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太蔵は心当たりに付いてその名を上げる。
「老師、その心当たりの人物についてお聞かせ下さい」
大宮としてはとんでもない情報が入って来た事になる。
太蔵と同レベルか その上の人物らしい、場合によっては困った事がこの日本で起こる可能性があるのだ。
味方になれば良いが、敵に回られるとかなり厄介な存在となる筈だ。
今後の対応を至急検討しなければならない。
太蔵はぼつぼつと昔話を語り始める。
「そもそもその人物とは城を出ていく直前に一度会っただけなのだが・・」
「「「何ですと? 異世界の皇女に牛豚の糞尿をかけて逃げてきたと???」」」
田川氏の人柄やその情報を皆に話し終えた後に、小田切がかねてから疑問であった異世界からの逃避について詳しく説明を求められ、当初は何故か話したがらない太蔵はしつこくその理由を尋ねられ渋々と顛末について話し出す。
当然第一の理由は異世界にあまり馴染めずに元の世界に戻りたかったのが理由だが、太蔵の話に何かを感じて小田切がしつこく理由を尋ねられぼそぼそと語り始めた。
「・・まぁ 若気の至りと思ってもらえれば」
「何が 若気の至り だ、それが原因で今回の顛末だ」
「・・う うむ 確かに・・」
太蔵にとってあの世界に無理やり召喚されて、あの地にて無念にも亡くなった同胞への鎮魂の思いもあり行動に移した事ではあったが、この世界に帰ってきて少し心配している事がある。
あの地に残った田嶋氏や岡田氏等への何かしらの追及がなかったかと言う事だ。
あの当時は若さ上の一途からあのような手段にて行動に出たが、残っている彼等に疑いの追及の手が伸びたのではないかと思いつく。
あの田川氏には太蔵が田嶋氏等とかなり仲が良いと思われていた筈だし、一国の皇女に糞尿をかけてそのまま終わる筈など無いと思いついたのだが、肝心の自分は元の世界に戻りつきその後の顛末等を確認する術もなく密かに心を痛めていた。
「・・老師 一国の皇女にそんな事をして犯人捜しをしないと思いますか?」
「・・その点は儂も深く反省を」
高弟二人による説教になりそうだ。
珍しく塩らしい太蔵の様子を皆が呆れながらも楽しんでいる気配がある。
「・・思い切って一思いに殺した方が後腐れがなかったかな」
ふいに太蔵は目に力がこもり自分の中途半端を悔やみだす。
高弟二人と大宮氏が深いため息を吐く。
「聞けばその田川氏は子爵位をもらい、本来なら優雅にその世界で暮らしている筈ですよね?それが舞い戻って来た理由を考えれば・・やはりその皇女の一件が絡んでいると考えるべきでは?」
大宮氏も何かしらその一件絡みが今回の事件の裏にありそうだと思いつく。
正確な理由は本人に確認するしかないが、太蔵が異世界にてしでかした件を考えると何となく今回の事件の裏が見えてきたのだ。
「・・それで老師、もし今回の事件が田川氏としたなら彼の実力はどの位ですか?」
「・・それよ だが正確には知らぬのだが、最終戦を生き延びた男だ。最低でもレベル75はあるだろうと考えられるな」
レベル75?聞きなれぬ言葉に皆が説明をこう。レベルとそれがもたらす体力の変化を説明し始める。
「な 何ですと? つまり・・常人の約8.5倍近い体力と反射速度を?」
3名は完全に呆けて絶句していた、当然であろうこの太蔵でさえ手に負えぬ存在なのにさらにその上を行く人物が現れた事になる。
「彼でない事を望むが、大宮氏が言う監視カメラの人物像から推測するならほぼ間違えないかと・・」
「・・ちなみに 老師はそのレベルは幾つなので?」
「儂は47レベル前後しかない」
