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女は濃艶な微笑みを浮かべ語り始めた。
「我が祖国は太蔵様一行を国賓に準ずる対応にてお迎えしたいと申しています」
ほう、国賓対応に準ずるとな、、、。
「済まぬが年を取るとまどろっこいのが苦手でな、実際にどの様な待遇を考えているのか教えてはくれまいか?」
「ふふふ、およそ考えられる事は全てとご理解ください。当然お金 地位 女・・・に関しては当たり前と思って頂ければ、、」
「・・・ほう、それはそれは。ただこの歳になるとどれも左程魅力に感じないのだがな」
「あら・・でもお隣のお弟子さんはかなり興味がおありな様子で・・」
「おう、興味があるのはお前さんだな。どうだ、俺の女になるか?」
久保田が話の途中に入り込んでくる。
「・・・そうですね、ご希望ならば。でも私はかなり強欲でして、貴方に満足出来るか心配です」
「任せろ!毎晩たっぷりと堪能させてやるぜ」
こ この男は、、本能に正直な久保田に他の者達が呆れて深いため息が出る。
「・・その件は後日にゆっくりとお話したいですが、まずは先に我が祖国に来てもらえるかの大事な件から語りたいと思うのですが、、、」
何となく久保田の勢いに押され気味の彼女は矛先を躱し始めた。
そのやり取りを太蔵は心の中では楽しんでいた。
久保田により、彼女のペースが少し狂い始めたのが見て取れる。
意外と面白い展開だと、、無論久保田は当初から計算しての発言ではないであろう。
「これ、久保田。先方様が困っているぞ、少し控えなさい」
太蔵の助け舟が出る、不満を持ちながら久保田は言葉通り控え始めた。
「まぁ、それなりの提案に心も少し動くが、本音は貴女の祖国は好きになれなくてな」
「・・・理由をお伺いしても?」
「君の祖国は信用が置けないと私は考えている。古い話だが 日ソ不可侵条約を結んでも相手が弱っているとみるや平気で破り、沢山の日本兵捕虜の虐待を犯し今だに正式な詫びの一つもない状態だ。誰が信用すると?」
「・・・それは前政権下での」
「まだある、武力侵入して当時の満州国にいた民間日本人虐殺、および大量の婦女子への集団凌辱行為等、同じ女性として君はどう思う?」
「・・・不幸な歴史はあったかもしれないが、それを言うなら日本も真珠湾への奇襲攻撃など、、」
「間違えるな、戦闘自体は仕方のない事と当時は理解している。なれどあくまで兵対兵の問題であって民間は巻き込んではいけない、日本軍は確かに真珠湾に攻撃をした、なれどそれは軍施設が対象だ。一般の民間施設への攻撃は行っていない。ましてや無差別攻撃や凌辱行為及び捕虜虐待などは断じて行ってはいない」
「・・・絶対とは言い過ぎでは?」
「無論、不幸な例は何件かあった。ただその者達は我が国の軍事裁判で裁かれて罪についた。君たちの国はそんな野蛮な兵士達に対し戦後裁きを行ったのか?」
「・・・・・・」
「以上が私が君達の国が好きでない理由だ。ああ 言っておくが私は米国も同様な理由で好きではない」
「そうなの・・・でも今の日本は米国の属国と言ってもよい状態なのでは?」
「まったくだ、その点に関しては否定しない。だが近い将来国民が目を覚まし対等な立場へと向かうことを私は期待しているし、必ず出来ると信じている」
「そうなればいいわね・・・本日はここまでにしましょうか、改めて再訪問宜しいでしょうか?」
「ご自由に、ただ無駄足の可能性が高いと思うがね」
会談が終わり退室しようとした彼女を太蔵は思い出したように付け加えた。
「最後にひとつだが、法外な手段での裏工作を行うのはやめてくれ。はっきり言うなら儂を怒らせるな、その気になればひと暴れする事も辞さないタイプと理解して欲しい。特に君の上司にはその事をしっかりと伝えて欲しい」
承知しました・・彼女は太蔵の鋭い目つきに何かを感じたらしく、多少の怯えが入った声で太蔵に答えると退室していく。
