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本年もよろしくです
「所でお話は例の異世界からの訪問者の件なのです」
途端に辺りの空気がピーンと張り詰める。
「ほう やはりその案件ですか・・・」
太蔵は半分そうでなければいいと考えていたが、倉田から漂う雰囲気はやはり心配していたケースになりそうだと判断した。
「某県警の捜査官にそれとなく情報を流しました所、面白い案件が出てまいりました。田川と言う苗字での過去失踪者は3名いましたが、流石に50年程前となりますと1名だけ対象者がおりました。田川 誠 当時26歳で恋人と二人が疾走しました。それだけ聞くと単なる色恋沙汰の失踪と考えられますが、実は失踪当時に3名の仲の良い者達が一緒でした、その残された一人が証言した事は突然の光が二人を包み眩しくて暫く目が開けられずに、ようやくその光が収まったら光の中にいた筈の二人が消えてしまったと・・。当時の県警はかなりこの残された者をマークして追及したそうです。彼女の名は 鬼島 夕子と言い、誰かからの通報でこの彼女は田川氏に惚れていたようだとの内容を受けて、三角関係のもつれから二人を殺害した可能性があると考えたようです。
当然厳しい取り調べが当時あった様子ですが、肝心の死体が出てきません。女一人での細腕で二人を殺める事はほぼ無理と判断され一旦釈放になりましたが、しつこい警察のマーク及び無責任な風評被害にあい、彼女はノイローゼ状態になり、ある日突発的に家を出ると走っているトラックに飛び込み自殺を行い、治療の甲斐もなく亡くなったそうです」
・・成る程、単なる失踪事件だけでなく、第三者の犠牲までも加わる痛ましい事件か・・・。
なれど 田川 誠が話の前後から間違えなく異世界に送り込まれた人物に間違えない。
もう一人の恋人の生存が気にかかる点ではあるが・・。
「・・その田川 誠なる人物の写真等は無いのでしょうか?」
「はい 中学時代の卒業アルバムが入手されまして、写真を拡大してあります」
封筒に入っている写真を太蔵の前に置く、それを受け取り中身を出して見る。
元の写真の劣化もあり拡大された顔はどこか異世界の田川とは違う気がする、そうか目が優しいのだ。
異世界にて太蔵に絡んで来た時の目つきとは違うと思いつく。
それは最もだ、この写真の人物は当時15歳で失踪時は26歳、社会での荒波に揉まれ、極めつけは異世界での生死に関わる戦いにより優しい目も変貌して当たり前であろうと考えつく。
顔の輪郭や顎の張った辺りは異世界で会った人物にそっくりと断言してよい。
「・・目つきがかなり変わっておりますが、顔の輪郭や顎はこの写真と同じです。同一人物だと思われます」
絶対だとは断言できぬが、自分の知る異世界での田川氏と良く似ていると・・今一つ断言できぬのは実際に遭ったのは一度であり、それも数十年前の話であるからだ。
「おお それで結構です、目つきがかなり鋭くなった点がポイントですな?さっそく県警に連絡しておきましょう。捜査がかなり進展すると思われますので手柄を内通者が立てられるかも知れません」
何となく倉田も納得したように頷いていたが、ふと・・・。
「もう一つ報告を忘れていました。実はもしかして今回この田川が地域暴力団に匿われているとするなら、偶然の一致かも知れませんが某暴力団のトップが先ほど出てきた鬼島 夕子の弟にあたる人物なのです」
自殺した 鬼島 夕子の弟が地域暴力団のトップ?
これはどの様に考えるべきか、たまたまの偶然かそれとも二人は元から知り合いなのか?
どちらにせよその暴力団と田川の結びつきはかなり強固なものと考えなくてはならない。
共に打算での付き合いからは大きく外れる事になる。
当初太蔵は現代社会に戻って来た田川氏が身を隠す場所としてこの組織を選んだのだと思っていた。
あまりの現社会の変わり様に困った田川がその超人的な体を利用して効率的に金や情報を集める為に裏社会の組織に近づいたと思っていた。
これが田嶋氏や岡田氏ならばもっと地道にこの世界の時代に適応していく筈だ、こんな騒ぎの中心的存在になどはならないだろうと思われる。
それにしても何故に田川氏はこの世界に舞い戻って来たのか?
