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遅れまして申し訳ないです。投稿日をまちがえました…。
都会の騒がしさから逃げ出して、この山中に来て半年が過ぎようとしていた。
今までどんなに長くとも数ヶ月しか過ごした事がなかったので、今のこの環境には満足していた。
好きなだけ武術や魔法の訓練を行う事が出来る。
もっとも魔法に関しては成果は0である。
本来は異世界とは違うと魔法の習得を諦めるのが正道と思われる。
だが太蔵は異世界における魔素と呼ばれる代わりに、この世界にもそれに匹敵する何かがあるのではないかと模索していたのだ。
一言で言えば未練がましく諦めが悪い男と言う事になる。
それだけ異世界で魔法の力に惚れ込んでいた事実があるのだと思っている。
現在自分のステータスさえ呼び出すことが出来ず、火魔法・体力強化等は夢のまた夢ごとと感じているのだが、何となくもしかしての一言に背中を押されている状態なのだ。
魔法を知らなければ何を馬鹿な事をしていると笑い飛ばすのだが、太蔵は異世界にて現実に魔法を体験してしまった。
一種の麻薬患者と同じようなもので、なかなかあの魔法を知ると直ぐには魔法は無いものと割り切る事が出来ない自分がいた。
だがその反面では単なる思い出だけと割り切る自分がいる。
その両面の中で太蔵は魔法の訓練を繰り返していた。
「おーい 太蔵さんいるのか?」
若い男の声がする、叔父の一人息子である 三橋 新一 現在16歳の高校生。
自分の自転車に乗りわざわざ尋ねてきた。
朝の武術の訓練が終わり、山の湧水場にて体を洗っていた太蔵が応える。
「おう 新一君 水場にいるぞ」
裏手に廻り太蔵が水場にて体を洗っているのを確認すると、真一はのんびり近づいていく。
だが途中で何気なく木の棒を拾い上げ、自分の後手にして隠していた。
「太蔵さん 父からの伝言なんですが、スキあり! あれ・・?」
いきなり持っていた棒にて太蔵に殴りかけた新一であった。
棒にて殴りかけた新一であったが、目の前から突然に太蔵の姿は消えてなくなり木の棒は虚しく空を切る。
太蔵の姿は横に数m程度いつの間にか移動しており、持っていた手ぬぐいで体を先ほどと同じ仕草で拭いている後ろ姿があった。
「す 凄いな太蔵さん、何故後ろ姿なのに自分の動きがわかるんだね?」
その声にようやく視線を新一に向け、微かに笑いながら。
「それなりの武術の達人なら簡単な事だよ。でもあまりお痛をすると・・」
ふん と太蔵は殺気を新一に放った。
「ひっ! ま 待ってくれ太蔵さん 体が・・」
突然体が固まり膝がガクガクと震えだす。
「まったく あんなに本気を出さなくても、、」
殺気の呪縛からようよう開放された新一はぶつぶつと文句を言い出す。
「所で叔父さんの伝言とは、また例の・・」
「はは 当たりだ、剛強流の谷上 何とか氏からの立ち会い希望だ」
何処から流れた噂か知らないが、この所こんな片田舎にまで腕自慢の立ち会い希望者が増えてきた。
おそらくは異世界からの帰還時に古流道場への修行にて5年ばかり、計10道場を訪問しての技の研磨をしてきたのが何時しか面白くないと感じたものが居たようだ。
過去にも何回か野試合とはいかぬが、それに近い対決をこなしている。
当時勢いのあった若手プロレスラーとも対峙した事がある。
無論異世界でのレベル47は伊達ではない、半分の力も出さずに相手も怪我を与えぬよう配慮したのだが、どうやら其れ等が逆目に出たようだ。
つまり何がなんだか理解できぬうちに気絶させられ、自分の身にはこれと言った怪我もない、そんな状態ではいつしか負け惜しみの口調で知人に吹聴した者が何人かいたのだ。
