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突然扉が開かれると声をかける暇もなく巨大な火球が太蔵めがけて飛来した。
うおおーっ!!
殆ど反射的に太蔵は側面に転がり込んでその火球から身を守る動きをした。
物凄い爆裂音と火球の熱が太蔵を襲った。
懸命に太蔵は転げ回り距離を離す。
「ちっ 意外と素早い動きを…」
家の中から魔道士特有の大きな杖を持ち、昨日の婆さんが残念そうにのたもう…。
婆さんは続けて魔法始動の準備にかかっていた。
「ま 待ってくれ、昨日の詫びに訪問したんだ。話を聞いてくれ!」
太蔵は冷や汗をびっしょり流しながら頭を地面に擦り付けながら大声で訪問目的を述べた。
「……」
静かな沈黙が流れた、恐る恐る頭を上げて婆さんを確認する。
そこにはいつでも魔法攻撃が可能な状態で太臓を睨みつける店主がいた。
「頼む 詫びと説明を聞いてくれ」
再度太臓は頭を地面に擦り付け何度目かの詫びを入れる。
ようやく懸命な太蔵の説得が届いたのか、それでも用心しながらの動きで店の中に入れと許可される。
まったく無茶苦茶な婆さんだ、自分だからギリギリ逃げられたが普通の者なら黒焦げになっていたはずと太蔵は心の中で呟いていた。
「お前 何者だ?」
一通りの詫びと手土産を受け取った店主は小さなテーブルを挟んで座る太蔵に問うた。
「…先に話したように現在城の中で仮住まいの 三橋 太蔵と…」
「違う お前の正体だ」
言葉を遮って店主は核心をついてきた。
「聞き慣れぬ名字と名 そしてその容姿、お前もしかして…」
ありゃバレたかな、黒髪・黒目だけであるならこの世界で東方地区に多く住んでいると聞く、なれどその風体そして名前の響きで感の良いものは察する事が可能であろう。
「…やはり 異世界人か。しかし何故転移魔法に興味をもつ?最初に言っておくが儂は転移魔法は使えぬぞ。なれどお前が何故その魔法に興味をもつか聞いておきたい」
ここで太臓は少し考え始めた、この店主の正体がこちらは分からない、迂闊な事を喋って通報される危険性がある。ここにきてのゴタゴタは避けたい。
それを感じたらしく店主はニヤリと笑い話し出す。
「見ての通り世捨て人に近い状態だ、今更わずかな金を貰い喜ぶような真似はしない。場合によっては協力出来るやもしれん。正直に話してみよ」
協力と言っても転移魔法を知らぬなら…ああ そうかこの歳の魔道士なら誰か知り合いに転移のスキル持ちがいるかも…紹介の目があるか。
太臓は思いきって話すことにした、万一通報されても最悪この地を離れ、国外に脱出すれば男一人生きていけるかと考えたのだ。
「…実はこの件に関して…」
太臓は胸の内に溜まっていた 送りに関しての疑問点を次々に提示して、できれば独力にて祖国に戻りたいと説明を行った。
長く溜まっていた不満を一気に喋り出す太臓に店主は辛抱強く聞き入っていた。
「ふうむ 概ねお前の説明に不審点はないように思う。さて、どうするべきか…」
店主は急に黙り込み暫しの長考に入る、やがて考えが纏まったのかゆっくりと口を開いた。
「後日もう一度来れるか?一人紹介をする、なれど一つ条件がある」
「おお その条件とは?」
だがそれは思いも寄らない条件を提示された。
「その者は子を欲しがっている、その者と交じわい子を作れ。丁度数日後より発情期になり妊娠しやすい筈よ。5日間深夜忍んでまいれ、それが条件よ。どうだ受けるか?」
一瞬呆気にとられ口を思わずパクパクと動かした太蔵であった。
「どうした返事は?聞く所に寄ると異世界人とのハーフは優れた能力を授かるという、彼女はまだ若いしなかなかの美人だぞ。返事はいかに?」
見ず知らずの女性と交わい子を為せという、流石にどうすべきかと悩んだが今後転移魔法を新たに追いかけるとしたら、いつそのスキル持ちに会えるか不明だ。
「…子を為すかどうかは保証できんがそれでも良いのか?」
「構わん 子は天からの授かりものだ。して返事は?」
