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太蔵の人間離れをした体力の記録のコピーを倉田は受け取り基地へと戻っていく。
総合幕僚長に至急に報告すると思われる。
同じころ太蔵は高弟の二人に捉まり、あれこれと質問攻めの最中であった。
「さぁ 話してくれ老師、あの異常な身体能力は何故だ?」
「単なる修行では答えにならない気がしますが?」
今にも襲い掛かりそうな勢いにて迫ってくる。
二人はこの太蔵を師と仰いで、予てからの疑問が解決するものと感じていた。
いくら技に円熟味があろうと、老師の下にて小田切は早10年、久保田も8年近くそれも道場にて泊まり込みの生活にて手ほどきを受けてきた。
なれど高齢のこの老師に今だ勝てる気がしない、単なる素人相手なら納得するが、道場でも師範クラスの二人を同時に相手にしても結果はいつも同じであるのだ。
体力的には自分等の方に分があると思っていたが、今回その自信も根底から覆され共にかなりのショックを受けている。
なれど何故このような事が可能なのか?その答えを何としても聞き出して見せるとの勢いで太蔵に迫っていた。
「老師 言い逃れは聞きませんぞ 是非教えて下さい」
「その通りだ もうその年だ、墓場に持って行ってもどうしようもないだろう?俺たちが引き継ぐから教えてくれ」
久保田はどさくさに紛れ失礼な事を喋り出す。
そんな二人の怒涛の勢いに辟易して太蔵は語りだした。
「「異世界??」」
二人は急に太蔵が何を言い出すのかと、互いに顔を見つめ合った。
徐に久保田はつい自分の頭に指をさしてクルクルと回しだす。
それを見ていた太蔵からこっぴどく叱られて少ししょげている。
「まったく 師をキ〇ガイ扱いにしよって...」
機嫌が直らず怒り出す太蔵に二人が盛んに頭を下げて詫びを入れている。
「...なれど老師 確かに久保田の行いは悪いのですが、もう少し詳細を話してもらわねば...」
「......知れば戻れなくなるぞ」
「「何を今更、この三名はもはや運命共同体も同然でしょう?」」
「はは 一応覚悟を聞いておかねばな、、、」
それから数時間にわたり、太蔵は異世界での生活および修行状況について事細かく説明を始める。
時折質問が入るが、基本太蔵による独演会となる。
「...いかん 頭がこんがらがって来た、、」
次から次に入ってくる情報に久保田は持て余しているようだ。
「...信じられんような話だが、筋は通っている」
小田切はどうにか処理が追いついているようだ。
「なぁ 老師、話に出てきた天下御免の許可状は実際に使用したのか?」
「うん? ああ そう言えば一度も使ったことはなかったな」
「何でだ?勿体ない、俺だったら使い放題に利用したのに」
「久保田 下品だ、言葉を控えろ」
「何を澄ましているんだ 小田切、男の本能だろう?それとも何か、お前はそんな許可状欲しくないと?」
「...あっても邪魔にはならないかな」
「けっ それ見ろ、何が下品だ。どうせ俺は少年院上がりの高校中退だからな、下品で悪かったな」
「...俺も相撲部屋から少しの間だけ高校に通っただけだ」
「ふむ それを言うなら儂も異世界送りにより高校中退だな...」
三人揃って状況は違うが、皆が高校中退であると互いに見つめ合っていたが、やがて大きな笑い声が道場に響きだす。
「老師 そうするとそのレベルとやらが上がると身体強化が成されると?」
「そうらしい 儂は当時47まで上がっていた、わかり易く言うなら素の状態より約6倍近くの体力増強となる、因みに勇者として活躍していた者達は70~80近いレベルと聞いている」
「...老師で約6倍 その勇者グループでは8~9倍の力が、、」
「けっ もはや人間じゃないな」
「儂もそう思う、人により多少特化する数値が違うらしいが、基本その数値で間違いないらしい」
「...うーむ 老師のその力を見なければとても信じられぬことだが、現実にその力を見せつけられたことだから信じるしかないですな」
「なぁ 老師、その力俺達も何とか手に入れられないのかな?」
久保田が羨ましそうに尋ねてくる。
「...さて、そもそも何故にそうなるのか仕組み自体が解らぬからな」