あの男は大した事はない、もう少しで自分が勝てたと・・。
それでも全勝の噂はその界隈では常に噂の対象として三橋は語られていた。
古流から最新のキックボクシングのそれなりの猛者たちが三橋の所在を探していた。
無論 酒を酌み交わし武術の奥義を互いに交わすのであれば太蔵も歓迎するが、腕自慢で一旗揚げて世間に注目されたいと思う者がほとんどだ。
太蔵は苦笑いを浮かべ叔父さんに迷惑はかけられない、こちらに案内してもらうように新一君にお願いする。
「俺も見学していいよね?」
承諾すると嬉しそうに自転車にて麓の村に向かって走り出す。
「仕方ないな、また例の手で相手の様子を確認するか…」
太蔵はレベル40になった時に新スキルを授かった、特技複写 レベル1 というあまり聞かないスキルではあったが、相手の同意があれば他人のスキルが複写出来るという少し変わったものである。
当初 どう対応するのか悩んだが、田嶋氏が面白半分にて自分の他者の心を読むと言う スキルを試しに使ってみろと提案があり、そのスキルを発動してみた。
結果的にスキル追加に成功したが、まだレベル1の段階では相手の心の声は聞けずに、その気になって相手を観察すると陽炎みたいに背面からオーラ?状の光が浮かび上がる。
これは何だと 色々な人を観察すると オーラの色が変化する事が判明した。
血気盛んな者達は赤々と眩しく光りだす、通常の市民達は青に近いが一部の人達は暗色に浮かびだす。
甚だしい者は濃い灰色となる、さらに限りなく黒に近づく者もいた。
それも会って話し出す前は青系なのに、段々と話しが進むと暗色系に変化する。
ここで太蔵はもしやと思い、後日その人物をよく知る者に会った人物の評判を聞くと散々たる批評が判明したケースがあり、これにより相手の心の奥を表わしている色であると理解した。
つまり嘘や傲慢な心を持つものは暗色系に変わっていくと判明したのだ。
ある意味相手の心がわかるスキルには間違えない、それに魔力も使用する事なく発動出来る。
なれど当時の太蔵はレベル上げと魔石回収に追われ、正直このスキルはあまり使用することなく現在に至る。
面白半分に魔物にも数回使用した事があったが、全て暗黒色のオーラに包まれていた。
この世界に帰還して暫くはこのスキルも使用できないと勝手に思い込んでいたが、ある道場にてやけに太蔵に絡んでくる高弟に閉口してつい本心をと思い発動したのがこの世界での初めてであった。
案の定この高弟は暗黒色のオーラに包まれていた。
ここの道場主に太蔵は可愛がられてほぼ奥義を伝授されていた、それを良からぬ事と考えた高弟が不満を抱いての抗議であった。
当然といえば当然かもしれない、太蔵は表向きは24歳だが、実際は19になったばかりの若者だ。
まして他派の若造が突然奥義を伝承されるのはかなりの抵抗があったのであろう。
道場主からの計らいでその場は一旦収まったが、後日闇討ちに近い行いで対決する事となった。
結果は敢えて言うまい、そもそもの地力に差がありすぎた、それさえ分からぬ高弟であったのだ。
この世界での初めての他流試合になった事件だ。
それ以来おそらく太蔵の見かけの若さに判断を誤った者からの野試合が続いている。
当然中には礼をもって太蔵に接してくる者もいる、そんな人物には寸止めにて格の違いを何度も味わせれば丸く収まるケースもある、なれど一度自分の未熟を認識した者が隙きを見かけて突然に攻撃してくるケースもあった。
無論オーラに頼ること無く太蔵はその卑怯者を倒してはいる。
でも最初から相手の腹の内がわかるならそれに越した事はない、其の様に対応すればよいだけだ。
今回も相手の心を最初から探る作戦に出る予定であった。




