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朝 夜明けとともに目が覚める。
幼い頃から朝稽古の習慣にて体がリズムを覚えている。
ステータス板を出して体力の回復度を確認してみる。
ほぼ全回復の90%くらいまで数値が上がっていた。
完璧ではないが動き回っても問題ないだろう。
田嶋氏との申し合わせまで時間がある、先に朝食とするか。
まずは腹を膨らませねば力も出ない。
食事後まったりと消化時間の後に部屋の中で準備体操を開始する。
丹念に筋肉と筋を伸ばして軽く汗が浮かぶまで体を暖めていく。
この10年以上変わらぬ朝のルーティンだ。
もっとも自宅の時の食事は稽古の後だが、今回は約束の時間には間がある。
さてと 体も暖まってきた。練兵場に顔を出すか。
昨日の休憩場から外に出る、ここが練兵場になる、直径二百米ぐらいの広場だ。
ここは主に異世界人が利用している場所だと聞いている。
おっ 中心部に何人かの人が居るな
体を解しながら中心部に歩き出す。
うん? 二人の他に此方の中年騎士と思われる人もいるな、見学かな。
「お早う御座います」
朝の挨拶は大切だしな、向こうからも答えてくれる。
「おはよー どうだ体の調子は、本調子でなければ後日にするが?」
「いえ かなり回復しましたので、宜しくお願いいたします」
「おう 若いのは元気だな、少し体を解したら始めるか」
言葉に甘えて最後のストレッチで柔軟体操を行う。
「ふむ 体が柔らかいな、流石鍛錬を長い間行ってきた者は一味違うね」
太蔵を見つめる三人が声を揃えて感心する。
「さて その前に・・」
これは使えるかと直刀のソードと皮の鎧を差し出す。
鎧とソードを受け取りまずは鎧の仕組みを見てみると左程難しい仕組みではない、頭から被って背中で組んである紐を引っ張り適度な締めつけになれば紐を結べば良い仕組みだ。
装備して体を軽く動かし再度微調整して終了となる。
次はこのソードか…ふむ刃引きしてあるな、怪我防止だな。
問題は初めて直刀タイプを使うので何度か素振りをしながら、重量やらソードの特性を感じていくしか無い。
うーん 重量バランスがあまり良くないが、そんなものだと思えば対応の仕方もある。
そもそも練習用の数打ちでまともな品を期待してもしかたないだろう。
それなりに納得して田嶋氏の前に進み依る。
「では お願い致します」
そう言って剣を中段に構え、やや横にズラす。
古くは青眼の構えと呼ばれる。相手の目先横に剣先を固定する。
相手の腕が不明なのでまずは守り重視の構えとなる。
「おう 流石構えが様になっているな・・いくぞ」
そう言って動いたと思った時に相手の姿が揺らいだ、あっと思う間もなく田嶋氏の姿が目の前に迫っていた。
いかん! 本能的に斜め後ろに飛び退き、ソードを立てる。
相手の剣先が物凄い速度で横切っていた。
ギリギリの回避となる。改めて構え直す。
「ほう 初見であれを避けるか」
横で見ていた二人が如何にもと頻りに感心している。
太蔵はそれに反応している暇はない、あまりの速度の打ち込みに心底驚いていた。
祖父の打ち込みより早いかも知れない・・。
祖父の全身全霊を込めた打ち込みは三回に一回は受け損なう。
あの祖父の打ち込みを知っているからこそ反応が出来た、いやそれでも瞬間的な動きは祖父を上まわると判断した。
何度もこの攻撃は避けきれないと体が判断している。
ならば此方からの攻撃あるべきと構えを変化さす。
右上段にすーっと剣先が伸びていく、俗に言う とんぼの構え だ。
一撃必殺 相打ちも辞さない。文字通り一撃のみに全力を使う、二撃目は考えていない古流の流儀である。
相手の刀ごと叩き斬れと教わり、下手に打ち込みを受ければあまりの勢いの強さに自分の刀の鍔が自分の額にめり込む程の剛剣となる。
一撃で相手を倒さねば死すのは自分であると割り切っている。
幕末の新選組が恐れた流儀でもある。
ときの局長 近藤 勇 が部下に相手の初太刀を避けろとくどい程教え込んだ。
なれど容易に避けきれないのがこの流儀の特徴でもある。
参る
そう太蔵は呟き滑るように動き出す、まさに翔ぶが如く動きで田嶋の前面に近寄り、渾身の一撃を放つ。
「ケケ チェスト!!」 独特な猿叫が響き渡る。
太蔵の体ごと相手にぶつかる勢いで袈裟懸けに切り込む。
電光石火の一撃が田嶋を襲った。
斬った!!
