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【お知らせ.2】
お待たせしています。確定申告もようやく目処がつきました。
早ければ明日以降に再開予定です。宜しくお願いいたします。
太蔵はほぼ二週間で骨も綺麗に元に戻り軽い運動をしながら体調を整えていた。
診察にあたった医師もその超人的な回復にただ感心するしかなかった。
「老師 病み上がりですの無茶は止めてください」
高弟や隊員達も彼の人間離れした回復に驚きと共に現場復帰をしようとする彼を止めにかかった。
「ははは だが体がなまっているのでいるので少しは運動をしないとな」
高齢になればそれだけ回復が遅くはなるが、それでも通常人のそれとは比べられない程の回復である。
「なぁ 老師、その回復力はやはり異世界の力だと思うのだが、ならば当然あの田川と言う男も?」
「うむ 当然彼もその力がある」
高弟二人と宮本の3名が共に顔を見合わせてため息を吐く。
「老師 あの戦いの件ですが、何故に魔石にて魔法を見せたのですか?」
小田切が予てからの疑問を口にする。
「そうよなぁ、先ずは戦いを有利にするためには必要であった事、そして今後の展開にあの魔石が相手にとって足かせになると判断したのよ」
武道の達人とは言え、あまりにものレベル差は正直素の状態で補うには不足していた。
実際あの戦いに於いて猛烈な田川の攻撃に対して、いなしたり隙を見ての攻撃もかなり困難な状態であった、全て武道に於いての長い経験があればこそ、超人的な動きと破壊力を持つ田川に対応できたのだが、いつまでも躱すには限界があった。
「儂がもう少し若い時であればそこそこの戦いに持ち込めたが、技の老獪さはあってもあの速度と破壊力には正直辛い戦いであった。なれど今回の戦いで相手に楔を打ち込むことが出来た、次回の再戦時にはそれが役に立つであろう」
「それは・・魔石と言う切り札を見せる事によってですか?」
「うむ 相手の意識は後1回の魔法乃至は、さらに隠されている可能性のある魔石に対して警戒心に包まれているだろう。今回みたいな無茶な動きに対してセーブがかかるのは当然となる。おそらく今後は儂が持っていると考えている魔石の排除に頭を切り替えるはずだ。その間に此方も相手を追い詰めることも出来るし、一番の収穫は相手の事情が少しは理解できた事よ」
太蔵にとって何故にかの地から田川がこの地へと来たのかが最大の謎であった。
全ては話してくれなかったが、凡その察しは彼の日常生活を聞いて把握できた。
あの性格と日常生活を聞いて、何かしらの失敗によりかの地から追放されたのであろうと推測される。
または田川の逮捕にも似た事情が発生して、止む無くかの地からの脱出になったのだろうと考えた。
彼は居たく太蔵を恨んでいる様であった、だが詳細は完全には分らぬがあの男の性格からいって 逆恨みに近い事ではないかと思える。
どう見てもかの地から正式に太蔵の犯した罪による 逮捕や抹殺命令があったようには思えない。
それであるなら 片道切符による帰還などは考えられない事となる。
最悪 田川の何か起こした事件との相殺とも考えられたが、やはり片道切符では意味がない。
此方に逃げ帰れば何も約束など守らずとも支障がないからだ。
いや・・もしかしてかの地からはある程度自由に特定人物を召喚できるのかとも考えたが。
ならば最初から太蔵を再召喚して逮捕すれば良い事になる、それが現実に今まで起きていないのは其処迄の特定召喚は現実には無理と判断してみた。
「・・それでも彼が再度覚悟を決めて決戦を考えた場合はどうするので?」
「その可能性は十分にあると思っているが、恐らく傷が癒えれば直ぐにとは考えにくい」
その為に魔石と言う布石を太蔵は打っておいたのだ。