太蔵は小さく頷いた。それを見て店主は満足げに大きく頷き、ついてこいと奥へ進む。
店主の後からついて奥に進むと居住空間になる。
左右に二つの扉があり、左手のドアを開いて中に入る。
その部屋は左程広くはなく、中には一つベットと収納タンスが置かれている以外は特に何もない部屋だ。
「一応ここが客間だ。夜中に忍んできたらこの部屋に入れ、相手が待っている。間違えても右手のドアを開けて中に入るな。儂が寝ておるからな、まあ歓迎してやらんこともないが…」
そう言ってニヤリと笑う。勘弁してくれ婆さん、今だ現役かい…。
「…了解した、でも玄関の鍵は夜間開けっぱなしかい?不用心では?」
「カカカ ここは魔道具屋じゃ、撃退用の道具は色々あるぞ」
確かに防犯上の魔導具もあるのだろう、興味はあるが詮索はしないでおこう。
それ以上の詳しい内容は全て後日話すとの一点張りにて今日は引き上げざるしかなかった。
それでももしかしての希望が見えてきたのは太蔵にとっては大収穫となる。
夜間訪問日の打ち合わせを終えて森の魔導具屋を後にする。
「大丈夫なのかい?その魔道士の婆さんは」
昨日外泊をして帰ってこなかった太蔵を心配して二人が集まった。
この二日の出来事を聞いて驚いていた。
と 同時に本当の事なのか心配しているのだ。
「まだ少し時間があり余裕はあるのだが…」
勇者の到着が遅れているのだ、各都市にて歓迎の儀式があり予定より大幅に遅れているそうだ。
これはある意味チャンスでもある。
勇者到着まで出来れば転移魔術を覚えたいものだ。
今後数日暇があるのでレベル上げと魔石回収に力を注ぐ予定だ。
なんせあんな婆さんの発する火魔法にビビってしまったのだ、少しでもレベル上げの行動をしておきたい。
二人は苦笑いをしている、もう少しで官位が手に入る。
本音は出来るなら安全に過ごしたいのだ、なれど太蔵の気持ちも理解している。
二人はやれやれと笑いながら同行を承諾した。
上級ダンジョンの慣れもあろうが、太蔵は目覚ましいほどの進化をしていた。
単独でもダンジョン攻略が可能ではないかと二人は感じていた。
万一には備えるが基本三度の食事の手配ぐらいしかする事がない。
太蔵は鬼人の如く働きで魔物を次々に倒して魔石回収に注力する。
近くの転移なら必要ないであろうが、日本にまで帰る為の魔力は膨大な魔法量が必要となる。
最低魔道士10人分の魔石回収を必要とする。
其のための魔石量は当然膨大な量を必要とする。
太蔵は必死に魔石回収に動き回る。
森の魔導具屋へ再訪問の日が来た、移動は午後からでも十分時間がある。
午前中に待ちわびた品が届く、新品の魔法袋である。
数日前に城の使いから今後の身のふりの最終回答が求められた。
流石にこれ以上は引き延ばせないと判断して、太蔵は予てから用意していた回答を提示した。
今後はこの地にて冒険者として身を変え在野にて過ごしたいと伝えた。
無論方便であり、本音は転移魔法にて帰還するべき活動になる。
官位は必要ないがこれまでの報酬として上位クラスの魔法袋がほしいと希望してみた。
その願いは聞き遂げられて後日魔法袋と一枚の書類が届いた。
現地の文字に関しては今だ慣れていない、仕方なく田嶋氏の付き人に読んでもらい内容を確認してみた。
すると誠に馬鹿らしい文面が書き込まれていた事が判明した。
平たく言うと天下御免の性交渉許可書である。
何だこれはと皆が目を丸くする。
つまりこの国の女性に関して高・中位貴族を省いて希望すればどんな女性とも性交渉可能と書かれてある。
拒絶した者は役人に訴えれば厳罰を与えることが可能であると…。
しばし皆の目が点になる。
ようやく正常に戻った皆が大きくため息を吐いた。
あの女の魂胆が透けて見える気がした。
在野で思う存分女を抱いて子を為せと 異世界人の血を分け与えよという事だ。
異世界人とのハーフは特別な子が産まれる可能性が高い、少しでもこの国の発展に利用しようとの考えであろう。
黙って魔法袋の奥に乱暴にその書類を押し込め、太蔵は今晩からの5夜の為の準備にかかる。




