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その男 異世界帰り   作者: 西南の風
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百キロは超すような猪を引きずって小さな川へ運ぶ太蔵である。


 ふむ 頭はいらぬな。


持っていたナタで数回切りつけ首の部分を落として、上体を川につける。

川と言っても山の中の小川に近い、その巨体は半分も水の中に浸かってはいない、だが本体に角度をつけて血が流れやすいようにして血抜きを始める、肉は早く冷まさないと血液による雑菌で腐りやすくなる。


まず血抜き そして冷却の手順となる。


適度に反対の面を水に付けていく。たまに持ち上げて体内からの血が出ていったか確認。

この位置だと担いで移動しても一時間でどうにかなるな、そんな事を考えながら引き上げ時を計算していた。


やがて百キロはありそうな猪を両肩に乗せて太蔵は山中を走り出す。

早く戻り肉の腑分けをしなければ、大物が狩れた喜びで足も軽く動き出す。



「あっ 太蔵さん どこに、、ひぃー」


新一くんが来ていたようだ。


「おう 済まん どうだいい猪だろう」


水飲み場の溜まっている水の中に猪をなげすてる。

小屋からナイフ類を集めて腑分けを始めなければ。


「・・これ 何キロぐらいあるの」


推定百キロはありそうだと説明する。


「これを担いで 山の中を、、」


悪いが あまりゆっくり説明している暇はない、肉が傷まない内に解体せねば。


「ごめん 俺少し席を外すわ」


どうやら解体作業を見たくないようだな。




二時間近くかかり解体は終了した。内臓は全て破棄する。近くの土を掘って捨てていく。

新一くんの自転車に積めるだけ積んで持っていってもらう。

まだまだ肉は大量にある。

夕食に食べる肉以外は燻製か塩漬けして保存にする。


「太蔵さん 凄いな、、」


ようやく落ち着いたのか新一が話しかけてきた。

それに苦笑いしながらきいているだけであった。


「太蔵さん、何故そんなに体力に秀でているんですか?失礼だけど目立つほどの大男でもない、体は確かに鍛えてはいるが常識の範囲の筋肉量だし、今回もそうだけど前回の格闘家の時に見せた俊敏性も僕にはどうにも理解が出来ない。新別府流奥義に何か秘密があるんですか?」


さて困った、異世界での修練のお陰だと説明しても頭を疑われるだろうし…。

新一の父も子供の頃自分の父と一緒に鍛錬を受けている。

新別府流に自分の力を何倍にもする秘技など無いのは知っているだろう。


「そうだね、どう説明をすればいいかな・・」


太蔵自身説明のしようもない事は百も承知だ。  

下手に隠しても嘘が嘘を重ねるだけだろう。


「・・新一くんは秘密を守れるかな、、、」


「む 無論です。私だって新別府流の関係者の一人ですから」


新一の言葉に嘘はない、彼の父も奥義伝承者ではないが、それなりの使い手である。

太蔵が行方不明になって数年後に今後の伝承者をどうするか話し合いがあり、場合によっては新一を正式にと白羽の矢が立つ寸前であった。


よし ならば真の実力を見せて打ち明けたほうが早いだろうと立ち上がる。


「太蔵さん 何方へ?」


「私の真の力を見せるために君に少し手伝ってもらおう」


外に出て周りを確認すると広場の片隅に一本の線を引いた。


「良し ここからあそこ迄丁度良い距離かな どれ・・」


太蔵は一歩一歩と歩幅を大きく広げながら歩きだし数を数える。

その後を不審そうについていく新一がいた。


 …96 …97 …98 …99 …100 良しこの地点だ。

その地点に先ほどと同じ様に木の棒で大地に横線を引く。


「新一君 現在の百メートル走の世界記録わかるかな?」


突然の質問に狼狽えながら新一は答えた。


「た 確か米国のカール ルイスの持つ9秒8前後だと記憶しています」

「ふむ 9秒8だね、、」

「・・太蔵さん まさか彼に挑むと?」

「はは 感がいいね、コースの距離も君の持っている腕時計も正規品ではないけどね」


非公認世界記録に挑むという、どう反応していいかわからず太蔵を黙って見ている。

無茶だ、特別な環境の元で練習に明け暮れている選手と競い合う??

いくら太蔵が修行で野山を走りまくっていてもかなう相手では無いはずだ。


「さて ご足労だけどもう一度最初の場所に戻ってスタートの号令を掛けてくれないか?ああ出来れば少し前からカウントダウンしてもらえると助かる」


新一は小さく頷きながら小走りで最初の地点に戻り始める、その次いでに高校進学祝いに買ってもらった腕時計のバンドを緩め片手に持つ。

どういう意図があるのか不明だが、まずは太蔵さんの言うとおりにしてみようと考えていた。


最初につけた横線の場所に戻り 自分の時計を覗き込んだ。


 よし、秒針が12の数字にきたらスタートだな…。


「太蔵さーん 10秒前でーす」


大声を上げて太蔵に知らせる。その声に太蔵が答えて片手を上げた。

太蔵は短距離選手がよくやるスタート法ではなく、長距離選手が少し身を屈めるスタート法で始めるみたいだ。


「5…4…3…2…1…スタート!!」


太蔵の体が反応して動き出す、流れるように加速しグイグイ速度が上がっていく。

傍目にもとんでもない速度で走り込んでくる。


「な なんだあの速度は?いかんタイムを」


あっという間に太蔵が目の前を通過していく。


 ええー?! 嘘だ こんなタイムが出るはずがない?!


新一は太蔵が目の前を通過した時の秒針の辺りを呆然と見ていた。

彼の時計の秒針はようやく10秒の数字を過ぎ去ろうとしていた。


勢いよく走り込んだ太蔵は急に止まれずに目の前に岩山が迫っていた。


 よいとな、、


彼は上に飛び上がり両足を軽く曲げ、両足の裏全体で激突のショックを減少して えい と力を込めると衝撃の反動を利用して後方にとんぼを切り静かに着地を済ませた。


「やれやれ 少し全力を出しすぎたかな うん?新一君どうした・・」


太蔵は時計を見て固まっている新一の側に歩き出す。


「た た 太蔵さん、嘘だ 信じられない、、」


近寄ってくる太蔵に気づいた新一は呆然と太蔵に呟く。


「うん? どのくらいのタイムが出たかな?」


息も切らさずに太蔵は尋ねる。


「ご 5秒から6秒の間で目の前を通過しました、、」


 ほう と太蔵は微笑む、正式な距離では無論ない。なれど太蔵は自分の歩幅にそれなりの自信があった、誤差も精々数メートル以内であろうと考えていた。


そうか 5~6秒で百mか、俺も人間離れしたな と太蔵は声をださずに笑い出す。


「な 何を笑っているのですか、とんでもない、そう人間では無理な記録です・・」


新一の言いたいことは分かる。タイムを半分に縮める事は空気抵抗の増大を考えると現在の筋肉量の2乗、つまり4倍の筋肉が必要となるという。

メカの改造人間でも無ければ出せない記録となる。


今だ呆然としている新一の肩を抱いて、ボロ家に向かい出す。




「ええ? 素の状態より5・6倍の力を出す事ができる?!」


ステータス板を召喚出来ないので、現在の素の力が如何ほどかわからないが間違っては居ないはずだ。

そんな人間などいる筈がないと ぶつぶつ新一は呟いている。

なれど現実は非情だ、目の前に存在している。

されど次の太蔵の言葉に更に新一は驚愕することになる。


「はい?! 異世界で身につけた力?!」


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