「そして此方もまだ最終の手は見せていないからな」
太蔵はにんまりとまだ打てる手はあると微笑む。
太蔵はあの場においてもまだ隠してあった手があるのだと言っている。
その場の3名は一瞬何の事かと考えていた、魔法攻撃以外にこの老師はまだ隠している事があるのかと疑問点を考えていた。
「老師 またC国や隣のK国からの面談希望者が・・・」
「追い払ってくれ、かの国たちとは交渉する気は更々ない」
受付嬢?として嬉々として対応しているアナーシャが了解だと微笑む。
「この所 面談希望の者達がかなり増えてきましたね」
宮本も多少うんざりした顔で老師を見つめる。
「うん 何度追い払っても尋ねてくるわ。しかしここまで情報が筒抜けになるのも困ったものだな」
「赤い国と米国はこの所なりを潜めていますが、また強硬手段の計画中でしょうか」
「ロシアは現在アナーシャによる情報だけに頼ってはいるが、少し不気味だ。米国を始めほかの国はそろそろ痺れが切れる頃かも知れん」
「はい 裏山を中心にかなり防御ラインを追加していますが、場合によっては強硬手段が考えられます」
そんな話をしている時に高弟二人が日課の稽古を終えて、二人が話している部屋に入って来た。
稽古による汗を流したのかすっきりとした顔つきの二人である。
「おっ 二人して悪だくみなのか?」
久保田のとぼけた質問に宮本が苦笑いで答えた。
「いえいえ 近頃は他国が大人しいですが、そろそろ何かが起きるかもと相談していたのですよ」
「特にロシアが大人しくてな、久保田が何かを流していないかと心配しておったのだ」
その言葉に久保田が血相を変えて怒鳴りだす。
「おい 老師正気か?俺が情報を流しているなど、とんでもない言いがかりを・・」
「あら、この前に優しい声で私を口説いていましたよね?」
皆が集合したのを気をきかして部屋にお茶を運んできたアナーシャが嘯く。
「お おい、それと情報の漏洩とは別物だろ・・・」
アナーシャの登場にて、途端に弱気な声になり久保田が隣の小田切に助けを求める顔になる。
「・・俺は知らんぞ、何か裏でこそこそしているのか?」
つれない返事に、皆が必死に笑いを堪えていた。
「もう いいわ!」
すっかり拗ねた久保田は運ばれたお茶をがぶ飲みしていた。
「まぁ 冗談はそこまでで、アナーシャ君の国がすっかり大人しいが、何か理由があるのかな?」
「あら こんな優秀な人物が色々と報告しておりますので、それで満足しているのでは?」
まったく、いけしゃあしゃあと語るアナーシャに太蔵等も言葉を無くす。
「なぁ お前・・かなり根性が曲がっていると思ったが、それに誇大妄想迄加わったのか?」
そんな久保田の言葉に彼女からの冷たい視線を受けて、少し落ち着かない久保田である。
「そ それより、そんなに他国の動行が気になるなら、防御システムの強化を・・」
「あら 先週には特に裏山方面にとうに実行しましたよね?」
宮本の顔が少し強張る、彼女のいない夜間にこっそりと実施したのだが、難なく彼女はその情報を入手していたのだ。
「そ そうなのか?そんな情報をアナーシャに話しても・・・?」
そこまで言って宮本等の顔が強張っている様子から、久保田も事の次第を飲み込めた。
「アナーシャ 恐ろしい子だな・・・」
にこにこ笑いながら彼女は退室していった。
「なぁ 裏山をもう一度確認した方がいいのでは?」
久保田の問いに宮本も素直に頷いて、今夜にも動くことを約束した。
それにしても日中に彼女が裏山に行く事など目にもした事がない、万一動いても隠しカメラによる映像が彼女を捕えている筈だ。
皆の背筋が少し寒くなる、と同時に彼女のスパイとしての腕がそれなりの物だと感心していた。
「確か 彼女は交渉班に属していたと聞いたが、なかなかですね」
小田切が軽いため息と共に、改めて彼女の凄腕に舌をまいていた。




