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その男 異世界帰り   作者: 西南の風
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今後は週に数回投稿予定となります。

暫くこの物語に注力予定となりますので宜しくです。


尚自衛隊について記載していますが、特に内部状況について誤りがあれば、ご指導の程、お願いいたします。

会議終了後半月が経過した頃、突然に太蔵の携帯に見知らぬ番号から連絡が入って来た。

用心しながらその電話に出ると基地のトップの倉田将補から直々の酒会への誘いである。

何かあったな とっさに判断した太蔵は平時な声でその誘いに招かれることにした。


当日、基地より迎えの車に乗り込む3名であり、運転手はいつもの大宮一曹がにこやかに対応していた。

唯、いつもとは違い平服姿での案内となる。


その店はこの都市でも有名な和風高級料理店であり、店の者の案内で二間続く離れの部屋へと案内される。

手前の一室で小田切と久保田それに大宮が待機し、更に隣の部屋に太蔵は案内された。

案内をしてくれた女将と思われる女性が中の人物に声をかけて、丁寧に襖を開き太蔵を部屋の中へと、、


部屋の中には二人の人物がいた、一人は基地の倉田将補であり、もう一人は悠然と構えながらもいかにも軍人のそれもかなり上のクラスであると思える人物だ。


「おお 三橋老師、どうぞ此方へ」


招かれるままに上座に案内され、見知らぬ男の隣へと座らされた。

一通りの挨拶を交わし、将補よりその人物の紹介があった。


総合幕僚長 大滝 宗雄 と教えられる、つまり制服組のトップである。

昔の軍隊で言えば 大将クラス となる。


 これは、いきなりトップとの面談か......。


「老師お忙しい中を申し訳ないです、まずは一献、、、」


三名はグラスに継がれたビールに口をつける。

暫しの歓談の後に倉田が本日の要件を話し出した。


「...実はこの場にてお招きしたのには、、、」


倉田の話によると、前回の会議にて太蔵より指摘された件で動いた結果、、、。


要約すれば 太蔵の指摘通り二人の身辺を洗った結果、自衛隊としては残念ながら太蔵の心配した通りの結果がクロと判明したと、倉田の顔が沈痛な面持ちで説明してくれる。


 ...やはり そうですか。


太蔵としては自信を持っての発言であったが、何となく自分の思い違いであればいいな との感情も持っていたが実際はあのオーラでは仕方ないな と割り切っていた。


「身内を疑わなければならなかった事はさぞお辛かったと、心中お察し致します」


「いやいや 老師のご助言により自衛隊内の膿の一つがお陰で排除出来ました、こちらこそご迷惑をお掛け致しまして申し訳ありません」


大滝と倉田の二人が詫びを太蔵に述べた。


「調査の詳しい内容は後で倉田から再度述べさせてもらいます。...それにしても 魔素 の件と言い、今回の疑惑の件と言い、誠に感服いたしますがどこでこの様な技を習得されたのでしょうか?」


大滝はさも不思議そうに太蔵に尋ねる、当然であろう この二つに関してあまりにも常識外れ、いや 人間離れをしている行為に疑問を持たぬ者はいないであろう。


太蔵はこの二人に会った瞬間から人物鑑定のスキルを発動していた、二人に於いてここまでは疑念するようなオーラは感じられない。

太蔵はここで少し博打を打ってみる事にした、最悪冗談で済まそうと......。


「...御二人方だけには話しておこうと思います、この件に関しては秘密にて他言無用でお願いしたい」


途端に二人から何とも言えない緊張感が伝わってくる。

太蔵は約50年前に起きた、何とも不思議な体験を述べていく。



「...つまり、異世界にて修行と......」


「...それは 何とも......」


流石に二人とも腹の座った人物らしく、頭から疑ったり異論を述べる事はない。

だが二人のオーラはさすがに困惑して揺れ動いているが、事実を確認しようとする姿勢である。


「...そういえば、報告書の中に若い頃に5年ばかり消息不明の期間があるとの、、、」


倉田が思い出したように小声で呟いて、ふと我に帰ると。


「いえ その...一応身元調査をさせてもらいましたので、お気を悪くしないで...」


「いえいえ 当然の処置です。単なる妄想狂の可能性もありますからな」


太蔵は愉快そうに笑いだす、倉田も申し訳なそうに頭を下げた。


「して その世界とはどのような?」


軽く頭を搔いていた倉田は突然興味深い目で太蔵に尋ねる。

その様子に大滝も苦笑しながらも言葉を発した。


「老師 申し訳ない、倉田はこのように興味のある事に夢中になるもので......」


「何をおっしゃいます、その点は総合幕僚長も同じではありませんか?」


そんなやり取りを発する二人を、太蔵は好ましく見ていた。

先ほどからオーラには何も変化がない、それどころかこんな話を真剣に捉えている二人に痛く感心している。


「...お二人とも私の話を信じていただけるのですか?」


最悪 冗談だと逃げ切ろうとも考えていた太蔵は、余りの展開に少し困惑していた。


「ははは 異世界は別にして、これまでの経緯を考えますと、それに近い何かを経験をしてきたのではと思っていました。それに古来より神隠しと呼ばれる現象が発生していたのは言い伝えが残っておりますしな、なれど必ずしも全てを信じている訳ではありません、その...出来ましたならばもう少し材料を頂ければ頭の固い上も説得出来るのですが...」


