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その男 異世界帰り   作者: 西南の風
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ラーシャにとっては当初は確かに金の縁にて巡り合った太蔵であった。

だが男と女の関係は単純な流れで収まるものではない。

当然太蔵にとってもいつしかラーシャは自分のパートナーとして欠くことのできない存在になっていた。



田嶋と岡田の両氏は勇者グループの成功の連絡を受けて辛いレベル上げには興味を無くしていた。

黙っていても下級貴族の道が開け無理する意味がなくなった、万一ダンジョンにて取り返しのつかない事になればその後の生活にも関わるので当然と言えば当然である。


なれど太蔵は少し意味が違っていた、なんとかして祖国へ帰りたいの一心からもしかして魔石による転移移動にて安全に帰る事が可能になると考えてから、嫌がる両氏の何方か一人を同行役として順にお願いしてダンジョン訪問を繰り返した。


目的はレベル上げより魔石収集が主行動であった。

これまで魔石は城のギルド店にて現金に変えて、将来の高級な装備品代として貯蓄していたが転移魔法として利用できそうな魔石を出来るだけ多く集めるべきと考えたからだ。


魔石は重量が倍になっても質量が倍にとはならない。

逆に2乗に比例する、つまり大きな魔石程その効力もケタ外れに強力になる。


大きな魔石は強い魔物にしか存在しない、強い魔物を刈り取ってやると太蔵は動いていた。

基本一人にて上級ダンジョンの魔物に戦い続けた、万一の時に同行者のお世話になる可能性はあるが、目的を持った人間は一皮向けて動きも前とは別人の如く変わっていく。


「太蔵君 ほぼ一人で魔物対応してから半月近く経つがレベルはいくつまで上がったのだ?」


同行をお願いしている岡田氏がダンジョンの安全地帯で疲れ果てて壁に持たれている太蔵に問うた。


「えーと…やっと43ですね」


ステータス板を確認して現在のレベルを確認する。

前まではレベル上げに夢中であったが、現在は目的が魔石集めに変化した為にレベルに関しては半分興味が失せていた。


(あっ 新しいスキルが追加された…)