「おっ そこまで送ってくるか・・」
最後に少し緊迫したそんな空気を読まない久保田は腰を上げて彼女の後を追う。
残された3名は元気な久保田に呆れた顔で見送る。
暫くして帰って来た久保田は何か嬉しそうな雰囲気が漂っていた。
何かあったな 小田切がその上機嫌な久保田に尋ねてみる。
「うむ メールアドレスの交換をしてきたぞ」
マジか・・この男は何を考えている、小田切は冷たい視線を向けていた。
「な なんだ、このアドレスは教えないぞ」
そんな二人のやり取りを楽しそうに聞いている太蔵と大宮だ。
「それはそうと、最後に彼女に通告した内容は守られるでしょうかね?」
さてと、、一時の北の国の行いであれば考えられるが、一応自由経済にて解放された現国家ならば と考えたいが、用心するに越した事はないな。所詮はあの国であるから。
太蔵が思い浮かべている関係者は、麓にて道場を構えている第15代当主関連と、暫くあっていない下町の姉さん一家だが、現在国の支援もあり、この二か所には定期的に護衛の目が光っている。
この二家族にもし何かあれば立ち上がる気が満々の太蔵であった。
部屋の片隅では依然として揉めている高弟の二人の声が聞こえる。
「まったく何なのあの爺さん。最後のあの目つきは流石に少し肝が冷えたわ。武道の達人とは聞いていたけど、、少し裏を調べる必要がありそうね。それに反してあのクボタとか言う男の軽さはこれはこれで疑っておく必要がありそうね。・・まったく調べることが多すぎるわ、、」
車を移動させながらブツブツと彼女は呟きながら、今後の対応をどうすべきか上司との電話連絡を取り始める。
そんな彼女の携帯に先ほど登録したばかりのクボタからメール着信が入って来た、、、。
その着信者名を見て彼女は呆れた顔でため息をつく。
「はい、、 はい、承知しました 総理。その方向で至急に対応致します」
総合幕僚長である大滝と前後して稲盛事務次官の二人が総理による最終決定が伝えられた。
来年度防衛予算に新武器開発の特別予算の計上が決定したとの一報である。
「・・これで我が国も一歩前進したな、、」
大滝は連絡を受け感慨深そうに中空を見つめていたる
これまでの我が国は米国の正しくコントロール下に完全に置かれていた。
これはこれで余計な税金等を使わずに最低に近い予算で国防の心配も左程考えずに過ごせてきた。
なれどそれは真の独立国と呼ぶにはほど遠い状態でもある。
いつ何時に米国がこの日本から手を引くかも知れない。
その時には国内における軍事関連企業はほとんど育っていない現実がある。
逆に米国はその圧倒的な軍備関連により何から何まで押しつけのシステムを売りつけているのが現実だ。
肝心な部分は全てブラックボックス化を進め、情報の制限化や装備性能においてもワンランク下の兵器類を押し付けてくる。
開発できるならしてみろ ともとれる対応であるのだが、新たな開発には育っていない軍事関連企業や膨大な開発予算に二の足を踏まざるをえない。
それが 三橋太蔵 による 魔素 の開発により大きく揺れ動こうとしていた。
魔素 に関して調査すればするほどその存在価値の高さが判明した。
一般的な銃火器は無論、大型の破壊兵器まで応用は無限にあると太鼓判を押されたのだ、極秘にこれまでは研究を続けてきたが、諸外国はそんな日本をあざ笑うかの如く何かが日本で動いていると情報活動が活発に展開していた。
「せめて スパイ防止法があれば、、、」
およそ世界の一流国として考えられぬほどのルーズさが歯がゆかった。
この国の議員等は国防を何だと思っているのか、歴代の総合幕僚長が抱えていた疑問でもある。
「ふう、まずは三橋氏等の身辺防御と出来るだけの各国の暗躍活動を阻止せねば、、」
自衛隊の全能力を使い来年度からの武器開発をとど通りなく進めてみせると大滝は強い決心でいる。
国防に関してこの 魔素 は我が国の最後の切り札になると認識しているのだ。




