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太蔵によって発見された魔素はこの一年近くでかなり実用化へと向かい始めていた。
無論当初は従来の火薬に混入させることで武器性能が大幅に向上する、比較的に取り組みやすい分野からの改良品であった。
それが燃料系に結晶を混ぜ込む事により、航空機や戦車等の最大速度や航続距離のアップにも有効と検討され始め、最近は魔法弾による高速エネルギーに着目して、防空システムへの取り組みに懸命に開発が進んでいたが、何処からとなく他国の情報機関による活動に懸命に国としても対応していた。
なれどスパイ天国と名高いこの国においてはある程度の情報漏れがあるのは残念ではあるが、現実に起っていた。
ならばその窓口を一手に引き受けるとばかりに太蔵は矢面に立ち、各国の情報部員がこの道場へとコンタクトを取り始めていた。
全てはこの国が新武器開発までの時間稼ぎである。
中には礼を知らぬ国家の訪問があったが、つれなく追い返されそれに逆恨みされ放火・誘拐未遂のケースも正直経験したが、全て太蔵達は対処して然るべき機関に引き渡していた。
姑息なのはその国の組織が表立っての行動ではなく、金で雇われた一般人やその国の在日組織が裏で動いており、それを命じたと思う国の交渉者は知らぬ顔でまた訪問する厚顔ぶりである。
流石に腹に据えて太蔵から二度と訪問を禁止された国が数か所もあった。
そして今日も断られ続けての半分嫌がらせなのか、米国系と思われる道場やぶりが3名訪問していた。
どう見ても無言圧力や嫌がらせ行為に近い。
一応道場を構えている手前、そんな連中にも嫌な顔をせずに、どちらかと言えば太蔵の二人の高弟は喜んで対応して普段の修行の結果を存分に披露した。
「物足りんな・・スキルを発動するまでもなかったな」
高弟達は相手が反則ぎりぎりの攻撃にも余裕で対応していた、太蔵により散々扱かれた高弟二人は素の状態でも一味違う動きで制圧する事が可能なレベルに達していた。
「へへ つまらん相手しか来なくて退屈だぜ」
そんな高弟二人に太蔵は慢心するなと常日頃諌めている。
其のうえで万一に備え、太蔵は本来は一子相伝の奥義の中から一つ 二つと彼等に伝えていく。
命に関わる場合には遠慮なく使えと教え込んでいく。
今後場合によってはそんなケースに遭遇する可能性が高いと踏んでいたのだ。
相手にとってこの場所は知られている、どんな手で今後動いてくるかは不明である。
正面からは一本道だが、可能性は裏の山沿いから侵入してくるケースが高い。
かなり遠回りしての襲撃も当然計算には入っている。
大宮氏の協力の元、侵入されると思われる経路には隠しカメラと警報システムを設置してあるが、相手もプロのケースが考えられる、新武器の目処がつくこの最低半年は耐えねばならないと考えていた。
赤い警報ランプが夜間に突然点滅した、当番の自衛隊員の顔が緊張した。
裏庭の奥の一番遠い地点で異常を示す何かが発生した。
時間的にはまだ余裕があると判断した隊員が、隣で仮寝している他の隊員を起こし事態を説明する。
その隊員はすぐさま上司である、大宮三尉と連絡をとり指示を受ける。
その間第一発見者の隊員がカメラ捜査にてその異常の元を探していた、これまでも猪や鹿の進入にて反応したことが何回かある、距離的にそろそろ何台かの夜間カメラに映し出される頃である。
もう一人の隊員が大宮三尉からの指示を伝え、高弟二人の部屋に走る。
太蔵はそれなりに高齢だ、出来るだけ起こさずに対応するのがこれまでの流れになっている。
先ずは高弟二人に連絡して最悪に備えていく。
「いかん 敵だ!」
そこには迷彩服に身を包んだ4・5名の銃を構えた集団が周りを伺いながら近寄って来た。
監視していた隊員は迷わず非常ボタンを押そうとした時に、高弟二人から止められた。
「まて 俺達が行く」
小田切と久保田が頷きながら画面から場所確認を終えると静かに部屋から出ていく。
他の隊員達も皆起きて服を着替え、武器の確認作業に移っていた。
みな寡黙にて打ち合わせ通りに動き始める。
監視カメラの道場に一番近いカメラにもの凄い速度で山に踏み分けていく高弟二人の姿が映り、直ぐにカメラの範囲から消え去る。
なんだ あの速度は・・カメラの映像を見ていた隊員は思わず唸りだす。
その間に用意が出来た二人が裏山にとりつき、応戦体制の準備を行う。
一人が太蔵の部屋の前にて万一に備えていた。
最後の一人が皆とは反対に表に移動して、正面からの異常に備える。
カメラ映像を見ている隊員が敵の動きを刻いち補聴器型の極小レシーバを持つ隊員へ伝えていく。
・・了解 ・・了解・・・次々に隊員達から確認の返答が短く届いていた。
あのお二人は何処に潜んで・・?
