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その男 異世界帰り   作者: 西南の風
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翌日から約束通り転移の魔法を習い始めた太蔵である。 

そして講師役は魔道具屋の店主であった。


「なんじゃ その不服そうな顔は?」


「だって婆さんは当初転移魔法など知らぬとほざいていたぞ」


「カカカ 大事な転移魔法じゃぞ、見も知らぬ一見のお前に知っているとホイホイ答えると思うか?」


「そ それはそうなんだが…まぁいいか」


講師役が店主とわかってつい不満顔になってしまった太蔵だ。


「着いてこい 誰にも見つからぬ様に場所を変えるぞ」


店主は先頭に立ち森の奥に進んでいく。

後ろから追いかける太蔵はふと思い出して店主に問いかけた。


「なぁ婆さん 魔法で少し聞きたい事があるんだ。自分の顔を認識出来なくする魔法なんて存在するのか?」


「何じゃ?藪から棒に…自分の顔を認識出来なくする魔法とな…」


先頭を行く店主は怪訝な顔を一瞬浮かべて太蔵に一瞬振り向いた。


「ふむ…儂等人族はそんな魔法は聞いた事がないが、儂の記憶では森の住人達は、確かそれに似た魔法を使うと聞いた事があるな…」


「森の…住人?」


「何じゃ知らぬのか? エルフ族じゃ」


「エルフ…族?」


「えーい 何も知らぬのじゃな、耳の尖ったエルフ族じゃ」


「…おう! 街で見た事があるぞ、確か耳が異様に長くて…」


「違うわい それは長耳族じゃ、耳の大きさ自体は儂らと左程違わんが先端が尖っておる。本当に何もしらぬのじゃな」


何か怒らせたのか店主が機嫌が悪くなる。


「スマン 無知は謝る。何せこの世界はまだ半年だし、レベル上げに忙しくこの世界の事が殆ど理解していない…」


「…別に謝らんでもよいわい。彼等は長命族でな、場合によっては700年以上は生きるらしい、そして…」


彼等が得意とするのは精霊魔法で、豊富な魔力で不思議な精霊魔法を操るそうだ。


「な なる程、実際にそんな魔法がこの世界にあるんだな…」


納得したと一人うんうんと頷く太蔵に、又もや店主は不思議そうな顔を向けた。


「何じゃ そんな魔法に興味があるにしては随分諦めが良いな…」


「いやいや そんな魔法が存在するかの確認が取りたかったのと、その精霊魔法?何となく聞いただけでも特殊な魔法なんだろう? 俺ごときが使いこなせるとは思えんし…」


「カカカ 正解じゃ。是非覚えたいと希望すれば、正にその言葉を返す予定じゃった」


さも愉快そうに店主は笑い出した。

何だ、怒ったり笑いだしたり年寄りは気分変化が激しいのだな と太蔵は呟く。


「馬鹿もん!聞こえておるわ」 再び謝る太蔵であった。 地獄耳め…。




「…よいか、今教えたことが全てじゃ。納得したなら試しに使ってみよ」


「…なぁ婆さん、本当に説明はこれだけか?行きたい場所を出来るだけ鮮明に思い出すだけで良いと…」


「嘘はつかんわ、転移魔法は神からの恵み魔法と別名呼ばれておる。最終的にはその魔法の適性があるか無いかのシンプルな魔法だ。才能があればほぼ一回で成功するし、適性がなければ一生無理と言うわけじゃ」