それもそうかと二人が少し残念そうにしている。
気落ちしている二人に苦笑しながら太蔵は一瞬ふと考えが頭に浮かんでいた。
「...いや 待て、、、」
突然太蔵は考えだす、その様子を二人が何やら期待しながら見つめていた。
「...なぁ老師、先ほどから黙り込んでいるが もしかして何か思いついたのか?」
長い沈黙に耐えきれずに久保田が考え込んでいる太蔵に恐る恐る尋ねる。
「うん? ああ 済まん、少し考え込んでしまったな。現段階では確かに手はないが、場合によってはと思いついたこともある、なれどまずは魔素回収の手際が問題なく行えることが出来てからだな。それまでに儂も考えをまとめておく」
途端に二人の目に力が溢れだした、不可能が可能になるかもしれない、老師はそう伝えたのだ。散々老師の力を羨ましがっていた者にとっては朗報の一声だ、これからの取り組みに大きく違ってくるのも事実だろう。
「...それは確かに朗報ですな、魔素回収の技の完成を目指して精進します。それと例のスパイの件なのですが、良ければ少しその後の顛末についてご説明してもらえれば、、」
「そ そうだぜ、俺も気になっていたんだ。老師頼むよ、良ければ教えてくれないか?」
前回の総合幕僚長との酒会時に報告があった一件について太蔵が話し出す。
そもそも防衛省に位上げとなった時に組織が一部変更になり、特に外部に対して情報戦に備えての充実が行われた。
基本外国による情報戦の混乱に対応する組織であったのではあるが、当然視線を変えれば国内で暗躍している者達に対しても一定の強固な監視体制も行われている。
国家を守る側としては当然の行いではあるが、今だ平和ぼけの強い国民からの突き上げもあり、なかなか満足のいく活動ではないようだ。
それでも徐々に国家の防衛についての基礎ができ始めているのは喜ばしい事ではある。
自衛隊情報保全隊 と呼ばれる組織は内外の情報に関しての中枢にあたる。
この組織が動き始めて 問題の両名の監視体制が行われた。
細かな詳細は太蔵にも明かされなかったが、あらゆる手を使い対応したものと考えられる。
まず動きはこの情報保全隊が監視体制に入り数日目に 金森書記官 が前々からマークしていたC国の情報員と思われる人物に接触した事が判明した。
その数日後には飯島一佐の動きも捉えられ、共にC国絡みであると情報隊は緊張した。
確かな証拠集めが開始され、言い訳出来ぬ状況であることを積み重ねて二人の身柄を確保して取り調べが開始される。
当初金森書記官は何かと言い訳じみた事を並べていたが、次々に提示された証拠に観念した。
飯島一佐に関しては意外と素直に認めた模様だ。
その折に話に出た二人の状況が判明。
飯島はお子さん絡みであり、彼の子供は小学生の頃発病した難病により海外にて臓器移植の必要があり、かなり高額の治療費の工面に苦しんでいた。
ありとあらゆる金額の工面を行っていたが、高額の治療費は目処がたたずに、かなり追い込まれていた模様であった。
それを何処で聞きつけたのか、接触してきた者から言葉巧みに協力の代償に情報の漏洩を依頼される。
当初は何を馬鹿な事と反発していた飯島だが、日に日に弱まるわが子の衰退に親として見かねてついに決断へと追い込まれる。
金森は将来の次官候補と上がる前から目をつけられていた。
将来の次官候補としてC国主催の会議に参加した時にそれは起こった。
夜にホテルの部屋へ突然訪問してきた女性が、対応に出た金森の制止を振り切り部屋に入り込むと着ていたガウンを脱ぎだす。慌てて狼狽えている間もなく続いて入って来た男がガウンを脱ぎ金森に抱きついている裸の女性姿を写真に収さめ あっと言う間に二人が部屋から逃げ出していく。
噂に聞くハニートラップの手段はあまりに手際よかった、呆然と金森は立ち尽くすしか手がなかった。
「...嫌な手をつかいやがる」
小田切と久保田は胸糞悪い話だと憤慨していた。
「...ある意味 かの国はそれほど我が国に対して恐れている証拠かもしれんな」
なりふり構わぬやり方には馴染めないが、背景に危機意識の欠如がある我が国民や政府にも問題があろう。
三名は暗くなってきた周りに気づかず話込んでいた。
当面一週間に数回の投稿予定になります




