽く考える環境にて育ってきたとも言える。
そして異世界における環境と似通っている事でもある。
それ故に太蔵はあまり人の生き死にそれ程悩まずにあの世界の環境に入っていけた。
「・・更に言うなら、生まれた時代も関係がある」
彼が生まれた昭和20年代の後半は先の大戦の影をまだ残していた時代でもあった。
元帝国軍人の兵達が街中に溢れかえり、自棄になった帰還兵たちによる傷害事件も多発していた。
つまり物騒な時代背景があり、人々が完全に安定化しての暮らしに模索していた時代でもある。
高度成長時代が始まり、ようやく人々は安定した生活へと目を向ける余裕が出来たのだ。
「・・と言い訳じみた事を並べたが、当時の儂はあの世界の環境にそれほど悩まず適合していったのだな。当時の儂は絶対に元の世界に戻ってやるとの信念だけで動いていたようだ。つまりあまりこう言う言い方は良くないのだが、、障害物は全て排除してやる、必ず生きて住んでいた世界に戻ってやる とそれだけの思いで生きていたような気がする」
「・・つまりは、それはもし障害になる人物が居れば最悪殺人も辞さず と考えて良いのですか」
小田切の質問に太蔵は静かにしかし力強く頷いて肯定した。
「ふふん ある意味当たり前だな。俺だって異世界ではそんな考えをしただろうと思うぜ」
久保田がぶっきらぼうに老師の考えに賛同していた。
「確かに・・環境が人の考えを変える事はある意味仕方のない事でしょうね」
大宮も過酷な環境で生き抜き、そして生還した老師に現代での価値観を押し付けるのは違うと考えていた。
それは職業軍人として歩みだした大宮には一般人とは違う考えが底辺にあると自覚し始めているからかも知れない。
「なぁ 老師。その異世界には今ではまったく興味は無くなったのだろうか?それとも・・」
その質問に一瞬老師の目が険しく光り、直ぐに普段の顔へと戻ると暫しの沈黙後に老師は重い口を開いて答え始めた。