そう太蔵は確信した、だが剣先が届く瞬間にまたしても田嶋の体は揺らいだ、そして太蔵の一撃は今まで居た田嶋の残影を切り裂いた。
避けられた?!
太蔵は呆然と切り込んだ剣先を見つめていた・・。
「ひぇー 危ない 危ない」
その声はユウゾーが切りつけた地面より右へ5米ばかりずれた場所に腰が砕けて座り込んでいる田嶋から発せられた。
太蔵はゆっくりと剣先を引き下ろし、座り込んでいる田嶋に向い深々と礼をする。
「参りました 私の負けです」
腰をほぼ90度近く曲げてそのまま身動き一つしない。
「いやいや 負けは私の方だよ」
慌てて田嶋は起き上がり服についた泥を叩きながら太蔵に答えた。
「いえ 一撃にて倒せなかった私の負けで間違いありません」
「いやいや 負けたのはチートを使った私ですよ」
ポリポリと自分の頬を掻いて田嶋は近寄ってきた。
チート?!
太蔵はその言葉にようやく頭を上げて不思議そうに田嶋を見つめた。
「忘れたのかな 私のスキルを」
「田嶋さんのスキル?」
あっと 昨日そう言えば人の心を読むスキル持ちだと…。
「では そのスキルを使って…」
「そう 君の攻撃を読んでいたんだよ」
「・・なれど避けられたのは事実です」
「いや 困ったな、、それだけでは無いんだな」
尚も困った様子で田嶋は手で頭を掻き始める。
横で待機していた二人が苦笑いをしている。
「太蔵君 君とはレベルが違うんだよ 彼は20もある」
「・・レベルですか?」
俗に10レベルが上がれば元々より全て倍の力がつくと言われている、彼は20つまり元より3倍の力や瞬発力を得ていると言っても良い。
「おまけに彼は君と同じで体力強化のスキルも持っているんだよ」
岡田氏が笑いながら説明してくれた。
「はは Lv・2で 50%アップなんだ」
彼は当然そのスキルも使用して試合に出たと白状した。
元が3倍で尚且50%アップとなると、元の4.5倍?!
流石に呆れ返って田嶋を見つめた。
「すまない 君が古武道をすると言うから少し驚かしてやろうと思ったのだが、驚いたのは此方だったようだ」
田嶋は すまん と太蔵に頭を下げる。
「いえ とんでもないです、でも剣の構えもそれなりに、、」
「あはは 有難う 一応剣道の有段者だよ。ただどこでも居る初段クラスなんだ」
そうか 初段クラスでもスキル等が加わればあれだけの動きが可能なんだな。
太蔵は門下で大学生の剣道3段の猛者にも対等に稽古をしていた。
改めてこの世界での非常識ぶりを確認した思いだ。
「そうそう彼の紹介がまだだったね。彼は私達の剣の講師役でアレックス氏だ」
そう言われた彼は右手を胸に当て綺麗な挨拶を太蔵に向けて行った。
慌てて太蔵はその礼にお辞儀で返した。
「どうだいアレックスさん 彼は凄いだろう?」
「はは 彼は本物だ。君の技を初見で躱したのは見事だし、最後の一撃は私も身震いしたよ」
「だよな 俺もビビったぜ」
二人は愉快そうに笑いだす。
この二人かなり仲が良さそうだが、ある程度信用しても?
「そうそう太蔵君 最後のあの技はもしかして、、」
太蔵は昔ある大藩で長い間門外不出の扱いを受けていた流儀の名を告げた。
「ほう やはりか、一度実際に見てみたいと思っていたが聞くと見るがこんなに違うとは…いや恐れ入ったよ 勉強になりました」
田嶋氏は心底感銘した様子であった。
「田嶋さん レベルはどのようにして上げるんですか?」
太蔵にとって一番の興味はその一点に絞り込まれたようだ。
「・・レベルは通常の練習では上がっていかないのだよ」
「・・特殊な訓練が必要だと?」
田嶋は深い溜息をつき太蔵の顔を真剣な表情で見つめながら話しを続けた。
「そうだ、魔物を数多く倒さねばレベルは上がらないんだ」




