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その男 異世界帰り   作者: 西南の風
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富士演習地から自分の道場に帰る新幹線の中で小田切はぐっすりと気持ちいい程寝入っていたが、隣に座る久保田は不満やるせない気分でぶすっと流れる車窓からあたりの景色を眺めていた。


昨夜の賭けの勝者と敗者が一目同然であろう、それを愉快そうに太蔵は二人を横目で眺めている。

そんな太蔵の様子を不思議そうに見ていた大宮も、その視線の先に高弟二人の対比的な態度に納得して成る程 と小さく頷いている。


そんな大宮の携帯にメールが届いていた。

それを確認していた大宮はメール文を太蔵に見せる、何事? と覗き込む太蔵に大滝総合幕僚長が基地に到着して倉田陸将補とお待ちしているので基地までご案内して欲しいとの業務命令内容である。


大滝は前日の新武器試験の時には不在であった、どうやら内密に動いているらしい。


「ほう 大滝さんが、久しぶりですな...」


首相官邸でお会いした以来か と太蔵はこの一年近くの変化に改めて思いを馳せていた。

この約一年で色々な事が起こり、忙しなく毎日が過ぎ去っていたのだ。




「これは老師、お元気そうですね」


倉田将補の部屋にて大滝と久しぶりの対面をした、場所を変えたいと前に入室した音や盗聴防止の部屋に案内される。


「お疲れのところ申し訳ないですな...」


簡単な互いのその後の活動確認の話し合いがあり、近隣諸国の動きがきな臭くなってきた事への報告があった。


「...近隣諸国以外にも米国の諜報活動が活発化しているらしいと...」


「はい 秘密裏にここまでは動いていましたが、外務省の裏ルートから頻りに情報提示の依頼が入ってきました。無論この防衛省に対しても同様です」


「...まったく、自分等の秘密武器は隠したがるのに他国には圧力をかけている訳ですな」


「残念ながら...実はこの件で老師にご相談がありまして」


大滝は数枚の写真を提示した、そこには軍関係者に交じって太蔵や高弟達の隠し撮りと思われる写真が写し出されていた。


「...ほう こんな写真まで撮られていましたか、流石ですね」


「誠に、どの様にして撮ったのかは今は調べ直していますが、今後老師への身辺が騒がしくなってくるものと...」


「その件は十分に肝に銘じておきましょう、我が国の総理の方に圧力は?」


「表立ったものはありません、現在大統領選挙の真っ最中ですからね。その結果後に圧力は当然かかってくるものと思われます」


「やれやれ...それにしても情報の洩れが早いと言うか、かの国の情報収集が優れていると言うべきか、、」


日本のスパイ天国は世界的にも有名だ、どの国もこれ程情報収集に関して楽な国家も珍しいだろう。


「誠に、由々しき問題なのですが、、、」


大滝も口には出さないがスパイ防止法の成立を望んでいる一人であろう。

現在の立場として大っぴらに公言出来ぬもどかしさが満ち溢れている。


「それと 老師、何も米国だけの話ではなく他の国の情報部署の活動も目立ち始めています。直にあの道場の場所も把握されるものと思います」


「ほう、賑やかになりますかな?」


「はい、先ずは老師達への接近が始まるものと」


苦々しい顔で十分身辺に気を付けて欲しいとのお願い事となる。

太蔵は勿論、小田切や久保田もその言葉に頷くしかなかった。

道場には他に10名の自衛隊員の臨時弟子がいる、こちらの対応も考えねばなるまい。




「お帰りなさい老師、留守中の件で少しご報告したい事が...」


道場に帰り着いて一息入れていた太蔵に、今回留守の責任者として対応していた三等陸曹の大木が部屋に訪問してきた。

その言葉に何となく と感じていた太蔵は改めて留守中の様子を聞かせてもらう。


「...ふむ、米国人と思われる者が訪ねてたと」


「はい、通訳を伴い二人が老師に面談したいと訪問してきました」