敵はもうこの道場の百メートル以内に入り込んでいた。
・・暗視ゴーグルだな 馬鹿め
敵の頭部に設置されている道具を確認すると、その隊員はスイッチを入れる。
突然眩しい光が何本も裏山に向けて投光された。
ぐあっ
ぐうっ・・・
暗視ゴーグルの限度を超えた投光器による照射に目が眩み、慌ててゴーグルのスイッチを切ろうとしたり、外そうとする光景が写し出された瞬間。
二人の敵が地面に倒れ込んだ、それに気づいた他の三人が敵からの攻撃と判断して銃を構え直した時にさらに二人が短い悲鳴と共に倒れ込む、4名がほぼ一瞬で戦闘能力が無くなる。
最後の一人が瞬間的に来た道を引き返そうと背を向けた時に、何かに当たった様子で前のめりなり倒れ込み動かなくなる。
敵 制圧完了! 前面二人は敵の拘束にかかれ!
レシーバーに指示が入り、裏庭にて応戦体制であった二人が立ち上がり、用心しながら山の中へ足早に入り込んだ。
「ふむ お見事だな・・」
いつの間にか太蔵が護衛の隊員と二人でモニターを見ながら嬉しそうに呟いていた。
「これは 老師、起こして申し訳ありません。それにあれは私共の隊員ではなく高弟のお二人による制圧です。お見事としか言いようがありません」
モニターには隊員が到着するより早く二人の高弟が左右から倒れた敵に近づく様子が写し出されていた。
「ふむふむ 指弾による初制圧かな?」
敵の武器を取り上げている高弟二人に遅れて自衛隊員も現場に到着した。
テレビカメラに向かい久保田が片手で親指を上げて微笑んでいた。
「まったく・・ポーズなどつけなくとも、、、」
太蔵は少しお冠の様子であった。
道場に急ぎ向かう一台の車のヘッドライトが山道を照らしていた。
大宮が運転する車であった。
捕えられた5名は完全黙秘を通している、装備品は各国バラバラにて一見すると何処の軍隊か判別できない装備品であったが、白人系3名黒人系2名のパーティである。
無理に喋らなくとも結構と太蔵は興味なさそうに軽い欠伸をする。
到着した大宮が何処やら電話連絡を終えて報告を太蔵に行う。
「今 基地より引き取りに向かっています」
警察ではなく 自衛隊が動いた、その行動に太蔵は満足気に頷くと 後は宜しくと自分の部屋に戻っていく。
高弟二人が楽しそうに語っていた。
スキル発動にての指弾攻撃はかなり危険だな・・。
へへ 結構手加減したがあの威力だからな。
初めての指弾による人間への対応に二人は色々と思う事があるようだった。
暗い山道を何台かのかなり堅牢な迷彩車が昇ってくるのが確認された。
隊員たちがその出迎えの準備に入り始める。




