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その男 異世界帰り   作者: 西南の風
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太蔵を殺しに来たと断言した田川に高弟二人が反応した。

それを太蔵が手で制して言葉を投げかける。


「物騒なお言葉ですな、もう少し理由を聞かせて欲しいのですが」


「・・何をとぼけた事を、お前があの世界で何をしたのか忘れたのか!」


「それは・・皇女の件ですか?」


「当たり前だ!あの件で全てがぶち壊しだ!」


田川がさらに怒気も殺気も強まり始めた。


「アレに関しては言い訳はしませんが・・無理やりの召喚による同胞たちの怨みを晴らさんと、、」


「馬鹿野郎!やり方がまずかったんだよ!何故に一思いにあの()を殺さなかった?」


やはりそれが問題点か・・その点は太蔵も悩んだが、後に残る岡田氏等や勇者グループのその後を考え敢えてそこまでの勇気が当時の太蔵には無かった。


「けっ ひよっこが!甘 甘の小僧が!恐らく後に残る俺達の事を考えてあんな中途半端な仕事をしたんだろう? それは了見違いも甚だしい!」


田川は太蔵の犯した事を否定し始める。

一見すると年下に見える田川が70手前になる老師を 小僧と叱っている。

何んとも言えぬ違和感が高弟二人にも感じられていた。


「いいか?お前のその中途半端な考えの為に残された俺達がどれだけ苦労したか理解しているのか?」


その点に関してはこの世界に帰還した後も常に太蔵の心に深く残っていた懸念事項でもあった。


「確かに後先を当時よく考えずに、一時の怒りで残された勇者グループや田嶋氏等に迷惑を・・」


「田嶋?」


途端に寒々とした空気が室内に流れ始める。

田川の雰囲気が室内に冷めた空気が漂よい始めたのだ。


「田嶋か・・田嶋と岡田は死んだ」


「何と?それは事実ですか?」


太蔵はあの世界に残った彼等の一番懸念していた事を、あっさりと田川は否定した。


「お前な あの女があれほどの自尊心を汚されたことは過去になかった事件だ。あの女が黙ってあの恥辱を受け入れて大人しく引き下がったと思うか?」


「・・それは」


帰還して暫くしてから一番の太蔵の心の隅に引っかかっていた事項でもある。

証拠は残したつもりでは無かったが、追及の手が田嶋さん等に伸びぬかと心配していた。

なれど此方の世界にいては情報が入るわけではなく、常に何かある度に心を痛めていたのだ。


「・・何故に田嶋さん等が死んだのだ?」


「お前のせいだよ!」


田川から恐れていた一声が発せられ、太蔵は黙り込む。


「小僧が起こした事件は翌日から犯人捜しを国を挙げて開始されたんだよ。当初は転移魔法の使い手を徹底的に洗い直された。何故と言うと逃げ場のない寝室から姿が消えた事と翌日あった近場の森からのとんでもない光の渦の目撃の調査で俺も捜索隊に入れ込まれたんだ。そしてその現場で見つけたこの魔法陣だ!」


田川は懐から一枚の洋皮を太蔵の前に投げ捨てた。


「・・これは、、、」


「どうだ 懐かしいか?」


その洋皮には太蔵があの世界で最後に使用した転移魔法の魔法陣が書き込まれていた。


「お前 最後で詰めを誤ったな?」


そうか・・あの時は確率は半分半分の瀬戸際であった、次回に備えて魔法陣が書かれたこの洋皮を回収する気などなかったのだ。


「それでも一応数か月をかけて国中の転移魔法の該当者を見つける事から始まったのさ、その結果新たに転移魔法の使い手が国中で3名見つかったがどれも半端な魔力量で宮中深くまでは転移は出来ぬのと当時のアリバイを徹底的に調べられ白と判断されたんだ。ならばとその残された魔法陣から転移能力スキルの無い者が当事者として認定され、詳しく調査が再開されたんだ。

あの現場に残っていた使用済みの膨大な魔石量から判断して犯人は恐ろしく遠くまで逃げ去った。つまり地球へと元の世界へと逃げた男を探せばいい。その結果該当者はお前しかいないと判断されたんだよ。