 ほう もう動きが出てきたのか  太蔵は動きの速さに感心していた。


「老師が不在と説明しますと、数日後に再度訪問するとの伝言でした」


「...面倒だが後々を考えると会っていた方が良いか、、、」


「老師、警備の対応はどのようにしましょうか?」


「ほっときなさい、出たとこ勝負で構いません」


「大木三曹、老師がそう言っているのであまり気にせず修行の方に注力していて下さい」


心配顔の大木三等陸曹を小田切が笑いながら自分等に任せろと頷いていた。


「場合によっては、また違った国からの訪問者があるかもしれないので、一応心積もりだけは宜しく」




「なぁ 老師、当面は忙しくなりそうなのか?」


大木氏が退席した後に三人と大宮三尉と簡単な打ち合わせが行われ今後の話し合いが行われていた。


「うむ そうなりそうだな、それより指弾の訓練成果はどうなんだ?」


それに対して久保田は嬉しそうに微笑んでいる。それなりの成果が出ているようだ。


「おう、お陰で順調だ。もう一人は苦労しているみたいだがな」


久保田が小田切をチラリと見て嬉しそうに愛想を崩す。

それに対して小田切がなんとも苦々しい顔で答える。


「...自分もそれなりの成果が出ています、だが少し久保田の方が先に進んでいるようです」


どうやら礫術の訓練は順調に二人とも熟しているように思われる。


「礫術ですか、、、この日本では意外と有効な気がします。私も覚えてみるかな...」


拳銃の自由携帯が認められぬ我が国では都会は別にして、こんな田舎の地方都市では材料に困らぬ護身術として大宮もその有効性を考えている様だ。


「...大宮さん、何なら私が指導するが?」


「ま、まて老師。まずはこの可愛い弟子が先だろう、コツについて少し聞きたい事があるんだ」


少し嫌がる太蔵を無理やり道場の目立たぬ裏側に引き込む久保田である。

他の二人も苦笑しながらついてくる。



「ほう これは口だけではなく、かなりの上達だな...」


意外と礫術が久保田に合っているのかと太蔵はその進歩に驚いていた。

狙いの精度はまだ甘いが、それなりの勢いがあり上手く当たると結構な威力を発揮しそうだ。


「...久保田 体力強化のスキルを行いもう一度見せてくれ」


 お おう。 久保田は隠し持っていた魔方陣に魔力を注ぎ込む。


 おおー-!!


見学者の皆から感嘆の声が上がる、指弾による小石が物凄い勢いで的近くに命中し砕け散る。


「...老師、これ少し危険では?」


指弾を発した久保田自身が思わず呟いていた。


「何もスキルを使わずとも済めばそれがベストだ、只万が一にはその最大威力は覚えていなければ役に立たんからな」


それはそうだと 久保田も納得する。

続いて小田切にも指弾のコツを丁寧におしえこんでいく。二人共懸命に夕闇が迫る中訓練が開始された。


 ...弟子迄人間離れしていくようだ。


大宮はそんな様子を見ながら、深くため息をついた。





「こんにちは、ミスター三橋は在宅ですか?」


来客対応に出た久保田が玄関口にたたずむ二人に遠慮のない視線を向けていた。

30代前半の男と赤毛の通訳と思われる美女が二人訪ねてきた。


前に報告があった米国人と思われる、まずは応接室もどきの部屋へと二人を案内する。

暫くして太蔵達三名が部屋に入り、互いに自己紹介を交わす。


男は大使館付けのヴァンダーと名乗り、通訳者はミランダーと名乗っていた。


「さて、此度の訪問内容をお聞きしましょう」


太蔵はにこやかに訪問目的を尋ねる。

通訳を通して男が喋り始め女が通訳を開始する。


「...まずは 貴国と我が国とは長い間友好関係を互いに築き、今回もその一環として......」


どうでも良い前口上から始まったが、それを太蔵は手で制し。


「口上は結構ですよ。ここに来られた目的をお聞かせ願いたい」


軽く肩をすくめ、男は本題へと移り始める。


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