26 【1部完】
第一部完了します。 第二部からは 帰還編 を投稿します。 再開まで暫くお待ち下さい。
太蔵はおねだりして風呂に入浴させてもらう。
久しぶりの風呂気分を満喫して戻ると何と岡田氏がその席にいた。
「お久しぶりです。お元気でしたか?」
「君も変わらず何よりだね」
三人揃っての対面は数ヶ月ぶりとなる。
メイドには悪いが席を外してもらい太蔵はこれまでの事を報告した。
「そうか とうとう準備が整ったか…よく頑張ったね」
二人は太蔵の努力が叶う時がきたと感じていた。
「お二人は私が無事に日本に帰れた時に誰かに言付けなど無いのですか」
あれば喜んでメッセンジャー役として伝えたいと確認する。
「「いや 改めて伝える人はいないな」」
「…そうですか 了解しました」
戦争孤児と捨て子の二人は文句を言いたい人はいるが、特に言付けを必要とする人はいないとの事だ。
太蔵のように恵まれた家庭とは違い、歯を食いしばって今まで生きてきた二人である。
「それで いつ決行するんだい」
日本に帰還する決行日の確認であった。
「はい 近日中ですが、其の前にしたい事があります」
怪訝そうな二人に太蔵は胸の内を明かす。
「「何とそれは本気で?」」
両氏が思わず固まった。
「はい 場合によっては皆さんに迷惑が及びかも知れませんので極秘に対応…」
「うーむ 今は仮にも私達はこの国の下級貴族でもあるので、なるべく穏便にな…」
「はい 私も命までとは申しません。なれどあの女だけはしっかりけじめをつけたいと思っています」
「うーむ 確かに闇に消えた同胞の為にもな」
「しかし王宮にどうやって忍び込む?」
「そこなんです問題は、せめて一度行った事がある場所なら手はあるのですが…」
「騒動は問題外だしな…」
「…まてよ彼女の執務室までなら手があるぞ」
執務室の横の部屋が彼女の寝室になる、ただし側人の部屋も隣同士となる。
側人は夜中でも彼女からの呼び出しに対応出来るように隣室が通常の居住場所になっている。
彼女の周辺の見取り図を書いてもらう、これで位置関係が理解出来る。
暫くその地図を見ていた太蔵はふと思いつく。
「この側人の部屋は扉が離れた場所にもう一つありますね」
「ああ 確か厠に行く時に利用する扉があるな」
まさか主人の厠を利用する事など出来ない。それに警備兵達も夜中に用を済ます時に利用する厠がある。
その厠に行く側に扉がもう一つあるのだ。
「将を射んと欲すれば先ず馬を射よ ですよ」
「…側人の部屋に侵入か?」
「何とか側人の部屋を尋ねる口実はないですか?」
「「うーむ」」
「待てよ あの側人は珍しい品に目がないな」
「ふむ それは聞いている しかし我ら貧乏貴族には…」
「実はある、それも異世界品がな」
「あっ しかし着の身着のままでの召喚で…」
「いや 俺は一つだけ身につけていた物がある」
少し待てと座を外し隣の部屋から小さな箱を抱えてきた。
「使わずに仕舞い込んでいたんだ」
そう言って木箱を開けて中を見せる。
「「腕時計!」」
当時はやったゼンマイが自動巻きで作動するタイプになる。
「ボーナスで買ってそんなに使用していなかったんだ」
ボタン電池で動く前の品物になる。
「…いいんですか?思い出の品では?」
申し訳無さそうに太蔵は尋ねる。
「はは 構わないさ あの女は正直私も一泡吹かせたいのだよ」
三人はにっこりと悪い顔で笑い出す。
後日お側御用人に献上目的で予約をとり、田嶋を先頭に後ろに恭しく木箱を両手で掲げて歩く使用人に化けた太蔵が用人の裏口扉に到着した。
「これはお側御用人様におかれましては…」
「よいよい タジマ卿 中にお入り下さい」
田嶋に続いて太蔵も用人の部屋に入り込む。
「して どのような珍しい品を?」
「はい この品は私がおりました世界で……」
田嶋と用人が献上品についてあれこれと話し合いが続く、その間太蔵はこの部屋の特徴等をしっかり頭の中に叩き込む。
「なる程これは良い品を、今後何かお困りの節にはこの身どもにご相談を…」
「これはこれは 誠に有り難いお言葉を…」
ようやく二人の会話は終わりを迎えた。
帰りの挨拶を終え二人は帰路につく。
迎えに来た馬車の中で二人は短い会話を交わした。
「首尾は?」 「バッチリ」 二人は声を出さず笑い合う。
最終準備と宮殿見取り図をもう一度確認後、太蔵はある真夜中に行動を開始した。
