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田川が暮らして来た当初の二年間を聞いて、ため息を吐く太蔵であった。
「なぁ もう少し詳しく教えてくれないか?その後の残りの・・・」
「8年だ。基本その後5年は前と同じに何も変わってはいない、俺はあの国一番の力を持った魔導士だ。流石に転移魔法は使えぬが、他の攻撃魔法は並みの魔導士を10人同時に相手しても遅れは取らぬ自信がある。恐れる必要があるか? 最悪多人数で襲って来たとしても馬の速度にも負けず走り去る事も可能だ。近くの森に逃げ込み各個撃破すればいいだけだ。違うか?」
「・・ふう、確かにそれは可能ではあろう。しかしそんなふしだらな生活をよく続けられたものだ」
「ふん 他にすることもないしな、酒と女で毎日を愉快に過ごしてきたぞ。それはお前も同じだろう?知っているぞお前があの城を出るときあの女から 特別の許可状を貰った事を。それなりに楽しんだのだろう?」
「・・それは女性に対しての特別な許可状の事か?田川さん残念だがあの許可状は一度も使わずにカバンの奥深くに封印したままだ」
「はぁ?何を考えておる?正気か?せっさくのやりたい放題を封印した?冗談だろ」
「なぁ 田川さん、どうにも理解できないのだが・・たまたま其方の中学時代の卒業アルバムを見る事が出来たのだが、当時の貴方は優しい目をしていた。無論卒業しての期間と召喚されて魔王軍との戦いにおける変化として当然考えられるが、余りにも他の勇者グループと違う目つきに変化していた。
何かあったと推測されるが・・その原因のひとつがもしかして同時召喚された恋人の佐々木 礼子 さんに関わる事なのだろうか?彼女はその後どうなったのだ?」
途端に田川の殺気が部屋中に大きく広がりだす。高弟二人が瞬間に反応して攻撃に備え始める。
太蔵はこれは当たりかなと確信する程の変化が田川に現れた。
「何処で聞いたか知らぬが、軽々しくその名を出すな!殺すぞ!」
いつバトルが始まっても可笑しくない緊張感が部屋中に広がっていた。
それは部屋の外で様子を伺っていた隊員やアナーシャにも感じられるほどの殺気と怒気であった。
「少し落ち着いてくれ、そして儂の質問に答えて欲し・・」
「黙れと言っておる!!」
太蔵の質問には答えるつもりは無い様に思われる、只ひたすらに血走った目で太蔵を睨みつける田川である。
長い睨み合いが続き、田川がようやく口を開く。
「少しお前と話しすぎたようだ・・決着をつけるぞ、外に出ろ」
これ以上の話し合いは無理と太蔵も判断する。
「・・ならば死合いを希望とな」
「応!」 それに田川が答える。
二人は用心しながらそろりと立ち上がる、高弟二人が機転をきかせて部屋のドアを開けて事の成り行きを見つめていた。
先に田川がゆっくりと動き始める、途端にドアの外にいた者達がドアの入り口から離れて遠巻きに出てくる二人を見つめていた。
「ふん お前等を一斉に相手をしてもいいんだぞ」
ドアの外にいる隊員たちを一瞥して田川はうそぶいていた。
それに反応して隊員たちが動こうとしたが、後から出てきた太蔵が目で止める。
「ふん 先に行くぞ」
玄関で靴を用心深く履いて、ゆっくりと太蔵を見ながら表へと動き出す。
「君達は手を出さぬように・・」
いきり立つ隊員に太蔵は微かに笑いながら念を押す。
なれど一人だけこの場に居ない事は流石の太蔵も気がつかなかった、そしてその隊員が大宮が信頼する飯島二曹である事にも・・。
彼はいつの間にか裏山に誰にも気づかれぬように一人待機していた。
伏せ撃ち姿勢にてその両手には愛用の射撃銃と共に。
彼はいつの間に着替えたのか迷彩服を着こみ、草むらの中で息を潜めていた。
田川に遅れて太蔵もゆっくりと彼を追って動き出した。
更に太蔵を追って他の皆が外へと飛び出す。二人の決着を確認する為に・・・
