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その男 異世界帰り   作者: 西南の風
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夜が更けていく、今夜は月明かりが三日月で闇に紛れるには少し注意がいる。

太蔵達は八時過ぎには現場に到着して待機していた。


「いいかい、もう一度言うが君たち自衛隊は手を出しては駄目だ。最悪国対国の問題になる可能性がある。ここは民間人の私達が悪事を見かねて犯人逮捕に及んだ そんな建前を通す必要がある。無論、無茶な理論だがあくまでこれを通せば相手も無理を言えない筈だ、誘拐と言う人質からの証言があるだろうからね」


太蔵の周りに集まった隊員たちは、先ほど各基地のトップから 太蔵の命に従えと連絡が入って来た。

無論 太蔵が倉田指令に手を回しての事であり、そうは言っても各隊員達は何のための国民の命を守る組織で訓練をしてきたのだとかなり割り切れぬ思いに包まれていた。


「君達の悔しさは理解するが、ここは私たちに任せてほしい。いいね」


そろそろ夜の九時だ、いつもの定期連絡があの二人に入る頃と思われる。


「小田切 久保田 二人は打ち合わせ通り頼むぞ」


「「任せろ 老師」」


太蔵のメールに連絡が突然入って来た。


 おっ 噂をすれば だな...。


携帯の光が漏れぬように包み込み内容を確認する。

予想通り田畑さんからのメールが届く。


{連絡あり 子供の解放を約束して此方に向かうと言っていました}


その後数分して村木氏からも同じ様なメールも届いてくる。

ビンゴ 敵は動きそうだ。高弟二人に敵が動くぞ と伝えると二人は静かに闇に乗じて大きく左回りで別荘に近ずく。

太蔵は逆に右回りに別荘に向かい始める、その姿は物音ひとつ立てずに闇に溶け込んでいく。


「な なんだあの動きは...下手なレンジャー以上の動きだ...」


かの人物は何者か、残った隊員達は大宮三尉の顔を見つめていた。


「...う うーむ、見た通りの人物だ、詮索は禁ずる」


周りにやっと届く程の小声で大宮は答えるしかなかった、事実あれほどの動きが可能とは大宮自身も知らされていなかった。あまりの接近術にただ茫然とその行動を暗視スコープにてみているだけであった。


早々と太蔵は目的地に到着すると、背の高い藪の中で座り込み静かに自分を周りに同化し始める、見事な擬態とも言える技は太蔵を自然の中の一部として溶けこましていく。


( まったく、自然と同化している 恐ろしい人だ...)


 犯人に動きがあります 耳元で沼田が囁く、別荘のカーテン越に人影がせわしなく動き出す。


他の隊員も緊張した空気が張り詰める。 

やがて電気が消され、玄関から人影が出てきた。


前一人の男は拳銃を持ち後ろの男も辺りを注意深くみている、その後にご婦人が子供の手を引いて続く。

その二人を監視するように三番目の男がいた、四番目の男が後方を確認しながら注意深く歩く、手には銃を持っている。


一行は二台の車に向かい暗闇を歩き出した。

太蔵の目の前5米を歩き過ぎようとしていた、太蔵の右手がすっと伸びていく、先頭の男二人に指先が狙いをつけているように見える。


 ふむ 先頭約8米だな...


突然太蔵の親指と人差し指から何かが弾き出された。


ぐあっ! 突然に先頭の男がびくっと震えると大地に倒れ込む、何事と後ろの男が近寄ろうとしたが同じく奇声を発して倒れ込んだ。


きゃっ ご婦人がそんな様子に恐怖になり子供を守ろうとして二人が座り込む。


後方の二人が敵だと判断して周りに視線を動かすと同時に、太蔵は音を立てて藪の中を駆け回りだす。

その音に反応して二人が太蔵に銃を向けるが、動きが早く照準が定まらぬようだ。


 「今だ!!」


雑木林をわざと音を立てながら走ずり回りながら、太蔵が大声を発した。

その声に反応して車の前方の藪の中から走り込む者が二人、その駆け込む音に男が振り向きながら高弟二人に狙いをつけた瞬間に風切り音が響き、鈍い衝撃音がその男の頭部に命中して崩れ落ちた。