更に何か出来ないかと探りに入って来たな、この古狸め...。


 ふむ 仕方ないか、、。


「...そうですな、丁度五輪大会が昨年終わったばかりですが、確かその大会にて百米競争にて新記録がでましたな、確か、、、」


「9秒7かと...」


何を言いたいのかと二人が太蔵に注目する。


「そうでした、ならば私がその新記録を更に縮めてみせると言えば どうですか?」


太蔵の若い時には確かに非公式なれど、百米の大幅な新記録を作り出した。なれど今年67になる太蔵も寄る年波には勝てぬ、とても昔の記録は無理かも知れないが一つ手がある、それを使えば可能であると考えていた。


だが、流石にこの提案には二人とも 何を考えている と半分呆れた顔である。

しかし太蔵は愉快そうに話を続ける。


「今お二人が考えている事が普通の人達の考えです。この老いぼれが頭がおかしくなったのかと」


はっ と二人は思いつく、この男は人の心が読めるらしいと...。

正確にはオーラの気にて判断しているのだが。


「いえいえ...なれど それは本気で」


どう考えても 無理 の二文字しか思いつかないと 二人は流石に互いの顔を見合わせている。


「はい 目に見える結果が必要でしょう?」


「...確かに それは提案させて頂きましたが、しかし新記録となりますと」


「問題ありません 8秒台を目標にしましょう」


「「......」」


どう答えてよいのか 二人は只暫く無口になっていた。

太蔵は太蔵で頭の中で計算していた、年はとっても8秒台ならなんとかなりそうだと...。


当初はスキルを使おうかと考えていたが、意外といけそうだなと判断した。もしダメならその時は再度スキルを用いて対応すれば間違えなく8秒台なら楽勝と計算してみた。


取り合えず流石に今日は無理があるので、後日立会人を入れて そうだな 人目もあるしあの基地では無理であろうから、太蔵の土地で実施することにした。


本当に問題がないのかと 二人からは太蔵の体を気遣う旨の確認があったが、静かに微笑みながら頷く太蔵であった。


その後 酒席にての打ち合わせがあり、後日上京してもらいたいとのお願いがある。

その折に会ってもらい人物がいるとのことだった。


本格的に動くのかな? 太蔵は承諾して本日の会席は一旦終了となり後は雑談に移った。




三日後の昼間、大宮が運転する車に指令の倉田と二人がお忍びにて山の上の道場へと到着。

本日は道場は休みと通達してあるので、誰も人は居らず太蔵と高弟の3人だけにての出迎えとなる。


街で買い求めた 巻き取り式のメジャーにて大地にスタートとゴールの印をつける。

正確に百米ではないが、ほぼ誤差の範疇であろう。


大宮が用意したストップウォッチを用意する。

録画は小田切が担当する、大声を上げるのは久保田の担当となる。


「老師 準備はいいか? 用意.......スタート!」

 

久保田の大声が響き渡る、前回と同じく長距離スタートの構えで太蔵は走り出す。

速度がぐいぐいと上がりだす、皆がざわめき合って太蔵の信じられない速度に目を見張る。

たちまちにゴールに到着して、大宮が時計を止めた。


 うおおー- !!  


歓声が上がる中、壁ぎりぎりにて止まった太蔵はゆっくりと振り向いた。

皆が血相を変えてストップウォッチを覗き込んでいた。


8秒台が出たかな? 驚きの歓声を聞きながら皆の元へと帰っていく。


「どうかな? いいタイムが出たかな...」


「どうかな じゃないぞ老師。9秒1だ、とんでもない記録だ」


久保田が興奮しきった表情にて太蔵に説明する。他の皆も一斉に頷いた。

だが 太蔵は不満そうに...。


「そうか 8秒台が出なかったか、もう一度やるか?」


皆は呆れ果て、太蔵の体を気遣う。

それを無視して再度太蔵はスタート地点に向かい始める。



「8秒9......だ」


皆が凍り付いてかたまっていた、軽く息を整えながら太蔵は2回目の結果に満足していた。


「...前から 人間離れしていると思っていたが、これで証明されたな」


久保田がようやく口を開いて呟いていた。

倉田と大宮も信じられんと黙り込んでいる、小田切だけが何故か微笑んでいた。


「老師 お見事です、前々から感じていたがこれほどの結果が出るとは お見事です」


小田切は太蔵を労っていた。


「ははは 年寄りの冷や水でなくて良かった...」


太蔵はご機嫌になり笑い出す。



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