なれど二人以外は玄関から数メートルの位置にて皆が止まり、ただ二人を見つめているだけであった。
ほぼ庭の中央部にて二人は5メートルほどの距離を開けて睨み合う。
「おい 太蔵、お前のレベルは幾つなんだ?因みに俺は76だぞ」
「儂は47前後だと思うが・・」
「・・そんなレベルで本当に俺に勝てるつもりか?確かにお前は武道を習得しており、俺は素の状態だ。なれど近接するレベル同士なら別だが、俺とのレベル差がかけ離れている。武道の達人でも埋めようが無いレベル差だぞ?」
「・・嫌だと言ったら死合いを中止してくれるのかな?」
太蔵は苦笑いしながら尋ねる。
「・・無理だな、俺はお前を殺すのを楽しみにあの世界から逃げて来たんだ」
「なぁ 先ほどの話だが、あんたが監視下に置かれていたのは理解するが、それが何故にあの世界から逃げ出して儂を倒すことにつながるんだ?」
「うん? 話さなかったか・・話が違う方に流れたからな、今更面倒だ 俺を倒したら全て教えてやる」
掛かってこいと 太蔵に向かい大声で挑発する。
「なぁ 最後にひとついいか?この死合いにて儂に勝ったとして、その後はどうするのだ?再びあの世界に戻る手段があるのか?それとも・・」
「あの世界に戻っても仕方あるまい、そしてこの世界にも俺は馴染まぬ」
「・・それは つまり、、」
そうか、、この男は死にたがっているのだな。
何故だか分らぬが 田川は死ぬことを最終目的としている 太蔵は何となく理解した気持ちに襲われた。
それが正解か否か 戦った後にしか結論は出てきそうにも無いと判断する。
ならば 全力だな・・
当然半端な気持ちで勝てる相手ではない、持てる力を全て出し切り 6 4か・・。
少し部が悪いが 儂には隠し玉がある。まぁ それでも5 5の勝負であろう。
突然二つの影が揺らいで重なり合い、そして両方が別々に弾けとんだ。
「うぐっ」
「くうっっ」
「何?何が起きたの?誰か説明して!」
アナーシャが説明を求めて叫んだが、誰もそれに答えられる者がいない。
「ねぇ 久保田、貴方から分かるでしょう?説明して!」
「・・無理を言うな、俺が理解できたのは老師が最低7回の蹴りとパンチを出して、相手が更にその上の数の攻撃を行い・・そうだな、老師の有効打が2発 相手の有効打1と言う所かな?」
そう言って小田切の方を向いて自分の見立てが合っているかと言う顔をする。
「いや、、老師の有効打3 相手が2と見たが?」
ううーむ、、二人は呻き合う。 高弟の2人でも正確にはわからぬ攻防戦があった模様だ。
ただ二人に理解できたのは老師が相手の攻撃を上手く躱したりいなしてからの攻撃を当てたと言う事だ。
「とんでもない速さだ、、あんな攻撃速度の老師は初めて見る」
「・・逆を言うと あれほどの全力でも相手に上手く当たっていないと言う事実だぜ」
そんな事実を互いに認め合い、再び二人は唸り始める。
そして再び影が揺らいでぶつかり合い、激しく左右に弾け飛ぶ。
「・・老師が4に相手が2か?」
「そうなの?老師が優勢なの?」
「うーん 当てた数ならばな・・」
「どういう意味?老師が優勢なのでしょ?」
「「・・・・・」」
「どうなの久保田?はっきり聞かせて!」
「・・何となくだが、相手の攻撃の方が破壊力がありそうなのだ」
「はぁ はぁ やるじゃないか、伊達に年はとってないと言う事か?」
「ふぅ ふぅ 流石レベル76と褒めるべきか?10年近く遊びまくっていてもその威力か・・少し自信を無くしそうだ」
「ふふふ 次行くぞ!」
「応!」
三度目のぶつかりが始まる。
「「・・老師が4で相手も4か! 不味い!」」
高弟の二人が悲鳴に近い声を張り上げる。
「何が不味いの? 今は互角なのでしょう?」
「先ほども言っただろう、一発の重みが違うんだ。恐らくレベル差が影響している」
それが証拠に互いの攻撃が終わり別れた二人の片方が、片膝を着いて沈み込んだ。
「「老師!!」」
思わず高弟の二人が大声で叫び声を発した。