最後に残った男はパニックになりながらも人質を盾にと動いた瞬間に同じく衝撃音が彼の頭部より発し、白目をむいて倒れ込む。


 馬鹿め...  太蔵がゆっくりと雑木林から出てきた。


二人の高弟がしゃがみ込んだ二人に手を差し伸べた。


「村木さんの奥さんに田畑さんのご子息ですね?」


恐怖に今だ震える二人はただ頷いていた。


 うおおおー--


大声をあげながら下から自衛隊員が駆け上ってくる。

皆が全てが完了したと喜びの声が響いている。


「こらこら 夜中だぞ、周りの家から...誰もいないか」


太蔵は苦笑いしながら隊員の到着を待っていた。

その間に高弟二人が用意したロープで犯人の4名を縛り上げる。


先に倒した二人のうち一名が意識を取り戻しかけていた。


「もう少し寝とけ」


久保田の非情な一撃により、再び気絶する。


「おい 手荒にするな」


小田切は苦笑する、その足元でもう一人も意識を取り戻す。

小田切が何気なく蹴りをみぞおちに命中させ、その男も再び卒倒する。


それを横目に太蔵は見て見ぬふりをしていた。


小田切が打ち合わせ通り携帯にて、この別荘地区の入り口にて待機していた県警村田氏に連絡を入れ、全て完了したと報告した。


遠くからパトカーのサイレンが何台も鳴らしながら近寄ってくる。


自衛隊員達が興奮気味に太蔵の神業を褒め称えている。

それに少し照れくさそうに太蔵は応えていた。


パトカーが近寄ってくるのを合図に、大宮以外の隊員は別れを告げてこの場から立ち去る。

太蔵達が協力に感謝すると彼等に手を振る。


一通り犯人の引き渡しが終わり、人質も健康確認の為に一旦病院へ向かう。

村木氏田畑さんの二人も人質解放の連絡が入り病院へ向かうそうだ。




「老師あれは何だ? どうやって4名を倒したんだ?」


太蔵達は遅くなったがホテルへと移動していく、その車中で久保田が質問を投げかけてきた。

先ほどから聞きたくてうずうずしていたのだろう。

それは小田切と大宮も同じである、三人の注目を浴びながら太蔵は何食わぬ顔で答える。


「二種類の技を用いたが、共に基本は同じだ。(つぶて)術だ」


最初に用いたのが 威力は落ちるが不意打ちに有効な 指弾 と言うらしい。

礫術自体は昔の武士たちも用いた技であるが、それに特化するとかなりの勢いの武器になる、それに材料はそこらに転がっている小石が主だ。いつでも対応がとれる。


指弾はその礫術を更に磨いた技になる。

親指と人差し指にて小さな小石を弾く、動作がほとんどなく相手に気づかれずに飛ばすことで主に相手の目を潰し次の攻撃がしやすい事を目的とした。


多人数に囲まれた時にも突破口を開く際にも有効な手として利用された。

無論強敵相手にも有効な一撃となる。

通常の礫術ではどうしても小さな投げる動作が入り、相手によっては気づかれるが指弾は指先だけの動作でその点有利だと言う。


「...そんな便利な技は教えてもらわなかったぞ」


久保田は少し不機嫌な様に呟く。


「ははは 現在ではまずどの道場でも無理だろうな、そもそも必要性などないものだろう。だが希望するなら教えるぞ」


二人は嬉しそうに頷く、今後の事を考えるなら覚えていてもよい技であろう。

特に太蔵は異世界において獲得したパワーがある、単なる指弾でも桁外れた威力が発揮される、その気になれば指弾にて頭部頭蓋骨をひびどころか破壊も可能であろう。


(ふう 何やら大変な新工場見学であった)


年のせいで夜更かしが苦手になってきた太蔵は少し眠気が襲い始め軽い欠伸を噛みしめていた。



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