この世界に戻って来てからもそれなりの修行に明け暮れて体力もつけたつもりだが、高齢になりその体力も若い頃に比べて落ちている。反対に田川はまだ若く体力の低下などは左程考えられぬだろう。
戦えばどう見ても結果は見えている気がする。
「老師 で勝ち目はあるのか?」
久保田がそろりと尋ねる。
「うむ レベルも違う 若さも違う、常識的には勝ち目は無いが・・」
「・・が?」
「二つばかり此方にも利がある、一つは彼は魔導士だ」
「「「魔導士?」」」
黒魔術を巧みに使い敵と戦って来たと聞いている、この世界では基本魔術は使えない、ならば純粋な体力勝負となる、彼は基本ベースは召喚時の体力となる。
太蔵は過去何十年に渡り訓練を続けてきた、基本ベースとなる体力値に違いがある。
まして太蔵は武道家である、素手での戦いには利があると見る。
なれど高齢の負い目がついて来る。
・・よくて5分 いや6 4で向こうが有利か。
「・・もう一つは何なのですか?」
「・・秘密だ」
太蔵はにっこりと笑い出す。
3名はそんな太蔵を見て、少し落ち着きを取り戻す。
老師に何か策があると感じたのであろう、なれど太蔵にとってはどう転ぶかは正しく 勝負は時の運 にかかっていると思っていた。
「けっ、この場においてまだ隠し事か?老師この際に全部白状しなさいな」
久保田は不満げな態度で太蔵に憎まれ口で詰め寄る。
それに対して太蔵は只笑っているだけだ、何も返事がない。
「それにしても老師のレベル47とは・・つまり通常の約6倍の力が、、、」
「それよ けっ、どうりでその歳で強い筈だ。バケモノだな・・」
小田切と久保田が互いに顔を見合わせて呆れかえっていた。
「済みません 少し中座して本部に田川氏の情報を伝えます」
大宮は席を外して連絡へと向かう。
「なぁ 老師、本当に勝てるんだろうな?」
小声で久保田は太蔵を覗き込んで問いかける。
「何だ、心配してくれているのか?」
「そ それは一応俺の師匠だし、それに長い付き合いだから・・」
「・・有難うな 負けぬように頑張るつもりだ」
二人のやり取りを小田切も苦笑しながら聞いていた。
「なれど老師、今回の異世界からの訪問者が師匠の過去にしでかした不祥事の後始末として考えても、その後どうするつもりなのでしょうか?」
「どうするとは? そりゃ報復なり逮捕して・・あれ?その後はどうするんだろう?」
「ふむ 先ほどから儂もその点が気になっていた、恐らく命令によりこの地に向かったのだろうが事が成した後はどうするのかと・・」
「・・その召喚魔法は彼も使えるのですか?」
「いや・・恐らく使用できぬはずだ、それにこの地では魔法が発動しないからな」
この地での魔法は太蔵がそれこそ50年追い求め開発できたものだ。
田川氏が簡単には再現できぬと考えるべきだ、ならばどうやって元の世界に戻る?
正か一方通行で帰還した?
今迄の貴族暮らしを捨ててまでする事か?
それとも自分が知らぬ特殊な方法があって元の世界に戻れるのか・・
「うーん 疑問が残るな、全て本人に確認しなければ・・」
「・・まぁ やっかいな敵が現れた事には間違いないな」
「久保田もそう思うか? 思い切って武器で倒すか?」
武道家の太蔵が居る前でぬけぬけと話し出す小田切だ。
「おい お前にしては過激な発言だな?心配するぜ」
「はは・・無論半分冗談だが、場合によっては大宮さんに協力を願うのも一手だ」
師匠が勝てるならそれで良いが、もし敗れた場合の処置も考えねばならない。
少し緊張した空気が部屋中に流れ始める。
「その気持ちは有難いが、今まで武道家として生きてきた。最後はそれを誇りとして死にたいからな」
太蔵は高弟達にもしかの時の事を話し出す。