皆は皇女からの依頼と考えていたが、太蔵はそうは思わない。
良くも悪くも一方通行の転移などリスクが高すぎる。
皇女の依頼としても子爵たる彼が派遣されるとは可笑しい・・何か別の理由があって・・逃げ出した?
そう考えると何かしっくり来る、理由は不明だが異世界に居場所がなくなり自分と同じ転移魔法にてあの世界からの脱出なのか?
そうだとするなら自分とは関りがない筈だ、つまり自分を尋ねてくる理由もない。
彼はこのまま裏社会にて生きていく事になるだけではないか?
兎に角一度会うことが可能ならばそこらの訳を聞いてみなければと思う。
異世界での力はかなり問題になる、出来れば真っ当な生活にて暮らして欲しいのだ。
彼の力はあまりに強すぎる、このままでは情報を掴んだ各国から狙われる事にもなる。
彼の力を良くない方面に使われると非常に厄介な事になるだろう。静かな余生を送れる環境に住ませてあげたい と考え始める。
アナーシャは応接間に座り静かに表の風景を見ている来訪者に戸惑っていた。
彼女が車にて山を登っている彼を途中で拾って乗せてきたのだ。
彼女自身は何となく彼とは関わりたくはなかったが、行く先は道場しかなく私道でもある為に歩く彼に一応目的先を尋ねるとやはり道場に向かうとの事。
ならば乗っていかないかと尋ねると、一瞬何かを探る目になり彼女を見ていたが 静かに頷くと後部ドアを開けて乗り込んだ。
ほんの短い会話中であっても彼からの圧力は凄まじいものがあった。
訓練を受けている彼女でも思わず身震いが出そうな暗く深い気の流れを受けていた。
道場に着くまでの少しの間でも冷汗が背中に流れるのが感じられた。
本来は彼と二人になりたくは無かったが、向かう先が道場しかなければ相手を知る為に無理に言葉をかけてみたのだ。
何が目的かは知らないが予測した通り決して平和的な会話の為の訪問とは思えなかった。
ならば職業柄か相手の動向を知りたいと、あえて彼との会話を選択したに過ぎない。
なれど彼女の努力は無駄になる、寡黙な彼は彼女の問いかけにも最低限の言葉で返すだけで、益々その不気味さに恐怖を感じていた。
短いドライブは直ぐに終わり、彼女の運転する車は道場へと到着する。
当主の太蔵は不在であり、後数時間は帰ってこないと伝えると 彼は頷き待つと言う。
ならばと応接間にて待機してもらう事になり案内したのだ。
道場から出てきて対応に当たった飯島ニ曹も直ぐに、アナーシャが連れてきた男の異常さに気がついて警戒していた。
アナーシャの説明にて彼は直ぐに事の重大さを感じていたのだ、無論前もって大宮三尉から耳打ちされた一件を思い出していたのだ。
すぐさま用心をしながらも態度に極力出さぬように対応しながら、応接室に案内して退席したアナーシャを捕まえて更に細かい話を聞く。
そのころには他の隊員も異常さに気づき飯島の元に集まっていた。
彼女にしても彼の訪問理由が不明であり、最終的に飯島等に 恐ろしい男 十分な警戒が必要 至急に太蔵との連絡が必要くらいの内容しか聞けなかったが、今の飯島にとってそれで必要且つ十分な内容であった。
彼等は直ぐに第一警戒態勢に各自がなにげなくしかも手早く移っていく様を、お茶の準備をしているアナーシャにもひしひしと感じられていた。
突然の連絡が太蔵達を送る為にて運転している大宮に入ったのは、それらの対応に入る飯島からの至急連絡であった。