なんせ他の日本人は皆その所在が確認されているからな」


成る程・・迂闊だった。何故にこの洋皮をあの時握りしめて帰国しなかったのかと悔やまれる。


「だが、それと田嶋氏等の死亡とどう繋がるのだ?」


「馬鹿か?お前だろう事件が起きる数日前にあの女の付き人の部屋に従者として田嶋に同行したのは?」


徹底した宮中捜査も行われ、お側用人の訪問者に関しても取り調べられて何処の誰が訪問したのかも調べの対象になっていた。


「確か転移魔法は一度はその場所に訪問して正確に地形等を把握しなければ、とんでもない事が起こる可能性がある魔法だからな」


「・・つまり田嶋さん等が逮捕されて取り調べを?」


「そうだ!すべてはお前が原因だ。田嶋等に行われた取り調べはそれは惨い取り調べであったぞ。まるで中世のヨーロッパで起きた魔女狩りに匹敵する惨い拷問だ。可哀そうにあの二人は手足の指を切り落とされる拷問から始まり最終的には両手が無くなり片足もじわじわと切り裂かれていっそ死んだほうが楽と思える程のいたぶりだ。それでも彼等はお前の名を明かさなかったぞ。

結果的には強力な自白剤を飲まされて夢うつつの状態で自白したんだがな。そんな薬があれば最初から飲ませればいいのにと正直俺はそう思ったよ。全てはあの女の差し金だ。なるべくいたぶって恨みを晴らそうとしたんだろう」


「・・お二人の最後は」


「・・広場に引き出され、まだ意識がある中での群衆が集められて見世物としての火炙りよ。ちなみに彼等を逮捕に向かったのも俺だ」


「そうですか・・痛ましい最後だったんですね」


「分かったか?お前の仕出かした後始末がどれだけ高くついたのかが?」


「・・・・・・」


それに対して何も答えずに少し俯きながら黙とうを捧げていた太蔵である。


「ふん だんまりか、まぁお陰で俺は捜査協力のご褒美として領地持ちの子爵となったのだがな」


・・・うん?領地持ちに?それは昇進だよな すると、、。


「なぁ 田川さん、只の子爵ではなく領地持ちとなれば、それこそ望んだ暮らしが手に入ったのに、何故に儂を追いかけてきた?あの女の命令か?」


「馬鹿な・・あの女はその後勇者の石和とそれなりに楽しく暮らして居るわ。俺はお前のお陰で全てを亡くして逃げ帰って来たんだよ」


 ・・・意味が分らぬが? あの女の命令で無ければ何故に希望した生活から逃げ出したのだ?それも太蔵のせいだと言う。


「ふん 意味が分らぬと言う顔をしているな。新生活は全て監視付きの元に始まったのよ」


つまり前回の事件に懲りて新参者の勇者一行は、国から各派遣された内偵者が常に数人監視に付く事態となった。

当初数年はそれに気づかず楽しく気ままに自由に暮らしていたが、ふとしたことから自分の屋敷内には内通者が何人もいる事に気づいた。


一般の事務官や下女達が常に田川の行動を監視して定期的に報告書があの女の元に届けられていた。

ある日下女達の部屋で女性をいたぶり気を失ったのを区切りとして、他の女性の部屋に行こうとした時に小さな机の引き出しに紙のかけらが挟まっていたのを見つけた。


ふと思いつけばノックもなくこの部屋に入った時に、この女は何か慌てて仕舞いこんだと思い出した。何の気もなく机の引き出しを引いて見ると手紙らしき文の途中まで書き込まれていたものと理解した。


下女が文字を書く?この世界に於いて下女クラスは殆ど文字など理解していない。

何やら興味が湧いてその手紙を読み始めて驚いた。


この一週間の田川のやりたい放題の堕落した生活を赤裸々に書き記してあった。

この一週間と言う事は今までの暮らしぶりも全て誰かに報告されていると判断するのに時間はかからなかった。


あて先は書いていないが予想はついた。

この女は宮廷から他の者達と一緒に派遣されてきた、するとこの報告書らしき物の最終的行先は?

あの女しかあるまい、当然この女だけが内偵者とは限らない。

そうか最初から俺は監視下に置かれていたと理解した。

そう考えると思い当たる節が何点か今更に思い浮かぶ。


「それが俺が赴任して2年過ぎた辺りの出来事だ」


「なぁ 田川さんは領主だろう?その話を聞くと少し行いが疑われるぞ」


「ふん 領主の教育などは受けてもいないし興味もない。あの悪夢のような魔王軍の戦いから解放されたのだぞ、好き勝手やって何が悪い? 感謝されても非難などはされようもないわ」


「・・気持ちは分かるが、人として 領主としてどうなんだ?かなり問題だらけのような気がする」


「お前になぞに言われたくもないわ。俺達が居なければあの国は亡びた可能性もあったのだぞ」


これは話が通じないと太蔵は深いため息を吐いた。


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