客間に寝ていた太蔵は起き出し、用意した黒衣装と顔を隠す不気味な仮面をつけ庭の片隅に誰にも見られぬように転移する。
その庭の片隅に隠してあった品を背負い、再び集中すると再度転移にて姿が消えた。
同時刻太蔵の姿は王宮の奥深く側用人の部屋に突然現れた。
深夜である、到着と同時に伏して気配を消す、暫くこの部屋の主人の寝息を辛抱強く確認する。
やがて静かに立ち上がり、もうひとつの 扉を開けて中に入ると静かに扉を閉める。
その部屋は執務室として使われる大きな部屋であるが、この真夜中では誰も人の気配はない。
部屋を横断するように静かに移動する、床にはかなり厚めの絨毯が引き積められ消音に関しては問題ないが用心に越したことはない。
進行方面に二つの扉が見える、一つは侍女達が待機している部屋。
もうひとつの扉の中が目的のあの女が寝ている寝室となる。
寝室の前でまたもや気配を消して暫く中の状態を窺う。
長い時間が経過し何も問題ないと判断した太蔵は、細心の気をつかい音が出ぬよう静かに静かに扉を開けていく。
中に入りまたもや細心の気遣いで静かに閉めていく。
目的のベットに近づいて再度気配を消す。
静かな寝息が聞こえる、なれど太蔵は動かない。
しつこいほどの時間をかけて相手の気配を何度も慎重に確認後に太蔵は動き出す。
籠に入っている大きな厳重な袋を取り出して、袋の口が寝ている女の顔にくるように調整するとにやりと笑い片手で塞いでいた手を袋の口から離すと、中から得体のしれない物体が勢いよく女の顔やその周辺に広がり落ちた。
袋の中身は太蔵の集めた牛や豚の大量の糞尿であった。
物凄い勢いで女の顔を中心にばら撒かれ、女は悲鳴を上げようとしたが開いた口に牛豚の糞尿が入り込む。目や鼻にも入り込む。
呼吸が出来ず両手で得体の知れない物体をはね除け、口の奥深く入った糞尿を激しい咳込みで押しのけようとしている。
周辺は悪臭が一面に佇む状態となった。それでも彼女の咳込みは止まらない、ようやく息が出来る状態になり同時に城中に悲鳴が響き渡る。
この世の者と思えないような悲鳴に隣室の侍女が走り出し、警備の兵も 何事と部屋の扉を開けた。
ざまあ くそ女と太蔵は笑い出す、寝室の扉が開かれる寸前に転移にてその姿を消した。
侍女や用人それに警備兵が慌てて寝室の扉を開けた時に、まずその悪臭に気づく。
そして気が触れたように暴れているこの国のトップの姿に暫し何も出来ず、皆がその光景に固まっていた。
庭の片隅に転移した太蔵は声を出さずに必死に笑いを堪えていた。
我慢しても我慢しても笑いがこみ上げてきた。
長い時間をかけてようやく笑いを堪えた太蔵は庭の端に座り込み星空を見上げていた。
どれほどの星が輝いているのだろうか、やがて太蔵は満足げに呟く。
これで思い残す事なく帰れる。
翌日 太蔵は皆に見送られ、この世界との別れの為に人に見られぬ場所にて転移魔法を行うのだ。
半日近く動き回り森の外れに小さな岩山を見つけるとその頂上にて腰をおろした。
自分の周りにありったけの魔石を円状に置いていく。
転移の魔導書は範囲1メートル以内の魔石に反応するようにあの婆さんが作ってくれた。
成功するか失敗するかは五分五分と見ている。
しかし失敗しても良いと太蔵は考えていた、最後にあのくそ女にひと泡吹かせる事が出来たのが、太蔵に満足感を与えていた。
さてそろそろ始めるか、場所を設定せねばと思った時に不意に浮かんで来たのはあの公園だった。
本来自分の家を目標にすれば良いが、そもそもの始まりはあの公園から始まった。
家の近くのあの公園は小さい頃からの太蔵の遊び場でもあった。
そうかあの公園で始まったのなら、あの公園で終わりにせねばならない。
馴染みの公園だ、風景を思い浮かべるのは問題はないはず。
では 始めよう。
積んだ魔石の上に羊皮の魔導書を置く、そしてそっと手を翳すと思い切り魔力を注ぎ込む。
運べ あの公園へ! 転移!!
物凄い光の渦が天に向かい渦巻く。
その光の渦は昼間だと言うのに離れた首都の人々からも目撃されて、大騒ぎになっていた。
だが 太蔵はその最中 公園へ 公園へ とだけを思い続けている。
恐ろしいほどの光の渦が収まった時には太蔵の姿はなく、この転移が成功したか失敗に終わったのかは誰にも確認のしようがない事であった。
[第1部完]
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