小さく呟く太蔵の声は飯の準備に忙しい岡田にはよく聴き取れなかった。


「うん? 43なのか、凄いね3引き離されたか…」


岡田と田嶋両氏は当然レベル上げなど興味はなく、今は懸命に帰還の為に努力している太蔵の夢を叶うように協力しているだけだ。


「そうそう アレックス氏も密かに動いてくれて首都内にて心当たりの者を洗い直しているよ」


転移魔法に関して50年程前にあった手掛かりを追って、それらしい人物かその子孫を探索している途中なのだが、今現在該当する人物の手掛かりは無いらしい。


「済みません 私事に皆さんの協力をお願いして…」


「気にするな、俺達と違い君は帰還を選んだのだから俺達も協力するさ」


出来上がったスープを味見しながら岡田氏は笑って答えた。

もう半月もすれば勇者グループが帰ってくる、国を上げての歓迎会が開かれた後に各個人の待遇が発表されてそれぞれの此れからの方針が決まる。


それとなく太蔵のところにも使者が今後この地に残るか帰還かの打診が届いている。

それに関しては現在未定で考え中であるとだけ回答してある。


転移魔法に関して何とか知りうる者を探し出し、出来れば転移魔法を伝授してもらいたいが、今現在その魔法に関しては平民クラスでは見つけ出す事は困難なようだ。


かと言って帰還の道を使者に伝えれば、正直に元の世界に送ってくれる可能性がほぼ0であろうとかんがえている。

それほどあの()()()に対して不信感を抱いている。


帰還の道を選べばあの女にとって待ってましたと微笑みながら別世界に転移させられる危険性が待っている。

貴族職を新しく設立すれば今後多大な金額と領土の分割を必要とする、それに一番の問題は帰った後で異世界人による人攫いが公になる可能性もある。


今後ともひっそりと儀式を繰り返す為にも情報漏れはこの国にとっても禍根を残す、ならば帰還と言いながらとんでもない場所に置き去りにすれば証拠隠滅も図れる事になる。


通常ならそんな馬鹿な 勝手に召喚して恩知らずなまねをと抗議対象だが、死人に口なしとなれば誰も確かめられる話ではない事からうやむやが罷り通る状況となる。

転移など互いの信頼関係なしでは出来ない荒技なのだ。


そしてその一番の信頼関係はほぼ0と太蔵等は考えている、それを嫌って下級貴族になり転移魔法を探す手もあるが、何かに付けての監視がつくのは当然だ。

少しでもおかしな行動をすれば直様排除の動きが出るだろう。


はっきり言って今の太蔵には時間がない、このまま転移魔法に巡り会えなければ適当な理由をつけて在野に下り根気強く転移魔法を追いかけるしか無いと思っている。


そのためにも魔石集めとレベル上げがより一層大事な事となる。

最悪この世界で生き延びる為にも…。

レベルを上げておけばこの世界何としても一人なら生きていけるからだ。


ちらっとラーシャの事が頭に浮かんだが、彼女を巻き込むわけにはいかない。

彼女の両親にも災難が飛び火するのは確実だから。



そんな太蔵の思いとは別に今ラーシャにとっても事件が起きていた。


「懐妊…したんですか?」


「うむ 御目出度う、間違いないと思うよ。体を大事にね」


軍の担当医から待ちに待った報告がラーシャの耳に響く。

この一週間ほど何か調子がいまいちであり、軽い吐き気もありもしかしてと軍医の元に尋ねたのだ。


軍医の部屋から出て自分の部屋に戻るまでラーシャは任務達成の喜びに満ち溢れていたが、自分の部屋に戻り着き少し冷静になると太蔵との別れがこれが決定的に成った事に思いつく。


任務達成まで残された期間はもう一月を切っていた、半年経っても懐妊の印がない場合には太蔵の元を去り新しい女性が太蔵の付き人となる。


正にギリギリの時間しかなかったのだ。

場合によっては多少の延長期間が認められるケースもあるが、この場合は主に太蔵が大怪我や病気により男女の行為において無理があった場合しか認められない。


懐妊した事により彼女は国の管理の元に移動されて、彼女の国元には懐妊の成功として多額の金額が支払われる事になる。


これで多額の借金の返済の目処がついた事になる。

両親の今後と領民の未来に希望の光が射す事になろう、なれど太蔵との別れ…。

ラーシャは喜びと悲しみの板挟み状態であった。


太蔵がダンジョンから帰ってくる明日が太蔵との最後の別れとなる可能性がある。

次第に浮かれていた喜びから気分が落ち込んでいくラーシャであった。



「うん? 何か心配事があるの」


ダンジョンから帰ってきた太蔵にいつもの様子で対応していたつもりのラーシャであったが、何かを太蔵は感じたらしくふいに彼女に尋ねた。

内心驚いた彼女はそれでも必死に不安を隠し 気のせいだと 努めて明るく接していた。

そして少しでもそんな表情を太蔵に見られたくないと思う心が、太蔵の胸に強く抱きつく行為で誤魔化そうとしたラーシャであった。




そんな彼女は数日後の朝には姿を消していた。

いつも太蔵の横にて眠っていた彼女の姿が目を覚ました時には居なかったのだ。


机の上に置き手紙を残したままの突然の疾走であった。

何か嫌な感じを抱きつつ太蔵はその手紙を手に取り読みだした。

短い文書にて書き綴られた置き手紙は太蔵の不安を増した。



任務が完了しました。明日からは別の女性が付き人になります。

短い間でしたがラーシャにとって心休まる期間を有難う。

もうお会いする事もないと思いますがお体に気をつけてお過ごし下さい。


*追伸 お腹の赤ちゃんは元気に立派に育てます。


短く業務的な文書であったが、太蔵は暫し固まって何度も読み返した。

文書の最後が少し字が乱れ何かしら滲んでいる様な気がした。


 もしかして 涙?


その箇所をじっと睨みつけるように目を離さず見つめていた。




「そうか 彼女も役目完了したのだな。それは彼女もほっと一安心したのではないかな」


田嶋氏等にラーシャの件を伝えるとそう答えて太蔵の肩を軽く叩いた。

どうすることも互いに出来ない、当初から分かっていたことであった。

だから田嶋氏等は出来るだけ明るく太蔵に接していた。


岡田・田嶋氏等は同じ様に当初の女性達は二人とも代わっていた。

少しでも異世界人の血をこの地に残そうとする企みであろう。

この異世界人とのハーフは特別な力が発揮される、是非にでもその血を残そうとする()()()の指示であるのは明白だ。


全身の力が何故か抜けて気力もいまいち出てこない太蔵は暫しダンジョン探索を中止すると決めた。

こんな状態でダンジョンに潜ればどんなトラブルに会うかも知れない。

来週には勇者達もこの国に帰ってくる、それまで首都内を探索して気分転換しようと思う。


考えればこの国で何も見ていない自分に気づく。

ほぼ部屋と各種ダンジョンの往復で終わった半年であった。

下手に部屋に籠もるより街で転移魔法の手掛かりを探してみようと思いつく。



今後は数日に一回の投稿予定です。

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