そして転移魔法の適性者は数万人に一人の確率らしい…。

この魔法を発動する者が高待遇で採用される理由がよくわかる。


「まずは この紙に手を置いて確かめて見よ」


転移魔法の術式が書き込まれた魔法陣が紙に記載されている。

この方式ならば数百人に一人の成功率らしい、なれどただでさえ転移魔法は効率の悪い魔法で、まして紙に書かれた魔法陣を触媒にするなら更に魔法必要量は倍が必要となる。


「ほれあそこに見える大きな木の下に転移してみよ。魔力はケチるな、全部の魔力を注ぎ込む気持ちで魔法陣に一気に送り込め。必要以上の魔力は消費せんから安心せい」


「…なぁ婆さん 確認なんだが、もし目的地までの魔力が足りない場合はどうなる?」


「知りたいか?楽しい結末が待っておるぞ、過去何人もの魔道士が魔力不足により何故か大空から落下して死んでおる」


それは惨たらしい最後であったと店主は意外と冷静な返答を返す。


「…大空から 落下…?」


「そうじゃ 身の丈にあった距離を選ぶことが転移魔法には特に求められるな」


嬉しそうに笑顔を浮かべている…。

太蔵はその回答にゾッとして身震いが出てきた。

そうか()()の儀式はそれが目的なんだと…。


「何じゃ 何を震えておる。あの大木まではわずか百米程度ならお前の魔力量で全く問題ないわい」


 いや そうではなく、儀式の送りでどれだけの日本人が犠牲になったのかと…。


「さぁ 紙の魔法陣に魔力を注ぎ込め!」


目標物をしっかり認識して太蔵は大量の魔力を注ぎ込んだ。

それはどう表現すれば良いのか、周りの景色が妙な形でねじ曲がると一瞬の闇が襲う。

そして気がつくと太蔵は大木の下に場所を一瞬で移動していた。


なれどその後に激しい頭痛と吐き気が太蔵を襲った。


「よーし ひと心地着いたら転移でここまで戻れ」


婆さんが年寄りとは思えぬ大声で叫んでいた。

息を整え再度転移魔法を発動させて太蔵は店主の元に戻りつく。

と同時に激しい頭痛と吐き気でしゃがみ込む太蔵であった。


「カカカ 慣れじゃ 慣れ、そのうち快感に変わるぞ?」


 おい、、何故最後が疑問詞なんだよ…。



数度の転移魔法の発動により魔法陣が記載された術式では問題なく転移が可能である事が確認された、此れからが本番となる。


別の紙に書かれた転移魔法の呪文をスラスラと間違えなく唱える練習が始まり、問題なしのレベルと判断した店主は更に細かい注意点を太蔵に話す。


「よいか 何度も繰り返すが目的地の出来るだけ鮮明なイメージと発動時には全魔力を注ぎ込む勢いで事にあたれ。中途半端な魔力は自分自身の破滅になるぞ」


まずは先程も利用した大木までの転移が成功するかの実験となる。

心を落ち着かせ精神の集中を行い、大木の位置を心に刻み呪文を唱え始めた。

呪文完了に合わせ体内の魔力をフル活動させる。


「…ダメじゃな」


何度も繰り返し転移魔法を発動させようとしたが、一向に魔法は発動の兆しはみえない。


「…ハァ ハァ 駄目か 俺では無理なのか…」


「そう悲観するな 書かれた魔法陣で転移出来るだけでも凄い事じゃぞ。選ばれた者として誇らしい事ではないか、そうは言っても問題は…」


「…書かれた魔法陣では圧倒的に魔法量不足だよな」


項垂れる太蔵にニヤリと笑いながら店主が話し出す。

 

「まぁ 解決策が無いこともない。魔石を利用するのじゃ」


おう それこそ太蔵が考えていた事でもある。


「やはり魔石は利用できるのか?」


予想はしていたが専門家からのアドバイスとなれば一安心となる。


「その口調は多少は知っていたのかい?」


素人ながら数人であれこれ考えた結果でそれに行き着いたと説明した。


「ほう いい所に気づいたようだ、但し羊皮に書き込む手間と一部現行の転移魔法をいじり込む作業が追加されるので価格はそれなりになるよ。まぁあんたは私の()()に答えてくれたし割引するけどね」


おうおう ぜひともお願いしたい、依頼に答えたとは例の白い影の人の事か…。

太蔵はふと自分の手を広げて思い出していた。


「…なぁ 婆さんからの依頼で会ったあの人はもしかしたらエルフ族なのか?」


すーっと今までの和んだ空気がとたんにピーンと張った空気に変化し始めた。


「…だとしたらどうなんだい?詮索はあまりして欲しくないのだけど」


「いや 詮索どうのと言う話ではなく、その…手が覚えているんだ」


「…手が?」


5夜に渡り情を交わした相手だ、相手の体をくまなく愛撫した折に顔にも何度も太蔵の手が行き交ったのは仕方ない事だ、そんな折ふとその手は彼女の耳にも何度もタッチしていた。

それで思い出したのは朝方に婆さんが説明したエルフ族の特徴だ。


婆さんはエルフ族の耳は人族と左程違わないが、先端が尖っていると話していた、いま正にその特徴に一致する事をこの手が覚えていた と説明を始めた太蔵だ。


「ふう なる程、手が覚えているか…まぁこの話しは終わりだ、本題に移るよ」


白い影の彼女の話しは無理やり中断され、彼女は転移魔法の書かれた羊皮の価格を提示した。



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